moonlight Donkey
アフリカ東部・ケニアとルワンダに囲まれたウガンダ。
その南部に位置する標高4,000m以上の山々から形成されるルウェンゾリ山脈は、いくつもの起伏に富んだ形状から通称「月の山」と呼ばれる。
その麓では、珈琲産業に従事する人たちで形成される400人ほどの小さな村があり、15歳を迎えると大人として扱われる。
大人になったものは自分の名をつけた野生のコーヒーノキを持つことが習わしとなっている。
今年の成人の儀は、11月最初の満月の日。
カラッとした陽気な日でも、夜は10度を下回ることも珍しくない。
その日はとっても暑く晴天に恵まれた。
朝5時の角笛の合図とともに一斉にスタートする。
今年の参加者は50人ほどで、例年の倍近くの参加者になる。
それぞれにお目当てのコーヒーノキを目指して出発し、夕方までには収穫したコーヒーを持ち帰る。
村の人々は代々受け継がれるコーヒーノキを持っていることがほとんどだが、アルベルトにはそのアテがなかった。
早くして父を亡くしたアルベルトは、母と貧しくも二人三脚でここまで生きてきた。成人してコーヒーの収穫をすることで少しでも家計を支えたいと考えていた。
「はい、お弁当。あんたはよく食べるから2食分作ったからね。」
背中をトントンと叩いて渡してくれた母は、大きく成長した息子を頼もしく思うと同時にとても心配しているという眼差しを向けた。
「夕方には戻るよ」
そういうとアルベルトは、成人の儀が行われる月の山へ向かった。
絶対に失敗はできない
アルベルトは振り返っていつもみたいに手を振りたい気持ちを抑えて、決意の強さを誇示するように前だけを向いて、月の山への一歩を踏み出した。
成人の儀へ臨むそれぞれの身支度は、家庭環境や裕福度に比例する。
使用人やポーターを従えてガイドに案内させている者や、
親子で山に入って行く者など様々だった。
同伴者はそれぞれだが、最低条件としてロバを連れていくことが慣習になっている。
見つけたコーヒーノキから収穫したお豆を村まで運ぶためには、ロバが必要不可欠だった。
「小さくてもいいからロバが欲しいな」
そうポツリと言いながらアルベルトは月の山を目指した。
うっそうと茂る雑林から標高を徐々に上げていく。
しばらく歩くと、遠くからこちらに向かってくる人影が見えた。
すでにお目当てのコーヒーノキから収穫を終えた彼らは、ロバの背に赤いチェリーを乗せて山から降りてくるところだった。
「この先の大岩から右に折れたところに、昔使っていたコーヒーノキがあるんだ。今は誰も使っていないからよかったら使ってよ。」
そう声をかけてくれたのは、幼馴染のロンだった。
何かと気にかけてくれる幼馴染だ。
「ありがとうロン。さっそく行ってみるよ。」
ロンと片手を上げてあいさつを交わしたアルベルトは、安堵した気落ちでいっぱいになった。
険しく広陵とした月の山で自分だけのコーヒーノキを見つけるのは至難の業だ。ましては相棒のロバがいないとなれば、収穫したお豆を持ち帰ることも困難になる。
村からほど近い場所でコーヒーノキを見つけて、持てるだけのお豆を持ち帰れば夕方には十分間に合った。
だが、アルベルトの中で何かしっくりこなかった。
本当にこれでいいのか?
自分のコーヒーノキを見つけたい!
ロンに教えられた大岩に差し掛かったとき、その迷いは消えていた。
アルベルトの歩みはまっすぐに月の山深部へと向かっていた。
時間はまだ早い。
自分だけの胸張れるコーヒーノキを見つけたい。
ロンの優しさを胸に、アルベルトは標高を稼いでいく。
やがて木々は低くなり、背の低い草花が主役となる。
標高は4,000mを超えていた。
森林限界と呼ばれるこの一帯では、植物は生えなくなり酸素が薄くなる。
陽は傾き沈み始めていた。
まずい。
急いで帰らなきゃ
この一帯にはコーヒーノキは生えていない。
ロンが教えてくれたコーヒーノキを収穫して村に帰っていれば、今ごろ暖かい家で母と夕食を食べている時間だった。
辺りはすっかり夜になった。
月明かりが峰と峰の間から筋状に差し込む。
その谷間に何か気配を感じた。
アルベルトは吸い寄せられるように月明かりに導かれてその谷間に駆け寄った。先ほどの気配を発していたのは野生のロバだった。
月明かりに照らされたロバは神々しく、そばには赤いチェリーがたわわに実っていた。
コーヒーノキだ!
アルベルトは思わず叫んだ。
彼が探し求めていたコーヒーノキがそこにあった。
ロバは逃げることもなくそこに立ちつくした。
まるでアルベルトが来るのを待っていたかのように。
「ドンキー、待たせたね。さぁ、一緒に帰ろう。」
コーヒーノキから赤いチェリーを摘み取り、ドンキーの背中に乗せて2人は山を下った。
村に着く頃にはすっかり夜になっていて、それぞれの家からお祝いのご馳走の匂いや弾むような声が聞こえる。
アルベルトはドンキーの背中をトントンと叩いて、これからの相棒に挨拶した。
見慣れた家からは、彼の大好きなシチューの匂いがした。
胸張って帰ってきたアルベルトはもう立派な大人になっていた。
相棒のドンキーもいる。
彼は大好きなシチューの匂いがする扉を開いた。
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11月 『なんのはなしです珈』は、ウガンダのお豆【 moonlight Donkey 〜秋の夜長ブレンド〜 】
です。
ロバ(ドンキー)の背に乗って運ばれた優しいコーヒーを、秋の夜長に楽しんでいただけたら嬉しいです🌙
今回予約販売を開始しました!
10月末までに頂いたご注文の発送を11月上旬に予定しています。
水出しパックのバリエーションも増え、送料無料ラインを2025年末まで下げさせていただくことになりました。
期間限定のスペシャルブレンドをぜひお楽しみください🪴
