傷ついた翼は、夜明けを目指す ― Blackbird
この曲は、マーティン・ルーサー・キング・ジュニアが暗殺されてから、わずか数週間後に書かれました。歌詞に描かれる「傷ついた翼」や「落ちくぼんだ目」、そして「自由への切望」といったイメージには、当時のアメリカ社会を覆っていた痛みと希望が色濃く映し出されています。
さて、タイトルの Blackbird は、辞書では「ツグミ」や「クロウタドリ」と訳されます。しかし Paul McCartney は、この blackbird を、人種差別の中で自由を求めて生きる「黒人女性」の象徴として用いました。そのため本稿では、特定の鳥の名前に限定したり、「黒人女性」と直接訳したりすることは避け、象徴性を尊重して、すべて「ブラックバード」とカタカナ表記に統一しています。
それでは、この美しくも力強い歌詞の世界を、一節ずつ見ていきましょう。
[Verse 1]
*1夜のどん底 で歌うブラックバードよ
*2折れた翼のままでいいから*3飛び立ってみよう
君はずっと
*4機が熟す時を待っていたのだろ
*1: 夜のどん底
: the dead of night
『夜の静寂(しじま)』の意味で有名ですが、『黒人が迫害されている時期』を言わんとしているので、その絶望感を出す意味で、『夜のどん底』としてみました。
*2: 折れた翼のままでいいから
: Take these broken wings
take は、(迫害で傷ついたことすべてもすべて)「受け入れる」という意味になります。それを意訳し『のままでいいから』と意訳しました。
*3: 飛び立ってみよう
: learn to fly
learn to~ は、「〜できるようになる」という有名な熟語ですね
*4: 機が熟す
: arise
arise には、「立ち上がる」、「目覚める」「(内側から)立ち現れる」の意味があり、それを意訳しました。
[Verse 2]
深い闇の中で歌うブラックバード
*5抉られたその目のままで世界を見えるようにしよう
君はずっと
解放の到来を待っていたのだろ
*5: 抉られたその目
: sunken eyes
sunken は『窪んだ』という意味が基本ですが、『迫害にあった黒人女性』の喩えですので、『抉られた』としました。
[Chorus]
ブラックバードよ、飛べ もう飛べるんだ
*6暗く真っ黒な夜の光の中へと
ブラックバードよ、飛べ もう飛べるんだ
暗く真っ黒な夜の光の中へと
*6: 暗く真っ黒な夜の光
: light of a dark black night
light of a dark black night これは非常に詩的な表現だと思います。普通は、夜=暗い(光がない)わけですが、ここでは 「真っ暗な夜の中にだって“光”はある」つまり、「絶望の中にも光はある」だから「闇の中でこそ飛び立て」という熱きメッセージだと思われます。ずっと後の ”Hope For The Future” にも受け継がれました。
[Verse 3]
夜のどん底で歌うブラックバードよ
折れた翼のままでいいから飛び立ってみよう
君はずっと
機が熟す時を待っていたのだろ
[Outro]
機が熟す時を待っていたのだろ
機が熟す時を待っていたのだろ
いかがでしたでしょうか。
Blackbird の魅力は、「傷ついた翼」や「落ちくぼんだ目」、そして「自由への切望」といった歌詞のイメージだけではありません。それらを静かに、しかし力強く描き出しているのは、ポール・マッカートニーの歌唱と、スリー・フィンガー・ピッキングを主体としたアコースティック・ギターの演奏でしょう。
伴奏は、ギターに加え、机を叩くようなパーカッシブな音と、小鳥のさえずりを思わせるホイッスルだけ。これほどまでに簡素なサウンドでありながら、人種差別という重いテーマを、説教臭さを感じさせることなく、一羽の「ブラックバード」が夜明けへ向かって飛び立つ姿へと昇華してしまう──そこに、ポールの卓越したソングライティングの真価を見る思いがします。
皆様は、この歌からどのような情景を思い浮かべたでしょうか。そして、ブラックバードは誰の姿として心に映ったでしょうか。
