一役解体
そうだ。今、自分はイノシシの処理に対して、特に何も特別な感慨は抱かなかった。こんなものなど見慣れているから。
だけど、それは、後ろの二人にとってはひどく異様なことなのだ。
リーネに褒められて高揚した気持ちが、一気に沈んでいった。
よくわからない劣等感のようなものが、じくじくと胸に染み出してきた。
「恥じてはいけない。」
「ひゃっ!?」
いつのまにかすぐ近くにいた総十郎が、じっとこちらを見つめていた。
「いやなに、君の故郷の世界について、ほとんど知らぬゆえに、無神経な物言いをしてしまったようだ。許してほしい。」
「あ、謝ることなんて……」
「だけどな、フィンくん。君はこれまで、人として恥ずべき生き方などしてこなかったはずだ。」
「ど、どうして、そんなこと、わかるでありますか?」
「君が今、自らのこれまでを思い返して、胸を痛めたからだ。恥を知らぬ者は、そのようなことは決してしない。」
「……ぅ」
「そ、そうですよ! フィンどのは立派な御方ですっ! 没義道な生き方などしてきた方ではないと、リーネは確信していますっ!」
顔を上に向け、フィンはこらえた。
もう泣かないと、決めたから。
「とりあえず、ぼたん鍋だなオイ。鵺火えも~ん! 味噌か醤油出してよ~!!」
「なんだ鵺火衛門て。ないわそんなもの。」
「ハァ~~~~~~~~~つっかえ。じゃアレだ。お神酒出せオラ。持ってんのはわかってんだよ」
「まったく次から次へと罰当たりな男だな……。」
なんかそんな感じで異世界ぼたん鍋を囲む一行であった。
●
食後、シャーリィとリーネは昨夜と同じように巨木の前に立った。
気づかわしげだが、どうすればいいのかもわからない様子のリーネとは異なり、シャーリィは泰然とした様子だった。
「は、母なる森よ。御身の加護と恵みによって、今日も命を繋ぐことができました。感謝を捧げます」
リーネの体からは魔力の光が立ち上ったが、シャーリィはぼんやりと輪郭をなぞるだけであった。
「で、殿下……」
目尻を下げて見下ろしてくるリーネにひしっと抱き着くと、シャーリィはおっぱいにぐにぐにと顔を押し付けたのち、身を離す。それからフィンの方に向けてぽてぽてと歩み寄ってきた。
フィンの腕を引き、耳に唇を寄せてくる。
――フィンくんフィンくん。
「は、はい?」
――今夜は一緒に寝よ?
「え?」
――話したいこと、聞きたいこと、いろいろあるから。
腕を引っ張られた。
「え、えぇ……」
困惑したまま、寝袋まで引っ張られていった。
「お、おいあいつら……い、いやまぁいいんだけどさ……」
「殿下も声を出せぬ身の上になってから日が浅い。誰かと思い切り語り合いたかったのであろう。」
「うぅ……殿下……わたし以外と寝るなんて……」
「筋肉フェチでショタコンの上にクレイジーサイコレズとか業が深すぎだろお前」
「た、単語の意味はよくわからんがものすごい侮辱を受けた気がする……!」
「ふむ、少し心配かね? 殿下の一番の座をフィンくんに取られてしまうのではないか、と。」
「そ、それは! ……いや、そう、なのかもしれませんね……恥ずべきことです……」
「恥じることはあるまい。リーネどのの殿下を大切に思う気持ちは、間違いなく伝わっておるよ。しかし不可解であるな。リーネどのは、どこか殿下に対して一歩引いた立場に身を置いているように見えるが。」
「それは当然のことです。主従の立場を忘れるのは不忠にして不敬です」
「で、あるか……ふむ。」
「どーでもいいけどオラ! 乳ゴリラ! 俺らも寝るぞ! 服を脱げ!」
「脱ぐか!!!! な、なんで貴様と寝る感じの流れにしようとしている!!!! お断りだ!!!!」
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