〈死の巫姫〉の肖像 #8
〈だが、奇妙な点もあった。父上と母上はほぼ同年代だが、身に纏う炎の強さに明らかな差があった。〉
〈母上は景気よく燃え盛っているのに、父上の方は比較的大人しいのだ。〉
〈これは? つまり?〉
〈何を意味している?〉
〈明白な結論から目を背け、必死に気のせいだと自分に言い聞かせた。そうだ。こんなものは所詮わたしひとりが見ている幻覚でしかない。何の根拠もないことだ。わたしは自分の杞憂を笑い飛ばそうとした。〉
〈だが――トアンの炎を目にした時は、さすがに笑えなかった。〉
〈「……ト、アン……?」〉
〈「うん、なんだい?」〉
〈愕然と、立ちすくむ。全身が細かく震えた。〉
〈あまりにも、哀しいほどに、弱い。〉
〈もはや消えかけと言っても良いほどに、トアンの命の火は弱弱しかったのだ。〉
〈「ねえ、あなた……」〉
〈「うん」〉
〈「どこか体が悪いとか、そういうのある?」〉
〈「へ? ないけど?」〉
〈まったく気負いのない返事に安堵しかけるも、不安はあとからあとから滲み出てきた。〉
〈エルフは人族と違って、老いて体力や生命力が衰えるということはない。にもかかわらず、年長者と若者の間で幻炎の強さに明白な違いがある。〉
〈つまり、炎の強弱は、単純に生命力を可視化したものではない。〉
〈事故死や戦死なども含めて、あとどのくらいこの世に留まっていられるのか、その運命を可視化したものなのではないか。〉
〈もし、そうなのだとしたら――〉
〈「ねえ、そんなことより殿下でんか!」〉
〈「え……?」〉
〈「じゃーん!」〉
〈トアンは、紐に括られた幽骨細工を掲げて見せてきた。〉
〈二羽の比翼の梟が寄り添って、それぞれ翼を広げているさまが、どこか愛嬌のある造形で表現されていた。〉
〈「作ってみました」〉
〈照れ笑いを浮かべている。〉
〈比翼の鳥を模した幽骨細工は、昔から永久に朽ちぬ愛を意味する贈り物として重宝されてきた。〉
〈トアンは、笑みを引っ込め、静かな目でこっちを見つめた。〉
〈「僕は、■■■■殿下が好きです」〉
〈思わず目を見開く。〉
〈「優しいところが好きです。意地っ張りなところが好きです。強がりなところも好きです。ジトっと睨んでくる目が好きです。でもはにかんでいるところも好きです。抱き締めると腕の中にすっぽり包み込めてしまうくらいちっちゃいのも好きです。あ、でも大きくなったシャロン殿下も絶対好きになると思います。それからそれから――」〉
〈「ちょ、ちょっと待って」〉
〈「――死の力に怯えて、人から距離を取って、少し寂しそうな横顔が好きです。好きだけど、それは放っておけないんです。どうしても放っておけない」〉
〈にっこりと笑う。〉
〈「僕は、絶対、死にません。約束します。だから、僕をいつもそばに居させてください。誰よりも、シャラウ陛下やギデオンさまよりも近くに居させてください」〉
〈ずい、と比翼の幽骨細工を差し出してくる。さすがに、緊張の面持ちだった。〉
〈わたしは、じっと二羽の梟を見た。彼のわずかな炎は、今この瞬間も、幽骨に吸収され続けていた。〉
〈言葉にならない感情が、胸からあふれ出てくる。〉
〈うれしくて、かなしくて、心が引き裂かれそうだった。〉
〈想いは通じ合っていたのに。〉
〈彼は、もうすぐ死ぬ。〉
〈恐らくは百年以内に。〉
〈その運命も知らず、トアンは真剣にこちらを見ている。〉
〈我慢できなかった。熱くて冷たい涙で視界が揺らいだ。幽骨細工を両手で包み込むように受け取りながら、わたしはひとつの決意を固めた。〉
〈死に呪われた娘を、そうと知りながら愛すると言ったこの人に、わたしはいったい何を報いてあげられるのか。〉
〈――トアンの子を産もう。〉
〈たとえ道半ばで息絶えるとも、自らの血を分けた子が愛した女の腕で笑っているなら、それはきっと慰めになるだろうから。〉
〈その決意は、以来わたしの存在する意義となった。〉
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