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少年軍人による尋問

  目次

「……小官は、あなたのことを尊敬しているであります。小官が想像もできないような長い年月、帝国の圧力やオーク侵攻などからエルフ族を守り抜いてきたそのありようは、並大抵のことではないと思っているであります」

 きょとんとした顔になる女王シャラウ。膝の上のシャーリィも同様だった。
 フィンは、いきなり妙なことを言ってしまったな、と自覚して、頬が熱くなる。
 やがてシャラウは花が綻ぶような微笑みを見せてくれた。

「あら、ふふ。ありがとう。急にどうしたの?」

 なんだか目の高さまでしゃがんでくれたははうえを思い出す口調である。完全に子ども扱いされているのだが、なぜか反発する気にならない不思議な包容力のある人だった。

「えっと、その、小官はあなたを信頼しているでありますし、そう思う気持ちは今後も変わらないであります」

 頭の中で言いたいことがまとまらない。

「それで、その、あの……過去になにがあろうとも、きっと陛下のことだから、何か理由があるんだと思うのであります」
「〈道化師〉さんから、なにか聞いたのね?」
「うっ……」
「そして言いにくいことであると」
「ううっ」

 自分は顔に出やすいたちなのだろうか? フィンは一瞬、真剣に悩んだ。
 すると、玉座のすぐそばにテーブルとイスが生成された。

「さぁ、おいでになって。ゆっくりでいいわ。お話しましょ? ……シャーリィとリーネは、お茶の用意をしてくれる?」
「あ、はいっ!」

 シャーリィはこくりと頷いて、母の膝からぴょんと飛び降りた。
 連れ立って出てゆく主従。
 フィンはおずおずと、女王の用意した席に座した。
 もう回りくどい言い方は無理だと感じたので、単刀直入に言うことにした。

「オブスキュア王国には第一王女がいて、その方は非業の最期を遂げたと聞いたであります」

 そう言った瞬間、女王は目を大きく見開いた。
 フィンは、その顔をまっすぐに見返す。彼女の芯を読み取ろうと。
 そこにあったのは、茫洋とした無表情。目から光が失われていた。何を言われているのか理解ができていない様子。
 やがて、その躰が細かく震え始める。

「――シャロン」

 その声は、フィンに語りかけていると言うよりも、そこに当人がいて、縋るように語りかけている感じだった。

「わたしの子。最初の子。愛しい子」

 膝頭をぎゅっと握る。そこにはフィンには想像もつかない感情が込められているようだった。
 カプセルの中から見た、ははうえの泣き顔に似ていた。

「――わたしが、殺した子」

 だから、その言葉を聞いても、フィンはシャラウへの信頼を失わずに済んだ。

 ――あぁ、この人は、自分を納得させようとしているのだ。

 自らの第一子の死に、納得できる理由を見つけられなかったのだ。誰かのせいにすることもできず、女王の責務を放棄して後を追うこともできず、だから最後の手段として自分のせいだと思い込もうとしている。

「嘘でありますね」

 ぴしゃりと言ってやる。

「え……」
「小官、これでも故郷の世界では戦場に身を置く兵士でありました。たくさんの人の生に触れ、死に触れたであります。そして、自分の手によって人が死にうるのだということを実感として理解した人間は、人と接するときに特有の緊張感を持つようになるのであります。目の前の命が、たやすく失われうるという事実への畏れがある。小官がそうであるように。レッカどのがそうであるように。ソーチャンどのがそうであるように。まるで精巧な砂の城を前にした時みたいに、一挙手一投足に緻密な意志が宿るようになる」

 いつもはガサツそのものの立ち振る舞いをする烈火も、シャーリィを肩に乗せるときなどは、物凄く細やかな力加減をしながら接している。自らの強大すぎる身体能力を自覚し、制御し、万にひとつも怪我を負わせたりしないよう、細心の注意を払っているのだ。そして、そのような気遣いを悟られないことにも力を注いでいる。本人に面と向かって指摘したら間違いなく下品な言葉で否定されるだろうが、フィンは烈火のそうした不器用な優しさが好きであった。
 椅子から立ち上がり、シャラウのそばに歩み寄った。
 そして彼女の手を取る。絹のようになめらかな手を。

「シャーリィ殿下を抱いているときも、こうして小官と触れ合っているときも、シャラウ陛下には緊張感なんて欠片もなかったであります。その手に触れているものが、力加減によっては簡単に壊れうるものだということを、理屈として理解しているだけで、実感しているわけではない。そんな人間が過去に人を殺したなんて、小官には到底考えられないであります」
「やめて!」

 手を離し、耳を塞ぐ女王。

「あの子はわたしが殺したの……そうじゃなきゃ……そうじゃなきゃ……!」

 いやいやをするように身をよじる。長年胸の中でにこもりつづけ、煮凝らせた悲痛の念が、箍を外されて溢れ出てくるようだった。

【続く】

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