くろいなみだ 15
物理学者が世界の仕組みを解いたとき。
人類は終わり、次の文明が始まる。
俺はそのまま何も考えずに眠りについた。
目が覚めても、やや明るいだけで、太陽が見えないようだ。
黒雲が、全体をあおっているのか。これほど天気が悪いなら、雷も鳴ってもいいのだが。昨日と全く同じ風景、そして変わらぬぐずぐずの天気だった。
「雨具を作ってるのか?
一瞬、ムトーに対して驚いた様子を見せた後、ふぅとため息をついた。
「そうね、今の時代、雨具がなきゃ雨生きていけない、あの雨のせいで、わたしらの仲間は消えていなくなり、あの雨のおかげでわたしたちは生きている。
「教えてくれ、あの雨はなんなんだ。俺が気が付いた時にはあそこに寝ていて、そして気が付いたら痛みと共に衝撃が走って…。
「はしって?あんた、まさかソーサラーなのかい?それであんな事を?
「まってくれ、俺は決して自ら死ににいくような人間ではない。そんな事をするくらいなら、俺は根源を潰す。イジメが存在するのなら、いじめる奴を片っ端からのすようなものだ。
「そうかい。でも、あの雨で何かを見たのなら、レインソーサラーの素質もあるだろう。雨具屋なんかより、ずっと裕福で、そして村から讃えられるだろうね。
「おかみさんも、やればいいのに…
「やりたくてもやれないのさ。生まれ持った才能というのかね、この世界はね、生まれた時点で運命は決まってるのよ。とはいっても、わたしは頼まれたってやりはしないよ
「高給なのか…?その、そーさらーというやつは。、いったい何をするんだ?
「それは簡単さ、想起すればいいだけ。雨に打たれて、その時にそこでみたもの、感じたものを伝えるだけさ。
いいかい、あんたは何にも覚えちゃいないだろうから伝えるけれど、ソーサラーなんてやるんじゃないよ。あんた、見たところまだ若い。いや、青年と言ったところだ。でも、まだ顔が整っている。
「顔?
「まあ、とにかくソーサラーのことは忘れな。そして、もうこれからは勝手に家を出るんじゃあないよ。
この家にはそういえばお風呂も、洗面台もなかった。
「ムトー!ちょっと来てくれるか?
その声は幌筵のものだった。
「すまないムトー、ひとつ頼み事なんだがな、ちょっと高台がこの先にあってそこへ一緒についてきてくれるか。
「ああ、いいぞ。なに、俺の記憶が未だ朧げなんだ。思い出せなくてどこにもいけやしない。
そう言って、幌筵は機械でも入っているかのような形の重い傘を渡した。
俺はどこから来たんだろうか。ふと脳裏をよぎる。
平屋を出て、少し歩いたところに高台が見えた。薄暗く、そしてしとしとと降り続ける雨の中を歩いていく。幌筵は俺に足元に気をつけろ、とだけいう。地下に何かが眠っているのか、そう思ったが単なる雨だった。
どうして。
高台に着いた俺は不思議でたまらなかった。
眼下には家々。
全部の屋根が異様に急勾配になっている。
巨大な貯水槽、畑には直接雨が当たらないよう、
何かが被せてある。
ぽつぽつと現れる村人は傘を差しているが、誰一人として雨そのものには触れていない。
「なあ。なんで誰も雨に触れないんだ?
「死にたくないからだ」
「でも、さっきおかみさんは、雨のおかげで生きてるって言ったぞ、まあそのおかげで仲間は死んだってのはほんとなのか?」
「ああ、俺たちは、この世界じゃあ居場所のない生き物なんだよ。ろくに生きていくことができない。それがここの掟だ。見てみろ、あの雲を。あいつのせいでな、俺たちは生かされて、そして人生は翻弄されているんだ。
「俺の顔が焼けたように痛かったのは…
「雨だ。あの雨なんだ。
「あれは…なんだ。
遠くにそびえ立つ、黒く、高い城があった。
「天蓋の城よぅ。
明らかに、異質だった。多くの小屋は小屋というのに等しい貧しい者が住む、小さなつくりだった。しかし、黒くそびえ立つその城は雨をもろともしない施設だった。
「天蓋は…天蓋とは。
「雲を調べてる連中さ。
「村の子どもは泣くと『天蓋へ連れていくぞ』って脅されてたな。
「この雨が植物にとって恵みで、なぜ俺たちにとって害なのか。その雨を作り出す雲を研究している機関だ。
「おい、、この雨、いつから降り続けてるんだ?
さあね。
俺が生まれた時から振り続けているよ。
幌筵はそう言いながら黒雲を見上げた。
その空の向こうに、太陽があるとはとても思えなかった。
(続く)
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