どんぐり農家を続けるべきか・・・#37 クニャクニャWAR
どんぐり農家を続けるべきか・・・
約二か月間、樫椎の春の大イベント『樫椎労働ドラフト会議』でドラフト2位で御指名頂いた関谷学園様の仕事が終わった。
仕事の内容については、職員が「守秘義務がどうとか」面倒臭いことを言っていたが、よく分からないので、いずれ書こうかと思う。
関谷学園様の仕事が終わり、一緒に働いたドラ1の太郎めとドラ2の自分とドラ3の椎山地区の蘇我勝男の三人で打ち上げを蛇平でやろうまいかという話になった。
蘇我勝男の行きつけであるという蛇平の飲み屋に到着すると、自分も昔きたことがある”かなへび”という店だった。
――マジか!
そこに入ると、驚いたことに超大物アーティストが二人で飲んでいたのだ。
あの樫椎の音楽シーンを生み出している”ホレストウッズ・ヱンターテヰンメント”の二代目社長であり所属アーティストでもある仁見平太と、飛ぶ鳥を落とす勢いだったがメンバー内の問題で活動休止を発表したDONGURISの梅男の親父が飲んでいたのだ。
「あれじゃねーっちか?ギャラガー兄弟より仲が悪いという梅男親子のいざこざでDONGURISが活動休止になったちから、社長の平太めがなだめているのであろう!」
太郎が知ったかで言うのだが、どう見てもそうは見えなかった。
「イェ――――ッ飲もっちぞ!フォ――――ッ!アゲェ――――ッ!」
我々や他の客もいるのに、ホレスト社長の仁見平太がやたらうるさい。

別に年齢はどうでも良いのだが、それにしてもアラフィフと言うのにずっと「ホーゥッ!」とか「アゲーッ!」とか喚いている。時々「ダンケシェーン!」とかドイツ語を挟んでくるのがイラっとくる。
「ぶんなぐっちやる!」
蘇我勝男がガタンと椅子から立ち上がった時である、
「頼もうーっち!」ドアがガラガラと開き、70歳ぐらいの爺さんが勢いよく店に入って来るや否や、仁見平太に向かい、飲み屋の汚いコンクリートの床に平伏し、額を擦り付けた。
山の有名人で知らぬ者がいない”平 ひろし”だった。
仔馬宿や蛇平を中心に山のどこかで、誰も聴いていない路上ライブを延々と続ける爺さんだ。
「うるさいっち!」と近所の者が追い払おうとしても、立ち退き料を払わない限り、絶対に立ち退かず、ひたすら演奏して歌い続ける爺さんだ。
土地の広い山でわざわざ個人宅のすぐ近くで演奏するところが本当にタチが悪い。
仁見平太は明らかにテンションが下がり、
「また、爺さんっち……平ひろし、酒まじ――……」と呟く。
逆に梅男の親父はテンションが上がったのか声が大きくなって、
「”平ひろし”じゃーん!こんなヤツに土下座して、何してるんちか爺さん!」
どんぐり焼酎を一気に飲み干す。
「DONGURISのお方が、俺っちめなどを知っておられますか……」
爺さんが梅男の親父の手を握りしめた。
「超有名人っちじゃん!いつも仔馬宿の潰れたコンビニの前で誰も聞いてないのに、路上ライブやっては塩投げられてる哀れな爺さんがいると話題騒然であろう!」とゲラゲラ笑うとさらにバカにしたトーンで、
「今日はどうしたっち?爺さん。物乞いか?」
床で感涙にむせぶ老人を椅子の上から見下ろしながら笑った。
たちまち平ひろしの顔が真っ赤になり叫び出す。
「なんだぁ!キサマァッ!」
平ひろしが立ち上がり掴みかかるのをヒラリとかわすと、梅男の親父は
「俺っちは”殴られ屋”っちから、やるなら1500円を出せ!三分間好きなだけ殴らせてやるっち。ヨボヨボの爺さんじゃ、俺に当てることもできねーか」
「かっくらかしてやるっちぞ!」
真っ赤になった爺さんが震える手でカウンターに1500円を叩きつけると、ママが割って入る。
「迷惑だからそこのステージでやんなよ!」
三分後、息を切らす爺さんと、涼しい顔の梅男の親父がステージから戻ってくると、梅男の親父は1000円をポケットに押し込み、500円をママに渡した。
「爺さん、悪かったよ。で、なんで仁見平太ごときに土下座したっちか?言うてみせよ!」
一転、梅男の親父が優しく爺さんの肩に手を置く。
「もうデビューさせてくれ……ワシはもうシンガーソングライターを志して54年。もうデビューさせてくれてもいい頃っちであろう!ワシの名曲”Loveシリーズ”も今や400曲に到達しそうっちぞ!」
仁見平太は心の底から嫌そうな顔で
「嫌っち!頼んでもないのに毎日、爺さんの歌声録音したテープ送りつけて来るし!テープだけは上からDONNGURISとか他の曲録音して売ってるけどツメ折るなっち!」
「なんだ爺さんこんなヤツより、センスも人気も遥かに上の俺が聴いてやるっちぞ! 仁見平太の20倍以上、DONGURISの方が売れってっかんな?今テープないっちか――?」
梅男の親父が言うと、爺さんが風呂敷を広げてレコーダー付き再生機”ホレストレコーヂングマシーン”とテプラで貼られた録音機能付きの小型録音再生機をカウンターに出した。

2008年発売 実売価格39、800円
「俺っち最高のラブソングでLoveシリーズのTOP OF TOP! 俺っちの総決算と言えるような究極のラブソングが”DEAR MY LOVE”っち。 聴いてみてくれ、感動するっちぞ~
」そう言ってカウンターで再生し、”DEAR MY LOVE”が店内に響き渡った。
内容はともかく74歳とは思えないほど美声だった。部外者だが自分と太郎は拍手した、蘇我勝男は「気持ち悪い――っち」と言っていた。
「ダッリ――――!なんかヤなんだけど!ノリわりいし!ダッリ―!」
ホレスト二代目社長の仁見平太が大人とは思えない感想を叫ぶ、そのとなりで、梅男の親父がニヤニヤ笑っていた。

「爺さん。歌うまいっちな、でもなーペラッペラなんだよな!名曲ラブソングの良いところを全部削ぎ落してから、鍋にぶち込んで煮込みましたって感じだわ。」
梅男の親父がニヤニヤ笑いながら指を差す。
「爺さんの人生が、”立ち退きで食ってる”ぐらい、ペラッペラだからこんなペラペラソングを歌ってんのか?」
それを聞いた仁見平太がチンパンジーのぬいぐるみがシンバルを叩くように、知性のかけらもない笑顔で両手をパンパン叩いて大爆笑した。
「それっち――!それ!ペラッペラ!爺さんの歌は紙よりペラペラっち――」

「なんだちっ!キサマ!仁見平太なんて、皆になんて言われているか知っちるのか!『聴くとバカになるから子供は聴くな!』っち言われておるのだぞ!」
爺さんに自身に対する世間の評価を聞かされて、仁見平太の顔色もみるみる赤くなっていった。
「俺っちバカじゃね――んだけど!県農でも500人中……4、300位ぐらいだったんだが!俺っちバカじゃね――し!」
仁見平太はカウンターをバンバン叩いたり、何のつもりなのか入口ドアをバタンバタン開け閉め開け閉めして怒りをあらわにした。
”ホレスト社長”の仁見平太”と、立ち退き路上ライブ爺さん”の平ひろし、二人が顔を真っ赤にして震えて怒るので、店内がどんどんカオスな状況になって行った。
真っ赤になって震えていた爺さんが、仁見平太には言い返して多少溜飲は下げたのだろう。今度は梅男の親父に掴みかかる。
「ペラペラではないであろうが!取り消せ!DONGURISのお荷物の分際で―!一人だけジジイが10代のバンド入りやがって!表出ろっち―!」
「爺さん、言ったはずだ、俺っちは殴られ屋だ。やるなら1500円払え。一方的に殴らせてやる。まあ、そんな根性ねーか―……」
ママが「プッ」と吹き出し失笑して、「アラアラ……」と言うと、
爺さんは怒りに震えて立ち上がると、またしても1500円をカウンターに投げるように置いて、ステージに梅男の親父を殴りに向かった。
そして案の定、三分後、「ヒーヒー」と肩で息をする爺さんと、
涼しい顔の梅男の親父が帰って来ると、1000円をポケットに押し込み、
500円をママに渡す。
梅男の親父は悔し泣きする爺さんの肩に、そっと手を置くと、
「爺さんよー『♪ディア マイ ラブ~』って部分を『♪ペラペララブ~』に変えたらいいっちじゃね?」
すかさず、ハイチュウをクッチャクッチャ噛んで、歯の裏側に張り付いたハイチュウを指で剝がしていた仁見平太が、カウンターをバンバン叩きアホ丸出しの爆笑をみせる。
「いいっち!ペラペラ ラブ!ペラペラ ラブに変えろよ爺さん!パッリーンと来たっちぞ!」
爺さんが「聴くとバカになる歌を歌ってるヤツに言われたくないっちわ!」
そう答えたものだから、仁見平太と平ひろしは、誰にも促されていないのに勝手にステージまで歩き、ステージ上で掴み合いになった。
二人ともいつまで経っても掴み合いが終わらないので、ママが席に戻れとキレぎみに促す。

「社長!そりゃ爺さんも怒るし、バカにされるわ。”ペラペラ ラブ”に変えたらデビューさせてやるぐらい言ってから笑えよ。”聴くとバカになる”だけあってバカだなぁ。お前。」
梅男の親父が今度は仁見平太を煽りにかかる。
仁見平太が真っ赤になり、一連の流れを経て、仁見平太と梅男の親父がステージに向かうが、やはり、あっという間に三分が過ぎ、梅男の親父が涼しい顔で帰って来ると1000円をポケットに押し込み、ママに500円を渡す。
その時の二人の”してやったり”のにやけたアイコンタクトを見てしまった。

――完全に思い出した!
自分がこの店に来るのを辞めた理由を。
ピアニカを持って幼子がピアニカに息を吹き込むと、コイツがピアニカの鍵盤を押し込み弾き始める。
多分、あの健気にピアニカに息を吹き込んでいたのが梅男だったのだろう。
同時にコイツが歌うのだが、他の客の前で、もの凄くこちらを馬鹿にした内容で、怒りが込み上げて飛びかかると、当時は750円だったが、キッチリ払わされて、ステージで好きなだけ殴ってみろと言われるのだ。
そしてもちろん本気で殴りかかるのだが、どういうわけか、これが何故か当たらない。
ボクシングのスウェーやウィービングみたいな技術を伴う、格好良い回避でなら、”やってる奴かよ……”と諦めがつくのだが……
梅男の親父の場合は、説明しずらいのだが、なんか”クニャ”っとなってパンチが当たらない。

何度も何度も殴りかかるのだが、当たったと思ったら”クニャ”っとなって当たっていない。
その”クニャ”っとなった時のポーズや顔がまた、憎たらしくて怒りが増幅するのだ。
そして席に戻ると、自分の金を分配されて、ママとニヤニヤされて、震えるほど怒りが込み上げてくるが、そのあたりはキチンとマニュアルでもあるのだろうか、”怒って帰ってしまわないように” ママやコイツがなだめて来るのだ。
しかし、暫くすると、またバカにしたようにペフーペフーとピアニカを弾きながら殴られ屋に誘うための”腹立つ歌”を歌う、怒りに震え、金を叩きつけ、繰り返しステージに上がることになる。
自分はそのシステムに気付き、もうこの”かなへび”には近づくまいと心に誓ったのだ。
その後も、仁見平太と平ひろしが交互に煽られ、7、8回ステージに上がっていたが、梅男の親父は一切無傷で汗ひとつかいていなかった。
どうやっても梅男の親父を殴れないと察した仁見平太が、顔を真っ赤にして、自分たち一人一人にまで
「え?俺っちバカなの?バカじゃないっちよな?』
他の客にまで聞いて回るという愚行に出て、答えるまで泣きそうな顔で、自分がどれだけ賢いかを訴えて来て、凄くうっとおしかった。
しかし、人の心が分からない蘇我勝男が「今振り返ってみたけどオマエ以上のバカ見たことねぇっちわ!」と無神経に言い放ったので髪を掴み合いながらステージへ行ってくれて、本当に良かった。
「俺っちはバカじゃね―んだけど!むしろ親父とか嫁とか社員とか”天才”って言ってるっちけど――!」
稼ぎに満足したのか梅男の親父とママがいちゃつき始める中、
「おい!俺っちバカじゃないっちから、次の新曲はマジでインテリソングにしてやんよ――!」
仁見平太が叫ぶと、
平ひろしはどんぐり焼酎を瓶ごと飲み干し一升瓶をドンッとカウンターに置いて叫ぶ。
「お前ら、取り消せ――っ!俺っちはペラペラじゃないっちぞ!」
と叫ぶ。
「爺さんは『”ペラペララブ”にさせて下さいませ!』と床に額を擦り付けたらデビューさせてやんよっ!」
ホレスト社長の仁見平太が叫ぶと、また、新たな掴み合いが発生した。
”殴らせ屋ぼったくり”はここ”かなへび”ぐらいだが、プライドが異常に高く、気性の激しいこの地域の飲み屋での掴み合いは、日常茶飯事なのである。
樫椎に観光で来たら、遠慮は要らないので、好きなだけ胸ぐらを掴んで欲しい。

ホレストウッズ・ヱンターテヰンメントからあの平ひろしが遂にデビュー!
ホレストウッドの天才プロデューサー仁見 平太とGPCの天才映像クリエーター後北条 氏男という樫椎最強タッグで送る至高のラブソング。
”ディア マイ ラブ”
カセットテープ版1,980円 CD無地版1,980円 CD平ひろしプリント版2,980円 DVD無地版4,980円 DVD平ひろしプリント版6,980円
仔馬宿崖下ホレストウッズ・ヱンターテヰンメントにて絶賛発売中!
ホレストウッズ・ヱンターテヰンメント社長にしてトップアーティスト仁見 平太とが贈る夏最強のアッパー系インテリソング!勉強のお供にも。
”アゲ↑ アゲ↑ サマーデイ(次回半額券付き)”
カセットテープ版680円 CD仁見平太プリント版780円 DVD仁見平太プリント版980円
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