実録!パワハラ草野球
2人は、それぞれさまざまな想いを胸に秘めながら河川敷の野球場へ連れて行かれた。
到着すると、借り物のユニフォームに着替えさせられ、ストレッチもそこそこにキャッチボールが始まる。
他のチームメイトたちは、僕たちが部長に激ギレされる様子を、笑いを堪えながら眺めていた。
そんな空気とは裏腹に、お酒の余韻が残っていた僕たちは、だんだん楽しくなってきていた。
天使先輩とモノマネをしながら投げ合っていると、部長に見つかる。
そして当然のように怒られる。
日曜日まで、この人なんなんだ。
てか日曜の方がキレてねえか。
そんなことをぼんやり思っていた。
肩が温まった頃、部長がキャッチャーミットを構えた。
お前さっきから見てると球良いな。
「今日は暑いからな。ストライク入るならリリーフいくかもしれん。」
「さあ俺に投げてみろ。」
突然の投手適正テストが始まった。
久々だったせいか、不思議と身体は動いた。
ストライクも入る。
増えた体重のおかげか、球にも少し力がある。
「お前、やっぱ重くていい球投げるじゃん。なんかあったら頼むな。」
そう言われた瞬間、少し嫌な予感がした。
ピッチャーなんて、放課後に遊びで投げたくらいしか経験ないぞ。
そしてスタメン発表。
僕と天使先輩は必死にライトのポジション争いをしていた。
しかし、サウスポーの先輩が当たり前のようにライトを獲得。
僕はセカンドになった。
やったことねえ。
まあ、エラーしたら、
「すいません。パワプロでも他のポジション守れないんですよ。」
くらい言えば許されるだろう。
そんな軽い気持ちだった。
幸い打球はあまり飛んでこず、無難に守備をこなす。
打撃では、僕も天使先輩も長打になりそうな当たりを放った。
しかし、前日のアルコールが残っている。
二人とも全力疾走はせず、一塁に張り付く。
助っ人外国人みたいなプレースタイルで、8番と9番を独占していた。
「あと1イニングで終わりか。」
そう思った時だった。
「お前、最終回行くかもしれないから準備しとけ。」
部長に呼ばれる。
いやいや。
今日のピッチャー、普通に調子いいじゃないですか。
そう思いながらも、部長相手に何球か投げる。
どうせ投げるなら。
松坂大輔になりきって。
躍動感だけは一流のフォロースルーモノマネ。
正直、投げたいというより、そのフォームをやりたかっただけである。
すると部長が近寄ってきて、頭を軽く小突かれた。
日本シリーズで見たことがある光景だ。
やられる側になると、普通に腹が立つ。
俺はプロ野球選手を目指してるわけじゃないんだけど。
やれやれだぜ。
心の中だけ承太郎になりながら、さらに何球か投げる。
「よし。これなら使えるな。」
部長は満足そうだった。
使えるなじゃねーよ。
バーカって顔をしてたと思う。
僕は再びセカンドへ戻った。
これで終わる。
そう思っていた。
最終回。
相手は初球、セーフティーバント。
ピッチャー前に転がった打球に反応して軽快に捌く。
アウト一つ。
その瞬間だった。
ピッチャーが足を攣った。
え?
どした?
あと2人だからいけるよね?
セカンドから祈る僕。
その願いも虚しく、監督兼任キャッチャーの部長が動き出す。
審判に何か報告してる。
足を攣ったピッチャーはライトへ。
ファーストには天使先輩。
ファーストがセカンドへ。
そして。
気が付けば、僕がマウンドに立っていた。
「おかしいって!」
他に投げれるの隠してるやついるだろ。
僕の心は揺れていた。
遊びで立ったことはある。
いざ試合で立ってみると遠い。
マウンドって、こんなに遠かったっけ。
「フォアボール出したら〇〇す。」
その一言だけ言って去っていく部長。
僕から躍動感は奪われた。
そうなると、ただのバッティングピッチャーである。
ストライクしか投げられない。
当然、めった打ちをくらう。
アウト二つが、とにかく遠い。
いつもクーラーの効いた部屋で、中継を見て生意気なことばかり言っていた。
プロ野球選手の皆さん。
申し訳ありませんでした。
そんな気持ちになりながら、とにかくストライクだけを投げ続けた。
あとは野球の神様任せである。
センターのスーパーファインプレー。
ようやくツーアウト。
あと一人。
しかし、そこからも打たれ続ける。
こういう時って、誰かマウンドに来て励ますもんじゃないのか。
ファーストを見る。
天使先輩。
少し眠そう。
ワンチャン長打しか打たれてないから寝てるかもしれない。
周りを見る。
「こいつ、めちゃくちゃ打たれるやん。」
そんな空気で半笑い。
マスク越しの部長だけが、本気でキレていた。
ただフォアボールは出していない。
そこだけは守っている。
最後の打者。
ファウル。
またファウル。
またファウル。
気付けば十球以上粘られていた。
もう勘弁してくれ。
そう思って投げた一球。
力みすぎて指から抜けた。
全力投球と同じ腕の振り。
結果的にチェンジアップのようになり、
タイミングを外される打者。
空振り。
その瞬間、まるで完封勝利でもしたかのように、思い切り1番ポーズを決めた。

両チーム、大爆笑。
河川敷。
炎天下。
爆笑する選手たち。
そして、一人だけ本気でキレている部長。
河川敷の野球場は、夏の暑さも相まって、完全にカオスだった。
試合後、クールダウンのキャッチボールをしていると部長が近付いてきた。
「天使は今日だけで解放してやる。」
そう言ったあと、僕を見て続けた。
「お前は人足りない時、レギュラーな。」
「今日は練習試合だから〇〇さないけど、本チャンなら分かってるよな。」
……え?
「ピッチャーは、もういい。
お前、元々どこ守ってた?」
「サードですけど。」
「ほう、なるほど。」
「良いじゃないか。
俺のノックで鍛えてやる。」
「お前のバッティングを買った。」
「俺たちのチームへようこそ。」
「喜べ。これからは毎週、好きな野球を存分にしに来てもいいぞ。」
2/3回8失点した男は、打者として晴れて草野球チームへ強制入団することになった。

ここから僕は、野球経験のある後輩が入社してくるまで約2年間。
草野球と呑兵衛の二刀流生活を送ることになった。
これが、僕たちの会社で実際に起きた『実録パワハラ草野球』である。
※この記事に描かれたことは、多分フィクションです。


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