絢爛道化芝居
「あっちは盛り上がっているようだねえ、えーと、ちちごりらさん、だっけ?」
「リーネ・シュネービッチェン、だッ!!」
叩き込まれたハルバードが、直前まで〈道化師〉の立っていた場所を爆砕する。
「あー、ごめんごめん、僕は人の名前を覚えるのは得意中の得意で、今のはワザとなんだ、よっと! いやぁ、頑張るねえ。お察しの通り、魔力で肉体を動かされると僕には止められないんだ。困った困った」
重量武器とは思えぬほどの速度と頻度で襲いくる連続攻撃は、しかし〈道化師〉の体にはいまだかすりもしていない。
「拘束できないんじゃ仕方ない。――荒っぽくなるよ」
「やってみろッ!! この場で討ち取ってくれるッ!!」
「【#00FF00】式幽幻電飾の攻撃的活用法――趣味じゃないけど久々に魅せますか。目に焼き付けるといい。絶美の芸術があなたを葬るよ――!」
手のひらと拳を打ち合わせると、ばちりと音を立てて雷撃が迸る。
そして芝居がかった動作で片手をリーネの方に突き出した。そこに翠色の紋様が出現。二つの四角形を重ね合せた八芒星に、魔術的な印章がちりばめられている。
「まさか、それは――!」
帝国魔導八芒大系。それも、本来は床や壁に刻み込んで儀式を執り行わなければ発動できない高等駆式だ。この一瞬で組み上げたとは信じがたい、圧倒的な緻密さと機能美を兼ね備えた魔法陣。
「元素変換――雷吼箭」
八芒星の中央で眩く輝く放電現象が発生し、雷撃の槍と化して撃ち放たれた。
炸裂。一瞬視界が白一色に染まり、遅れて凄まじい衝撃波が周囲に襲い掛かる。
「ぐぁぁっ!」
吹き飛ばされるリーネ。
着弾地点にはクレーターができており、そこから〈道化師〉まで繋がる直線の地面がめくれあがっていた。
咄嗟に〈異薔薇の姫君〉を叩き込んで直撃は避けたものの、余波だけで全身が悲鳴を上げていた。
――なんたる!
魔術師として、まっとうに超一流の域であった。直撃していれば、中型の魔物ならば一撃で葬れるであろう。この威力の破壊呪文を、たった一人で、無詠唱で、しかも即時発動するなど……到底信じがたい。
それ以上に、彼が雷魔法を励起し、攻撃手段として活用したことに驚愕する。そんなことは本来はあり得ないからだ。帝国魔導八芒大系が一門たる元素変換ならば、雷を発生させること自体はできる。だが――制御不可能なのだ。発生した稲妻が真っ先に襲い掛かるのは術者自身である。派手な自決にしか使えない。それが雷魔法という存在であった。
彼固有の燐緑色の幻影を操る力と、この世界の魔法を組み合わせることで成しえた奇跡のようだが――詳細な原理はリーネにはよくわからなかった。
神統器を超重量化させて、放物線の落下軌道を強引に垂直にする。片膝立ちで着地。
本来ならば、首元のチョーカーを鎧化させて身を護りたかったところだが、さっきからいくら念じても何の反応もしてくれない。
「へえ、凌いだか。じゃあ、これはどうかな……!!」
〈道化師〉が両腕を拡げると、八芒星魔法陣が十数個ほど多重展開。それぞれが位置を複雑に入れ替えながら円を描き、軌跡が空中に残って新たな巨大魔導機構を描き出す。もはや荘厳ですらあった。あたかも神殿がそこに顕れたかのようだ。
八芒星の一つ一つに集まった魔力が、元素変換を経て雷の精霊力に変わり、さきほどとは比較にならないレベルの大規模魔法が編み上げられる。
本来ならば複数の魔導師らが合力して成し遂げる戦略級儀式魔法だ。それを単独で発動する〈道化師〉は、この世界でも最上級の魔法の使い手と言えた。
「おおおおおおおおおおおッ!!」
この場にとどまっていたら終わる。それだけはわかった。肉体を循環する魔力に直接干渉し、迅雷の速度で間合いを詰めるリーネ。
「元素変換――神機霆砲!」
先ほどと同様の威力の雷撃槍が、十数発。光の尾を曳きながらリーネに向けて殺到してくる。ハルバードの間合いにはまだ遠い。
だが、丁度その瞬間、リーネは骨色の短剣が形作る領域から抜け出ていた。
チョーカーが、息を吹き返すのを感じた。
「ッ! 鎧化!」
首元より幽骨が拡がり、赤黒い奔流と化してリーネの全身を包み込んだ。
そして――炸裂。雷光が視界を覆い尽くす。激しい嵐に翻弄される小舟のように、リーネは体を丸めてひたすらに耐えようとした。
幽骨製の魔導甲冑は、森の歪律領域の「エルフを護る」という側面を極端に抽出したものだ。打撃斬撃はもちろん、爆発や電撃に対しても人族の拵える甲冑以上の防御効果があるはずだ。
「ぐ、ぐあああああっ!!」
全身に発生した、刺すような激痛。懸命に顔と胸を庇いながら、上下がめまぐるしく回転する視界の中で〈道化師〉を睨みつける。予想以上のダメージ。焦げ臭い匂いと、四肢の痙攣。きっと火傷だらけだろう。だが魔力操作による身体制御をメインとしているリーネにとって、いまだ行動不能なほどの負傷ではない。極端な話、意識が続く限り体は十全に動くのだ。
そして――この瞬間、リーネ自身にとっても予想外の事態が発生していた。
甲冑から、長い長い棘のようなものが伸びている。
「――えっ?」
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