「お母さんが大変なら」と言われた日のこと
「お母さんが大変なら、療育センターで診てもらいますか?」
1歳半健診で、保健師さんから言われたことば。
健診の前から、なんとなくそわそわしていた。
迎えた当日、初めて行く場所で、
理由のないドキドキがあった。
体重も身長も問題なし。
歯も、奥歯以外はしっかり生えていた。
指差しもできていたし、こちらの言うことも、
ある程度わかっていたと思う。
ただ、
ことばだけが、まだだった。
三語文が出ていなくて、
保健師さんに勧められるまま、
「ことばの相談会」を予約した。
「お母さんが大変なら」ということばが、
正直、よくわからなかった。
だって、子育てはまだ1年半。
息子を育てるのは、これが初めてだ。
比べる相手もいないし、
基準も、よくわからない。
みんな同じように手探りで、
みんな同じように大変なんだと思っていた。
もし、ここで
「大変です」と認めてしまったら。
私のこれまでの1年半の子育てが、
どこか間違っていたような気がした。
そしてそれは、
息子のことまで否定してしまうようで、
胸の奥が、ぐっと苦しくなった。
後日、ことばの相談会に行った。
息子の様子を少し離れたところから観察してもらい、
いくつか質問に答えて、
これまでの生活のことを話した。
特別なことは、何もなかったと思う。
いつもの息子で、
私が知っている息子のままだった。
それでも、最後にまた、同じ言葉を言われた。
「お母さんが大変なら、
療育センターで診てもらいますか?」
少し間があって、続けてこう言われた。
「でも、他に特に気になることはないですし、
一旦また、2歳のときにお電話する、
でもいいですよ。」
急かされることも、
決断を迫られることもなかった。
だからこそ、
どう受け取ればいいのか、
余計にわからなくなった。
正直、あのとき
「療育の相談に行ったほうがいいですよ」
とはっきり言われていたほうが、
気持ちは、きっとずっとすっきりしたと思う。
行くか行かないか、
白か黒か、
どちらかを選べばよかったから。
でも、現実はそうじゃなかった。
あのときは、とりあえず
そのまま「様子見」を選んだ。
決めた、というより
それ以外の選択肢が思いつかなかった、
というほうが近かったかもしれない。
しばらくして、
あのとき胸に残っていたモヤモヤが
少しずつ薄らいだころ。
2歳の様子確認の電話がかかってきた。
ヒアリングで聞かれたのは、
とてもシンプルな質問だった。
「お母さまとしては、
お子さんの成長を感じられますか?」
「言葉は、増えましたか?」
そりゃ、
言葉は増えたし、成長もしていた。
昨日できなかったことが
今日はできるようになっていて、
その積み重ねを、毎日そばで見ていた。
だから私は、
「はい、増えました」
「成長していると思います」
そう答えた。
ただ、心の中では
平均くらい話せているかと聞かれたら、
そうは思えなかった。
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