【Geordie Greep】FUJI ROCK FESTIVAL2026ライブレポート
コードで遊びルールを嗤う、そんなショーだった。2024年10月に『The New Sound』を発表し、翌年のジャパンツアーでスキルフルかつ奇々怪々なグルーヴを誇ったジョーディー・グリープ。ラテン音楽への傾倒を始めとした音楽性の変化をヴィヴィッドに表現し、世界中のプレイヤーたちとセッションを重ねる彼にとって、ソロとして初となるフジロックはイマジネーションを際限なく放出した圧巻の即興狂奏会となった。
鈍色の雲から繊毛のような雨だれが止めどなく降り落ちてくる18時過ぎ、英国産ギャング映画『長く熱い週末』のテーマと共にジョーディー・グリープが入場する。紺色のシャツに白いチノパンツを合わせた伊達男風のサマールックに、出演者であることを示すパスを首からぶら下げたまま姿を表す絶妙な抜け感は、その一筋縄ではいかないセンスを暗黙の内に示しているかのようだ。共演するバンドメンバーは日本でのコネクションを活かして召集したプレイヤーたちであり、一定の朗らかさは保ちつつも、このショーの奇妙な操縦者であるジョーディーの背中を目の端で見つめていた。後方のディスプレイに映し出されているのは現在時刻をカウントするデジタル時計のみ。舞台はWHITE STAGE、60分一本勝負だ。

そうして口火を切った「Walk Up」から、既に前回のジャパンツアーとの違いは明らかだった。ブラック・ミディ期よりも幾分かトーンを落とした『The New Sound』の怪しげな側面が前回のジャパンツアーでは表現されていたのだが、今回はよりアグレッシブに、やや性急ながらもアンサンブルを組み立てていく。もちろんフジロックという環境も起因しているのだろう、後半の高速フュージョンに移るパートではサックスの松丸契が熱を帯びるフロアに呼応してグイグイとバンドを牽引していく。コードワークの屋台骨を支えながらも要所でリズムに捻りを加えるのはキーボーディストの梅井美咲、両者共に前回のジャパンツアーで大きな貢献を果たしたプレイヤーたちだ。

「とにかく全部音を上げろ!(Louder!)」とPAに指示を出す素振りを見せてWHITE STAGEを煽るジョーディー。そう、この日のジョーディーはとにかく「攻め」の姿勢を貫いていた。続く「Terra」は原曲のサンバ・ジャズ風味のアレンジからテンポを上げ、格闘技ばりのソロ回しへと展開。松丸とジョーディーの驚異的なユニゾンに歓声が向けられた「The New Sound」では、ジョーディーが身振り一つで即興的にリズムを挿入し、鋭い集中力でもってバンドが音を合わせる。気ままで移り気なバンドリーダーを後方からジッと見つめるのはドラムスの大井一彌、今にも飛びかかりそうな気迫を内に秘めながらタイトにビートを重ねている。パーカッションのコンセイサォン・ダニエルにベースのファビオ・サーと、ブラジルからのゲスト・プレイヤーも野趣に富んだリズムを流し込む。まるで60年代のニューヨークでブーガルーが誕生した瞬間のような、高潔な猥雑さ。雨足は強まり、それでもなおオーディエンスは逸脱したセッションを求める。


このステージで強調されていたのはジョーディーのバンドへの信頼だ。例えば「Blues」の冒頭のような、偏執的なまでに粒の揃ったマスロック流のリフも自身が弾くことなく、小金丸慧へとその役割を譲る。代わりにジョーディーはハンドマイクを持ち、手の上げ下げでバーストを生み出してグルーヴに緩急を与えていく。演奏者同士の触媒として、各々のポテンシャルを異次元へとワープさせるようなディレクションを行いつつ、自身は影役以上の存在感で高揚感を演出する。ショーマンとしてこの上ない活躍っぷり、「イイカンジ!」としきりにシャウトするなどジョーディー本人も上機嫌だ。


どうやらジョーディーとそのバンドにとって、60分は少々短かったようだ。ラストにキラーチューン「Holy, Holy」を1.5~2倍速の極めてハイテンションなバージョンで叩きつけると、フロアはモッシュ寸前の熱狂へ。バンドメンバーも交えた《holy, holy!》のコール・アンド・レスポンスにドラムンベースばりの手数で加速するアンサンブルに応える大井一彌、制御不能なカオスが夕闇に沈む苗場の森を掌握していく。アセンションに次ぐアセンション。こんなショー、二度とお目にかかれない。息継ぎ出来ぬほどの速度でセッションを完遂し、大歓声を浴びながら満面の笑みで抱き合うメンバーたちの姿が、この60分の傑出度を物語っていた。
Text by 風間一慶
Photo by 小林一真
