たとえ明日が闇に閉ざされようと
だが――わずか五千の勢力に、全人類の十パーセントを殺されてしまったという事実に、皆震えあがった。
そして、恐らくこれが最後の襲撃ではないと言うことも、確信していた。
「それから、十年間隔で、彼らの襲撃は続いたであります。遠隔無線通信を失って機能不全に陥った統一法王庁は実権をなくし、代わりに〈統一神話無限螺旋塔〉に拠って立つ新たな汎人類的統制軍閥――セツ防衛機構が発足したであります」
「軍閥、か……逼迫した状況故にいたしかたないとはいえ、やり切れぬな。」
哀しげに眉尻を下げる総十郎。烈火にデコピン。
「セツ防衛機構は即座に三つのプロジェクトを立ち上げたであります。第一に、有線通信網の構築。第二に、カイン人に対抗できる新兵科の創設。第三に、掌握されたままの衛星群の奪還。このうち第三は無残な失敗を迎えたであります。制圧された軌道衛星らは、すでに外宇宙の邪法によって変異させられており、一定以上のサイズを持つ腫瘍艦以外の飛行物体に対して暗黒の光線のようなものを照射、即座に撃墜してしまうのであります。これによって、セツ人は空を飛ぶ手段を喪いました」
「つまり、制空権すらも奪われたのか……。」
眉間を揉み解す総十郎。
「それは……なんというか……よく今まで持ちこたえたものだな……。」
言葉を濁す総十郎であったが、要するにこれは勝ち目ゼロの状況である。
「献身の心」
フィンは万感を込めて、言った。
「それこそが、こんにちまでセツ人の命脈が続いてきた最大の要因であり、小官ら軍人の拠って立つ思想的根拠であります」
「君を見ていると、それは存分に理解できる。誇り高い人々なのだな、セツの末裔は。」
優しい微笑みに、しかしフィンは眉尻を下げる。
「でも、ソーチャンどのや、この世界の人々は、こういう在り方がお嫌いのようでありますね」
「フィンくん、それは違う――」
「あー、気に入らねえな」
不意に、烈火の声がした。
見ると、頬杖をついて興味薄げにこっちを見ていた。
「レッカどの……」
「いいかテメー、この超天才が今から超いいこと言うから耳かっぽじって聞きやがれ」
あ、これ駄目そう。
などと反射的に考えつつもフィンは一応聞くことにした。
烈火は身を乗り出し、人差し指を突き付けてきた。
「ガ キ が イ キ っ て ん じ ゃ ね え」
「えぇ……」
「イタいわお前。見てて恥ずいまである。なんかさー、お前ってアレだよね、AI時代に真っ先に食いっぱぐれるタイプだよね」
斜め上の罵倒。
「ブレねえ自分がカッコいいとか思っちゃってる臭がするわ。くっさ!!!!」
「おい黒神、」
「ロリコンはこいつに甘すぎなんだよ! おめーに代わってこの超天才がビシッと言ってやるぜェ!!!!」
烈火は机の上に片脚を乗せた。
威圧的に見下ろしてくる。
「ブレないんじゃない。それ以外出来ないだけだ。てめーは何も選んでねえ。献身? そりゃ結構なことだがよ、自分でそう選んだんじゃねえよな。ただ状況に流されただけだよな。そんなもんを何か高尚なものみてーに語ってんのがイタいっつってんの」
黒神烈火がなんかマトモっぽいことを言っている。
その事実にフィンは計り知れない衝撃と混乱を受けた。
「あ……う……」
「お……おゝ……?」
総十郎とともに、口をぱくぱくさせるしかない。
「犬が飼い主に尻尾を振るのは本能だ。それしか知らねえからそうしてるだけ。偉くも何ともねえ。僕ちゃんこんなに上手くしっぽ振れるんですゥ~! ってかぁ? あほか」
衝撃が過ぎ去ると、いやこれは反論しなければならないだろうと気を取り直す。
「しょ、小官はともかく、小官の世界で必死に戦っている人々を馬鹿にするのはやめてほしいでありますっ!」
「わかってねェなぁ!! 俺が馬鹿にしてんのはお前だよ今目の前にいるお・ま・え!!!! あのさぁフィンくぅん? キミ、今まで自分で何か決断したことあるゥ? 何かを切り捨てて何かを選んだことはァ?」
完全に馬鹿にものを言うみたいな喋り方である。
「う……」
決断に類することは、すべて父アバツ・インペトゥスに任せきりであった。
ちちうえの言うことさえ聞いていればよかったのだ。
「ないよねェ~? あったらそんなイタい子になるわけないもんねェ~! はぁー、やだやだ。言われたことやってるだけなら機械と同列じゃん? いや、その分野は機械の方が得意なんだからお前の存在価値ないよねでべっ!!」
鞘に収まった刀が唸りを上げて烈火の鼻を打ち抜いた。
しかし発言はしっかりフィンにも理解できた。目尻に涙が溜まる。そんなにあからさまに罵倒されたことなどなかった。しょんぼりと肩を落とす。
「言いすぎだ。それ以上はたゞの中傷である。」
総十郎は刀を札に戻して懐に収めると、こちらに向き直った。
「フィンくん。選べばよいのだ。」
「え……」
「そこで鼻血を抑えて呻いている阿呆は、君が献身の道を行くから馬鹿にしているのではない。君がそれ以外の道を知らないから馬鹿にしているのだ。」
穏やかで、しかしどこか哀しげな微笑。
「知った上で、それでも献身の道を選びとるというのなら、それは間違いなく君の決断だ。そこの阿呆も決して馬鹿にはせんであろう。」
「ほかの、道を、知る……」
「選ぶと言うことが重要なのだ。他に選択肢がなかったから……などという消極的な在り方ではその人物の真は顕れない。」
「で、でも、他の道と言っても、ど、どうすれば……」
総十郎は、たんぽぽのように笑った。
「なに、簡単である。よく聞くのだぞフィンくん。」
「りょ、了解であります」
そうして語られた方策は、フィンにとってはまったく意味の分からないものであった。
しかし、もはや総十郎への信頼が海よりも深く山よりも高くなっていたフィンは、首を傾げながらも明日から実践してみることにしたのだった。
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