光の檻
「――ちょイと本気、ダすかネ」
紅い刃閃が、網目のごとく幾重にも交錯し、硬質の絶叫を上げた。
咄嗟に掲げた烈光聖箭が砕け散り、ハルバードで受け止め損ねた幾撃かがリーネの甲冑を斬り裂いて血を飛沫かせた。
なおも止まらぬ連撃が、慌てて包囲を狭めた斬伐霊光を千々に引き裂く。
だが無駄ではなかった。凶刃は銀糸にかかずらうことで刹那の遅延を強いられ、それがリーネの命を救った。
紅鎌を振り抜いた動作の終わり際を狙いすましてリーネが再度突撃。
同時にフィンも烈光聖箭を再錬成し、膝射の姿勢をとる。
「おおおおっ!!」
リーネは雄々しく吠えた。長柄を手の中で回転させながら脚を入れ替え、腰の捻りの入った強烈な斬撃を繰り出す。
ドンッ――と重い破裂音と火花。戦鎌と斧槍、双方の刃が大きく弾かれ、二者は体勢を崩す。――瞬間、荷電粒子ビームが黒鎧の破砕穴目掛けて直進。
だが紅刃が閃いて、これを飛散させる。さすがに亜光速の弾体を見てから反応したわけではないだろう。どういうタイミングで狙われるかがわかっている――無類の戦闘巧者と言えた。
だがリーネは弾かれた勢いを肉体の中で整流していた。再び長柄を手の中で回転させながら脚を入れ替え、振り下ろす。
さきほどとは左右対称の動きだ。巨大な乳房が別の生き物のように揺れ、反作用の原理で動作に力を上乗せする。
ドンッ――!
伸び切った瞬間、まるで斧頭から見えない何かが弾け飛んでいるような音を立てる。
オークはこれを難なくかわしざまに反撃の挙に出る――
刹那。
「総員、配置についたでありますね!」
オークを囲むように、〈アンガラ〉を除く六体の戦術妖精たちが滞空している。
烈光聖箭の引き金を引いた瞬間、オークが光の格子の中に囚われた。
否――そう見えたのは、荷電粒子ビームが戦術妖精たちを経由した瞬間に鋭い角を描いて曲がり、別の戦術妖精へとバトンされているからだ。
輝く翅の間に強い電場が発生し、ローレンツ力によってビームを曲げているのだ。さらにいくつかの光弾を撃ち込み、檻の密度を高める。敵が攻撃の挙に出ようとした瞬間、鎧われていないわずかな隙間目がけて射込まれる光の矢が絶妙な牽制となる。
斬伐霊光と違い、視認性が高いことを逆用した支援戦術だ。
「ちィ!」
「せあッ!!」
さらにリーネが左右対称の動きから斬撃を捻り出す。撃ち込むごとに威力を増してゆくこの一連の動きは、いかなる作用によるものか。単純な質量の加速だけでは説明がつかない現象だ。
唸りを上げてハルバードが一閃するのにタイミングを合わせ、発砲。大地を揺るがす撃音とともにリーネの一撃を受け止めたオークの巨体が宙を舞い、そこに吸い込まれるように荷電粒子ビームが着弾。肉が球状に爆ぜて蒸発した。
「ハハははは! いいぞテメェらァ!! 悪くネえ!!」
斧槍と双戦鎌が音高く連続して噛み合い、砲撃のごとき轟音と衝撃を撒き散らす。その周囲を光の檻が走り抜け、オークの虚をつくように飛び込んでゆく。だが、まるで背後に目があるかのごとく、独立した生き物のように長大な腕が背後に回り、紅い刃が荷電粒子ビームを斬り散らすのだ。
拮抗状態が出来上がる。両陣営とも刃と光弾を激突させ、飛散させ、戦意と殺意を交錯させる。
だが――
「はぁぁッ!!」
轟音。大気が雷鳴のごとく震撼する。徐々に拮抗が崩れ始めた。
リーネの放つ攻撃が、一撃ごとに重みを増しているのだ。袈裟懸けに振りおろし、その動きのまま頭上でハルバードを旋回させつつ足を組み換え、逆袈裟に振り下ろす。彼女の重心は∞の軌道を描き、一連の動作が徐々に徐々に強烈な威力を帯びてゆく。
あたかも回る車輪に手を添えて、少しずつ回転速度を上げてゆくかのような有り様だった。
その「手」の役割を果たしているものは、フィンにもわかった。重く張り詰めたおっぱいが、体の重心移動とは逆方向に首を振り、一種のカウンターウェイトとしての役割を果たしているのだ。見たところ、彼女の高い身体能力は何らかの超自然的エネルギーが介在していることは明らかだ。その力の整流・増幅装置としての役割を担っているのが、あの巨大な乳房なのだろう。女の人ってすごいんだなあ。
オークは少しずつ後手に回り始めた。もはやリーネの一撃は片手で受け止められる域を超えている。双腕の得物を連結させ、両腕の力で対抗するが、そうなるとフィンの支援射撃に対する防御が間に合わなくなり始める。
「どっっっ…………せいッ!!」
男前な裂帛とともに、ひときわ強烈な一撃がオークのガードをこじ開けた。大戦鎌を握る両腕が跳ね上がり、無防備な胴体が晒される。
即座にフィンは限界の数までプールしていた荷電粒子ビームを一斉に解き放ち、一振りでは決して対処できない全方位攻撃を仕掛ける――
――直前、紅く巨大な円盤が飛来し、リーネの右腕を肘から切断した。
「ぐ……ぁ……っ!」
バランスを失って転倒するリーネ。
「リーネどの!」
円盤が通過した後を鎖が続き、さらにそれを握るオークも宙を真っ直ぐに飛んでくる。
あの巨体が一直線に宙をカッ飛ぶ風圧で、フィンの矮躯が煽られた。その背後で、あらゆる方角から敵を撃ち抜かんと殺到していたイオンビームは、標的を失って虚しく一か所に収束。その威力を発揮することなく終わった。
――それよりもリーネどのが!
斬伐霊光が女騎士の腕の切断面に巻き付いてきつく縛り、出血を抑えた。
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