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い つ も の

  目次

「で、何? 貧乳の新コスチュームお披露目回なの? むしろ乳ゴリラはないの? もっとパイオツ強調するとかさ!」

 烈火の股間をカッ飛んできたハルバードが打ち抜いた。

「シャーリィが、新たな道を示してくれました。いえ……本当は、わたしたち全員がわかっていたけれど、気後れして言えなかったことを、この子が代弁してくれたのです」

 立ち上がったシャラウが、シャーリィを後ろから両腕で包み込む。

「エルフ族は積極的に帝国へ飛び出し、その千変万化する社会の時間感覚に慣れる必要がある。しかし単独で向かったところで、海千山千の人族たちを相手に渡り合えるとも思えません。わたしたちはあまりに暢気に過ぎ、朴訥すぎる。だから――数十人の集団で、ひとまず帝国のどこかに居場所を見つけることを最初の目標にしたいと、シャーリィは言いました」

 これまでも、オブスキュアに人族の商人がやってきて取引をするということはあったようだが、今語られていることは根本的に違う。
 ロギュネソス帝国内部にオブスキュア王国の大使館を作ろうとしているようなものだ。

「しかし……志願者はゐるのであろうか? 森を離れ、馴れぬ暮らしに飛び込んでゆくほど気概に満ちた者をそう都合よく確保できるとも思えぬが……。」
「そのあたりは、出産権を報酬とすることを考えています。シャロンのように、先天的に魔力に乏しい者たちに、別の選択肢を提示するという形で」
「帝国への移民団に参加すれば、即座に出産権を与える、と。」
「はい」

 総十郎は眉を寄せている。
 フィンは首を傾げた。良い提案だと思うのだが、何かまずいのだろうか。

「……それは、穏やかな表現ではあるが、要は棄民政策と言うことではなかろうか?」
「そう取られても仕方がないですが、強制はしませんし、圧力もかけません。選択は本人の自由意志にのみよります。それに、いつでも森に帰ってくる自由はあるのです。なにより、シャーリィが同行します」
「王族が共にあるならば、捨てられたという印象はなくなる、か。だが、その結果生まれた子供たちには、森に入る資格がないのではあるまいか。」

 シャラウの麗貌が、うつむく。

「……はい、そうですね。出産制限の意味を考えれば、そのような措置を敷くしかないでしょう……」
「それはつまり、事実上追放と何も変わらぬのではあるまいか? エルフ族の家族愛は小生重々理解しておる。子が森に入れぬ以上、両親が子を置いて森に帰るなどという選択肢は塞がれたも同然。」
「それはっ! 人数の帳尻さえ合っていれば良いのです。例えば、片親は帝国に残り、もう片親と子が森に帰郷するという融通は取れるはずです」
「陛下、理屈の上ではそうだが、現実的にそれは不可能である。どうやって人口の入出管理など行うつもりであるのか。帝国との国境すべてに壁を作り、関所でも設けるのであるか。そして誰が移民で、誰が移民の子孫で、誰が追放者で、誰が出奔者なのかをすべて記録し、文書を保管するのであるか。」

 エルフたちは、皆ショックを隠せないようであった。
 何度も会議を重ね、懸命に考えて出した結論だけに、あっさり否定されてしまい全員哀しげに俯いてしまった。
 ……だが、シャーリィだけがジト目で総十郎を見ている。
 彼女が何を考えているのかはまる分かりだった。フィンもまったく同じ気持ちだったから。

 ――本当に、この人はまったくもう。

 総十郎が立ち上がる。そしてツカツカと歩み始める。

「シャラウ陛下。その施策、勇気は買うがさまざまな無理を含んでおる。ゆえ、成功へと導く筋道はただひとつと存ずる。」
「……筋道とは?」

 黒衣の青年はシャーリィの前に跪き、白く繊細な御手を取った。
 なめらかな指先に口づけをする。

「――小生の同道をお許しいたゞきたい。御身の行く先には無数の困難が待ち受けることは必定。護衛、折衝、調整、渉外、すべてこの〈神韻探偵〉の専門分野ゆえに、必ずお役に立つことを約束させていたゞく。如何であろうか。十年以内に必ずや帝国との交渉をまとめ、エルフ居住区の確保を盤石なものと致しましょう。」

 祭祀と騎士たちが驚きにざわついた。
 シャラウとシャイファも目を丸くしている。

「ついてきて、くださるのですか?」
「なに、せっかく力を尽くして国難を排したのに、その後オブスキュアの人々が隷下に置かれて搾取されるのでは目覚めが悪い。といっても、小生はわずか数十年しか生きぬ身。その間に帝国との良好かつ強かな関係を樹立しておく必要があるゆえ、あなたがたにとっては決してのんびりできる状況ではない。それでも良ければ小生の命ある限り、エルフの帝国適応に尽力させていたゞく所存である。」
「お、お待ちください、それは、つまりその、ソーチャンさまの一生を捧げると言うことではありませんか! さすがにそこまでしていただくわけには……」
「心配ご無用。小生召喚されたのはこれが初めてではなく、そして恐らく最後でもない。故郷の世界の時間は、小生がこの世界にゐる間は一瞬たりとも進まず、小生自身も帰ってきた瞬間に元の年齢に戻るゆえ、これは特段自己犠牲に類する行いではないのです。むしろ得難い経験を得られる良き機会であり、陛下が負い目を感じられる必要はまったくありませぬ。」

 話を聞くうちに、シャラウの目尻に涙が浮かび上がる。
 感に堪えぬ様子で目元をぬぐった。

「なんと心強いことでしょう。ソーチャンさまがいてくださるなら安心です。本当に、なんてお礼を言っていいか……」
「その代わりと言ってはなんですが、ひとつあなたがたに協力を要請したい。」
「なんでしょう? 喜んで伺いますわ」
「フィンくん」

 振り向いて、総十郎が手招きする。

【続く】

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