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♧before story♧ -bitter sweet- JUNG KOOK

※フィクションであり、実在の人物・団体とは関係ありません
9,496 文字

~ Reading BGM:SYML
( Fear of the Water / Where’s My Love / Wildfire / Meant to Stay Hid / Girl )~
✽ 私の頭の中のお話 ✽
♧before story♧ -bitter sweet-
JUNG KOOK
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2020/06/xx

韓国・ソウル、オリンピック主競技場を皮切りに、4月からスタートするはずだったワールドツアー「MAP OF THE SOUL TOUR」
新種ウイルスの世界的な感染拡大という誰も予想しなかった現実の前に、全公演の中止が発表された
世界中がまるで暗闇に包まれたような感覚だった
大好きなstageが奪われ、人との接触すら制限される中、思うような練習すら満足にできなくなった
次々とイベントが白紙になっていく現実を前に、僕たちはただ途方に暮れていた

この状況下で、俺たちはどうやって生き残っていくべきなのか——

連日のようにヒョンたちとstaffが集まり、何時間も、何ヶ月も話し合いが重ねられた
誰も正解を持たないまま、手探りで未来を探す日々
毎朝の体温測定、アルコール消毒の匂い、少しでも体調に違和感があれば、自ら隔離するように人との接触を断つ
張り詰めた緊張感と目に見えない恐怖に怯える日々が、もう何ヶ月も続いていた

『コンコンッ、ゴホッ』
数日前から、喉に小さな違和感があった
コンディション管理には人一倍気を配っていたはずなのに、かすかな咳が出る
万が一にもメンバーや周りのstaffに迷惑をかけるわけにはいかない
僕は自ら希望して、事務所の地下にある狭い仮眠室に籠もっていた

消毒液の匂いと、静まり返った室内
コンクリートの壁に囲まれた空間で、頭の中を占めていたのはツアーでも仕事でもなく——
彼女のことだった

最後に直接その肌に触れたのは、いつだっただろう
もう、2週間も前のことだ

”会いたい…
抱きしめたい……”

けれど、今の僕が彼女に触れることは許されない
もし僕の身体にウイルスが潜んでいたら?
彼女を危険に晒すことだけは、絶対に避けたかった

『……もう、寝てんのかな』
暗い室内で、スマートフォンの画面だけが白く光ってる

”sumi?今、大丈夫?”
”風邪、ひいてない?”

画面に表示された自分の送信メッセージを指でなぞった
昨日までは、時間を置けば必ずついていた「既読」の文字
それが今日に日付が変わってからは、一度もつかなくなった
📲ぷるるる~……ぷるるる~……
規則正しい電子音だけが虚しく響き、しばらく経つと無機質な留守番電話の通知に切り替わる
これで今日…何度目の発信だろう

最後に声を聴いたのは4日前
『無理しないでね?』
『ちゃんとご飯食べてね?』
自分のことよりも、いつだって僕の身体を心配していた彼女の優しい声が耳に残っている

”なんか…あった?”

直感がそう告げていた
ただ”こてちん”してるなら構わない
スマートフォンをどこかに置き忘れただけなら、それでもいい
でも、この異様な状況下

もし彼女が一人で倒れていたら?
もし感染して苦しんでいたとしたら?

『sumi……お願いだから、出てくれよ』
冷たくなった指先がかすかに震える
会えない距離と、直接確かめに行けないもどかしさが、容赦なく心を締め上げていく
画面の向こうの沈黙に耐えきれなくなった僕は、半ばパニックになりながらMGRの番号をタップした

📲ぷるるる~
「お疲れさまです、どうしました?体調、悪っ」
『ごめん、今すぐ車出してくんねぇ?少し、外に出たいんだ』
「えっ、でも……もう0時回ってますよ?それにジョングクさん今、微熱と咳……」
『わかってる!頼むよ……鍵だけでいい、俺、一人で行く!な?地下の駐車場に準備しておいてくれたらそれでいいから』
「ダメですよ、そんなの💦バレたらどれだけ怒られるか…」
『すぐ戻る』
「いや、でも…」
『ならいいよ、taxiで行くから』
「あっいや……💦はぁ、分かりましたよ…本当に行くんですね?短時間だけですよ?」
『……おん、ありがとう』
MGRの制止を押し切り、僕は上着を羽織って地下駐車場へ向かった

外は、叩きつけるような土砂降りの雨だった
助手席に放り投げたスマートフォンをスピーカーにして、彼女の番号を呼び出し続ける
激しくウィンドウを打つ雨音と、忙しなく左右に動くワイパーの音だけが、不気味なほど車内に響いていた
📲ぷるるる~……ぷるるる~……
「ただいま電話に出ることができません
ピーッという発信音の後に、お名前とご用件をお話し下さい――」
「ピーッ」という無機質な電子音が鳴る

『sumi?大丈夫か?……お願いだから大丈夫だって言ってよ‥今、そっちに向かってるから…なぁ、お願いだから電話に出ろよっ』
留守電に声を吹き込みながら、アクセルを踏み込む足に力が入る
胸騒ぎが止まらない
胸の奥が苦しくて、息苦しくて、吐き気まで容赦なく押し寄せてくる

なにか嫌なことが起きている
いや、起きようとしている――
胸のざわめきが、警鐘のように頭の中で鳴り響いていた

彼女の住むマンションの近くにあるコインパーキングに車を滑り込ませ、エンジンを切る
傘を開く時間すら惜しくて、僕は激しい雨の中へ飛び出した
冷たい雨粒が髪や服を濡らしていくのも構わず、スマホを濡れた耳に当てたまま、急ぎ足で彼女の部屋へ向かう
📲ぷるるる~……ぷるるる~……
『出て…sumi……出ろよ、頼むから!!おいっ!!!』
堪えきれなくて、思わず大きな声が出た
エレベーターを待つ時間すらもどかしくて、階段を駆け上がる
息を荒らしながら辿り着いた、見慣れた彼女の部屋のドアの前

🚪ピンポーンッ……ピンポーンッ…!
何度インターホンを鳴らしても、応答はない
静まり返ったドアの向こう
気配すらない恐怖に、背筋が凍りついていく
『……っ』
僕は濡れて冷たくなった指先で、ドアのテンキーパネルに触れた
暗闇の中に浮かび上がる青白い数字

“09、あいっ…090…あーいしっ、んでだよ!”

濡れた指が上手く反応してくれなくて、咄嗟に上着で指を拭い、もう一度ふたりの大切な数字を、震える指で一つずつ打ち込んでいく

「0901##0509」
🔑ピピピッガチャッ
鍵が解除される重い電子音が響き、ドアのロックが外れた

『sumi……?!おいっ!sumi、どこ…?!』
ドアを押し開け、足早に踏み込んだ室内は、息を呑むほど真っ暗だった
雨の音すら遠のくような、しんと静まり返った空間
遮光カーテンの隙間からわずかに漏れ出る街灯の光の筋が、かえって室内の濃密な暗闇を際立たせている
『ハッ…ハッ…sumi……?なぁ…sumi、sumi!!!!』
激しく階段を駆け上がったせいで乱れた息が、暗闇の中に虚しく消えていく
鼻腔をくすぐるのは、彼女の甘い匂い
確かにさっきまでここに居たはずなのに、部屋の中の空気はまるで時が止まったかのように冷たく、静止していた
視線が暗闇に慣れてくると、床に散らばったままの荷物や脱ぎ捨てられた服が目に入る
生活の痕跡は確かにある
それなのに、なぜだか部屋全体ががらんとしていて、圧倒的な「不在」を突きつけてくるようだった

『……なんで…なん…どこ、どこに行ったんだよ!』
僕は震える手で、何度も、何度もスマートフォンの画面を繰り返しタップした
暗闇の中で青白く発光する画面が、僕の青ざめた顔と、誰もいない部屋を虚しく照らし出す

応答のない画面
繋がらない発信音
ただの擦れ違いじゃない
何かが決定的に狂ってしまっている

理由のわからないとてつもない不安が、波のように押し寄せてきて息がうまく吸えない

『っんだよ!!なんでいねぇんだよ…っ!!』
誰もいない暗闇に向かって、抑えきれない怒りと恐怖を吐き出した
静寂を切り裂いた自分の声が、壁に反射して虚しく耳に届く
胸の奥を鋭いナイフで何度も刺されているような、耐え難い苦痛
喉の痛みも、コンディションのことすらも全部吹き飛んでいた

彼女がいない

ただそれだけの現実が、僕の世界を激しく揺さぶった

📲ぷるるるる~
🐥『おー、どした?』
『ヒョンッ!!sumiがいねぇ!!どこにもいないんだよ、どうしよっ……なぁ!どうしたらいい?!』
🐥『……えっ?ちょ、ちょっと落ち着けって、何?ど、どういうこと?』
『sumiが…どこにも、いねぇんだよ…っ』
🐥『まだ仕事かなんかで帰ってないんじゃないのか?いや…でも、もうこんな時間か
てか、お前、今どこにいんの?』
『……sumiの部屋、俺、外探してくる!』
🐥『ちょ、ちょっと待てって!!お前今、体調も……あっ、おいっ!ジョングガ!!』
📲ぷー…ぷー…ぷー…
ヒョンの制止する声を途中で振り払い、スマートフォンの画面を押し切った
冷たい雨が容赦なく降り続く外へ飛び出す
激しく打ちつける雨粒が、痛いほど僕の頬と心を叩きつけていた

とてつもない不安と恐怖が、黒い大波となって押し寄せてくる
僕は震える指で、何度も、何度も彼女の番号をタップし続けた

“sumi?なにがあった…?無事か?
なぁ……頼む、頼むから……出てくれよ…”

画面に表示されるのは無機質な呼び出し音だけ
『出ねぇええっ!…っ』
彼女が好きだった近所の小さな公園、休日に一度だけふたりで訪れたカフェ
彼女が嬉しそうに食べていたケーキ屋さん
深夜の街はすでに灯りが落ち、どの店も固くシャッターを下ろしている
雨音だけが不気味に響く暗闇の中を、僕はただがむしゃらに走った
雨水で濡れて重くなった服も、冷たさで感覚のなくなった足も、喉を焼くような咳も、今の僕にはどうでもよかった

頭の中にあるのは、彼女の姿だけ
息ができなくなるほどまでに呼吸を乱しながら、思いつく限りの場所を走り続けた
『ハッ…どこだ、ハッ…どこ…っ…どこにいんだよ…sumi…!』
雨と汗と涙で視界が歪む
街のどこにも彼女の気配はない
パニックで破裂しそうな頭の中に、ふと一つの可能性が浮かんだ

”俺の家か……?!”

もしかしたら、いつ帰ってこれるかもわからない僕を…僕の帰りを待って、僕の家に行っているんじゃないか

”そうだよな?sumi、……そうであってくれ”

縋るような思いで、僕は自分のマンションへ向かって再び走り出した
雨の中を夢中で駆け抜け、自分の家の鍵を乱暴に解除する
ぐちゃぐちゃに濡れた靴のまま玄関に足を踏み入れ、ドアを勢いよく開け放った
『sumi?!おいっ!sumi、居んだろ?!どこだっ?!』
祈るような叫びは、真っ暗な部屋の静けさに虚しく飲み込まれた
凍てついたように冷たく、しんと静まり返った室内

『sumi……っ!なんで……』
リビング、寝室、バスルーム、トイレ……ありとあらゆる部屋の扉を荒々しく開けて回る
クローゼットの中まで確認し、彼女の名前を何度も、何度も呼び続けた
でも、どこにも彼女はいない
明かりのつかない暗闇が、ただ僕の虚しさをあざ笑うように広がっているだけだった

“このまま、二度と会えなかったら――”

最悪の想像が頭をよぎった瞬間、膝から崩れ落ちそうになるほどの激しい恐怖と絶望が、僕の全身を支配した

——

🚪ピンポーンッ、ピンポンッ!ドンドンドンッ✊
嵐のようなインターホンの音と、激しくドアを叩く金属音が静寂を切り裂いた
『……?!sumi…?!sumi?!』
飛び起きるように玄関へ走る
濡れたズボンの裾が足に絡まり、水滴で滑る廊下で激しく転倒しながらも、僕は痛みすら感じず無我夢中でドアノブを掴み、力任せに開けた
🐥『ジョングガ!!お前、こんなところで何して…sumiいなくなったって、一体どういうことだよ!!』
息を荒らして立っていたのは、ジミニヒョンだった
『……っ、ヒョン…!どこにも…どこにもいねぇんだよ…sumiが、キュウニ…どこにも…っ』
僕の言葉にならない叫びと取り乱した姿に、ヒョンは息を呑んだ

🐥『ジョングガ…とにかく落ち着け!心当たりがある場所、もう一回探すぞ!俺も連絡してみるから、お前も諦めずに連絡し続けろ!いいな?』
『うん…ううん…っ、ヒョン、俺……sumiが居ねぇと、あいつがいないと…ダメなんだ…頼むから、sumiのこと……っ』
彼女を本当に失ってしまうかもしれない
その事実を突きつけられた瞬間、足がすくみ、血の気が引いて全身を震わせていることに気づいた

🐥『ジョングガ!しっかりしろよ!あいつだってお前がいなきゃダメなんだろ?!お前がそばにいてやらなきゃ…ダメなんだろーが!!』
ヒョンに肩を強く掴まれ、叩き起こされるようにして、僕たちは再び街へ飛び出した

思いつく限りの場所、二人の思い出の地
彼女の関係者――
探せる場所は全て探して回った

けれど
あの日を境に、彼女の姿を僕が目にする事は二度となかった

画面に虚しく響き続ける、永遠のようなコール音
送っても送っても、二度と「既読」になることのないメッセージ
暗闇の中でスマートフォンの画面を握りしめ、返ってくることのない返事を、僕はただひたすら待ち続けた

一日が過ぎ、二日が過ぎ
やがて季節の感覚すら失われていく

デビュー以来、どんなに辛くても一度だって休んだことのなかったレッスンを休んだ
食べ物の味も分からなくなり、何も口にしないまま、ただ真っ暗な部屋に閉じこもる
ドアの外で、ヒョンやMGR、staffが何度も何度もドアを叩き、僕の名を呼んでいるのは分かっていた
でも、今の僕にはその全てがどうでもよかったんだ

彼女のいない世界になんて
一体何の意味があるんだろう

カーテンの閉め切られた部屋で、僕は一人、天井を見上げていた
『……俺の部屋って、こんなに広かった?このベッドも…こんなに大きかったっけ』

彼女が隣で笑っていた場所
二人で縮こまって並んで寝た、あのあたたかな温もりの残像
一緒に過ごした膨大な時間の思い出が、鋭い刃となって今の僕の胸を容赦なく締め付ける

彼女が姿を消したあの日から、僕はまともに眠ることができなくなった
瞳を閉じれば、二度と会えない恐怖が暗闇となって襲いかかってくる気がしたから

“なんで、なんも俺に言わなかった……?”
“俺が頼りなかったから…?”
“俺の、浅ましい邪な気持ちに気づいて…
怖くなったか?”

静まり返った部屋で、答える者のいない問いかけだけが虚しく響く

”なんで俺を、一人にすんだよ…sumi”

——

あれから、どれくらいの時間が経ったのだろう
今日は何月何日で、今は昼なのか夜なのかすら分からない
暗闇の中で静まり返っていた部屋の中、僕は重い体を起こし、すっかり充電の切れていたスマートフォンにケーブルを差し込んだ
📱ピッコーン
画面が明るくなり、電源が入った瞬間、耳障りなバイブ音とともに画面を覆い尽くすほどの通知が雪崩のように押し寄せてきた

【着信 230件】
【未読メッセージ 520件】

『ヒョン……』
画面を埋め尽くしていたのは、6人のヒョンたちとマネヒョンの名前だった
休むことなく届いていた心配と無事を祈る言葉の数々
僕が暗闇の中に一人で閉じこもっていた間も、ヒョンたちは、絶えず僕の手を握ろうとしてくれていたんだ
画面を眺めていると、手に持っていたスマホが激しく揺れた
📲ぶーぶーぶー……
『……はい』
喉が掠れて、うまく声が出ない

🐿️『ジョングガ!!生きてた!!』
🐨『ジョングガ!心配したんだぞ!』
🐻『ジョングガぁあーっ、よかったぁ……!』
スピーカー越しに聞こえてくる、耳が痛くなるほどの大声
電話の向こうで好き勝手に騒ぎ出すヒョンたちの、いつもと何一つ変わらない声を聞いた瞬間、凍りついていた胸の奥がじんわりと熱くなり、痛みがほんの少しだけ和らいでいくのが分かった
『……ヒョン、いっぺんに話すと何言ってるか聞こえないよぉ…』
弱々しく呟いた僕の声に、電話の奥が一瞬静まり返り、静かに‥だけど誰よりも力強い声が届いた

🐹『ジョングガ、今からそっち行くからな』
『……ジンヒョン?』
それだけ言うと、電話は切れた
1時間ほど経った頃、部屋にインターホンの音が響いた
重い体を引きずるようにベッドから起き上がり、玄関のドアを開ける

🐹『よっ!ジョングガ、腹減ってるだろ?
ほら、テジクッパ作ってやるから待ってろ~😚』
両手いっぱいに食材がパンパンに詰まったスーパーの袋を掲げ、ジンヒョンがいつもの眩しい笑顔で立っていた
部屋の中に踏み込んでくると、荒れ果てた室内には目もくれず、僕の顔を覗き込んで大袈裟に鼻を鳴らす
🐹『ヤーヤーヤー、お前なんか汚いぞ!w 髪もボサボサだし!ほら、先にシャワー浴びてこい!メシ、できたら呼ぶから』
『……あっ、おん』
追い出されるようにバスルームへ向かい、脱衣所の鏡の前に立った
そこに映っていた、あまりにも無惨な自分の姿に思わず苦笑いを浮かべた

ボサボサに伸びきった髪に、まばらに生えたあごひげ
引き締まっていたはずの筋肉は削げ落ち、肌は青白くカサついている
濡れた瞳と、右手に深く刻まれたタトゥー
そこにいたのは、愛する人を失い、自分を見失ってボロボロになった、あまりにも惨めな男の姿だった

“あぁ…俺、なにやってんだろ”

蛇口をひねり、温かいシャワーを浴びながら、濡れた右手の甲を見つめた
そこに刻まれた「ARMY」の文字が、まるで僕を責めるように、じんじんと熱く疼き出す

この文字をここに刻んだ時の覚悟
stageで歌う意味
守るべき仲間たちと、僕を待ってくれているファン
そして、彼女が愛してくれた
”BTSのJUNG KOOK"という存在

“んなこと、してる場合じゃねぇよな……”

髪をぐしゃぐしゃと洗いながら、僕は溢れ出そうになる涙を必死にシャワーの水流で洗い流した
立ち止まっている場合じゃない
僕はもう一度、自分の足で立たなきゃいけないんだ

——

🐹『ジョングガ、もうすぐできるからな!』
『ヒョン、俺も手伝うよ』
🐹『おっ、助かる!なんか懐かしいな😆
合宿所時代はこうやってよく一緒にキッチンに立ったよな』
『おん、料理すんの…好きだしね』
コンロの前に立ち、手際よく鍋を混ぜるジンヒョンの後ろ姿を見つめる
華奢に見えるけれど、僕にとってこの人の背中は、世界中の誰よりも大きくて頼もしい

嬉しい時も、落ち込んだ時も、悲しくて押し潰されそうな時も
いつだって僕の隣で、少し大袈裟に、馬鹿みたいに大きな声で笑ってくれる人だ

『俺はデビューするべきじゃなかったのかもしれない』

なんてことさえ、昔、この人は平然と口に出した
それでも惜しみなく努力を重ね、いつだって自分よりメンバーを、チームを最優先に考えて、誰よりも強く立ち続けてくれた
そんなジンヒョンの背中が、僕は昔から大好きだ

🐹『よぉしっ!うまそ~にできたぞ!
ジョングガ、さあ食うぞぉっ!』
『……ほんとだ、うまそう』
🐹『よしよし、いただきますっ!ほら器貸してみ、スープ熱いからな😏火傷すんなよ?w』
『いただきます…ああっつ!』
🐹『ヒャヒャヒャッ!だから言ったろ!w お前は昔から全然変わらないなぁ』
香ばしい出汁と唐辛子の匂い、立ち上る温かい湯気

”あれ?なんだ…?”

手に持っている熱々のテジクッパが入った器が、ぐにゃりと歪んで見えた
視界が急激に滲んで、ポロポロと大きな粒の温かいものが頬を伝って、スープの上にポタリと雫が落ちた
🐹『あーあ、辛いのが好きなお前でも、さすがにちょっと辛かったか?w』
ジンヒョンがわざとらしく笑いながら、僕の顔を見ずに自分のスープを啜る

“いつもはこんなに辛く作らないじゃん……
どんだけ唐辛子入れたんだよ、こんなの…こんなのヒョンだって、食べらんないだろ…”

溢れて止まらない涙のせいで、もう目の前の料理すらまともに見えやしない
しゃくりあげる声を必死に殺しながらスープを口に押し込む僕に、ヒョンが優しく、包み込むような声をかける
🐹『ジョングガ……いいんだよ、それで
ほらいっぱい食え!…にしても、これかれぇっ🥵ヒャヒャヒャッ!』
涙と鼻水でぐちゃぐちゃになりながら、僕はひたすらスープを飲み干した
胸の奥に溜まっていた冷たくて重い塊が、温かいスープと一緒に少しずつ溶け出していくような気がした

『……ジンヒョン』
🐹『ん?』
『俺…明日から、ちゃんとレッスン行くよ』
🐹『おっ、そうか!まあでもさ、レッスンも大事だけど、それよかみんな、早くお前に会いたがってるよ😚顔、見せてやってくれ…』
『……おん』
🐹『よし!じゃあ今日は久しぶりに一緒に寝るかw マンネよw』
『……仕方ないから、一緒に寝てあげるよw』
🐹『ヤー!仕方ないってのはこっちのセリフだわ!w』
満腹になったお腹と、じんわりと温まった胸
ベッドに入ると、僕は吸い寄せられるようにジンヒョンの背中に潜り込んだ

中学生の頃、親元を離れて不安でたまらなかったあの頃に戻ったように、僕はヒョンの大きな、大きな背中にぎゅっとしがみつく
ジンヒョンの体温と、聞き慣れた規則正しい呼吸の音
彼女が消えてからずっと失われていた安心感が、ようやく胸の奥に戻ってきた
その温もりに包まれながら、僕は糸が切れたように深い眠りへと落ちていった

——

あれから、2年と7ヶ月
僕たちはひたすら、目の前の闇を切り裂くように走り続けてきた

苦しさも、悔しさも、血の滲むような努力も――
積み重ねてきた全てが大きな結実となって僕たちの手元に戻ってきた

Stageの上に立てば、耳を打つ地鳴りのような歓声と、視界を埋め尽くす満天の光
世界中から溢れんばかりの称賛を浴び、グループとしても個人としても、世界に向けた僕たちの挑戦は間違いなく大成功を収めたと言えるだろう
今、僕たちの周囲は世界中のARMYからの温かな愛で満ち溢れている

世界のトップに立つ、BTSのJUNG KOOK
26歳の、チョン・ジョングク

どちらも偽りのない“僕”であることに変わりはない

だけど――

すべての肩書や重圧、世間の視線というしがらみを全部脱ぎ捨てて
ただひたすら愛する彼女のそばで
喜び、怒り、悲しみ、一緒に笑い、一緒に泣く
ただ一人の女性だけを愚直に愛し抜く
”一人の男”でいられたら……

最近の僕は、そんなことを夜の静寂の中で考えることが増えていた

それはきっと、長い遠回りをしてようやく再び手に入れたこの幸せを
二度と手放したくないから

そして何より――
今、僕のすぐ隣で小さな寝息を立てて眠る彼女の存在を

二度と失いたくない、からだ

『……ふぅ』
そっと伸ばした指先で、彼女の頬にかかる髪を耳の後ろへ静かに払う
伝わってくる、確かな体温と柔らかい肌の感触
あの暗闇の部屋で一人絶望していた日々が嘘だったかのように、彼女は今、僕の腕の中にいる

“なぁ…sumi”

心の中で、眠る彼女に向かってそっと問いかける

“あの時…あの2年7ヶ月前、お前に何があったんだ……?”

奇跡的に再会を果たしてから、何度もあの日の理由を尋ねたけれど、彼女はいつだって困ったような、どこか愛おしそうな顔で優しく首を振るだけで、理由を話してはくれやしない
語ろうとしないその理由はきっと……
考えるまでもなく、全て僕に関係していることだからだ

『平気だよ』
そう言って柔らかく笑う時は、いつだって自分のためじゃない
全部、僕のためなんだ

『グクは、そのままでいいんだよ』
そう言って、僕の光も影も、痛みさえも、たった一人で全部受け止めようとする
僕を輝かせるために、自分を殺して陰に隠れようとする

”……バカな奴”

濡れた瞳で眠る彼女のおでこに、静かに唇を押し当てた
二度と離さないと誓ったはずなのに、守られているのはいつだって僕の方なのかもしれない

もう二度と、その手を放さない
隣で眠る彼女を抱きしめる腕に、僕は少しだけ強い力を込めた

俺は……
今の俺は、お前に一体何をしてやれるのだろう

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