よしおと最後の一服
※この物語は2026年1月2日に見た初夢です。
フィクションのようでノンフィクションな『なんのはなしですか』をお楽しみください
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親父と車に乗っている時に、
「これを最後の1本にしようと思う」
と、いきなり言われた。
あんなにタバコをやめなかったよしお(小島よしおさん)は、覚悟と優しい眼差しをしていた。
喫茶店のマッチで最後の一服をしている横顔を見て、助手席に座っていたマサルもこの一服を最後に禁煙することにした。
「あと1本残っているから、吸いたくなったらこの一本から始めることにしよう」
そういうと、
「じゃあ、ダッシュボードにあるジップロックに入れて持っていればいいよ。大事な1本だから」
とよしおはジップロックに最後の1本とマッチを入れて渡してくれた。
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陽が傾いた街中を抜けてトンネルが続くアンダーパスに入ると、マンションのエントランスへと続く街道に出た。
ふとよしおが、
「最近怪我も続いててさ」
そう言ってみせてくれた左ひじには痛々しい手術の跡があった。
彼はただのお笑い芸人ではない。
子供達の憧れであり、ヒーローであり、
スポーツ選手なのだ。
某テレビ番組の予選を勝ち抜くために続けていたトレーニングで、身体は酷使されて悲鳴をあげていた。
「そろそろ次の生き方を探さなきゃな」
そう言ってよしおは、あるタワマンのエントランスに目を奪われながら車を走らせていた。
「人さらいかもしれない」
よしおがポツリという。
「えっ?今の人たち?」
人さらいというよりかは、われ先にエントランスから出たいという一心で回転扉に押し寄せた男4人と女性2人が、グルグル回って出られなくなっているように見えた。
「おれ、放っておけないから戻るわ。お前も一緒に来るか?」
「もちろん!」
よしおを父親に持つマサルも体力には自信があった。むしろ、その機会を試すために何かを探していたのかもしれない。
回転扉から出られないパニックになった6人の元に、さっき禁煙を始めた親子が駆けつけた。
よしおはお家芸の「うぇーい」と言いながら人さらいに近づく。
マサルは証拠になるならとiPhoneでビデオを撮った。
「おい、落ち着けって!いや、早くしろって!」
リーダー格の大男が2番手らしい背の高いオシャレな男に叫んだ。
オシャレなノッポは落ち着いた声で、
「リーダー、ここでグルグルしていたら見つかってしまいやすぜ?」
そう言いながら回転扉を回っていた。
よく見ると女性2人はキャッキャ言いながら回転扉で遊んでいた。
改めて見ると、どこからどう見ても人さらいではない。
むしろ仲のいい回転扉で遊んでいる大人であった。
ただ、この大人たちはなぜ回転扉の原理がわからずに出られなくなったのかと違和感を覚えた。
「お兄さーん、もう観念しましょーよ〜、こんだけ現場押さえられてたら逃げられないでしょ〜」
よしおは強がりながらも回転扉を止めないように回しながら言った。
それを見たマサルは悟った。
「よしおの左ひじは限界が近い」
手術後間もないよしおは、最後の選手生命をこの回転扉に選んで全てをぶつけていた。
その覚悟を見たマサルは、再帰をかけるよしおの覚悟を無駄にしてはいけないと思い、証拠のビデオを回し続けた。
「おい、誰か来たぞ!ってか、さっきよりも出れなくなったぞ!誰だこいつは!?」
リーダー格の大男が目を回しながら叫んだ。
他の5人も目が回ってぐったりしていた。
人さらいの現場としては、大男を含む男4人対体力自慢(禁煙したて)親子2人ではぶが悪いと一瞬躊躇したが、回転扉で伸びてしまった訳だから楽勝に思われた。
やがてよしおの左ひじは限界を迎え、回転扉は徐々に勢いをなくしていった。
長年芸能界の第一線で、スポーツタレントとしてやってきたよしおの最後の灯火は、自分がつなぐという使命感も加わり、iPhoneを持つ手に一層力が入った。
その時、回転扉は止まった。
目を回した男4人とはしゃぎ疲れた女性2人はフラフラしながら安定した地上にソフトランディングした。
「ありがとう、助かった、ぜ。。」
よしおは驚いた。
リーダー格の男は、仲間が回転扉を回しまくっていたのを止めてくれたヒーローとして、よしおに礼を言った。
「うぇーい」
調子のいいよしおは最後の一仕事を終えた左ひじをかばいながらポツリと言った。
男達は女性2人の介抱を私たちに頼むと、フラフラした足取りで暗がりに消えていった。
よしおもその場に倒れ込んだ。
マサルは男達を逃してはならないと強く思った。
実のところ気付いていた。
この男達は人さらいではないことを。
ただ、
よしおの最後の灯火を消したくなかった。
彼らには悪いが犯罪者になってもらう他なかった。
格好もちょっと不思議な服装だし、大男リーダーとおしゃれ風男と手下2人はどこからどう見ても犯罪集団に見えた。
後は編集でそれっぽくできると確信していた。
「ありがとうな、にいちゃん。よかったら一緒に来るか?」
リーダー格の男はマサルに言った。
「いやいや、アニキさすがにまずいですって。そりゃ命の恩人なことには変わりないけど、一緒に連れて行くのにはリスクが大きいっすよ。しかも、何が起こるかわからない。」
「何が起こるかわからない」
その一言はマサルをかきたてた。
どうしようもない衝動が奥の方から溢れ出した。
「まぁ、そうだな。にいちゃん、ほんとありがとな!助かったわ」
そう言い残すと男達は暗がりに消えていった。
倒れたよしおは、さっきまではしゃいでいた女性に介抱されていた。
「オヤジ、行ってくる」
そう心の中でつぶやいたマサルは、男達の後を追った。
マサルには大事な役割がある。
男達を犯罪集団風に仕上げる必要があったのだ。
「に、逃げるなよ、ちょっと待てよ」
小声ながらも叫びつつ男達の後を撮りながら追った。
男達は暗がりの奥へ姿を消していた。見失ったのだ。
まずい。
そう思った瞬間、奥の方から大型トラックと列車がこうこうと灯りをつけてこちらにゆっくりと走ってきた。
「にいちゃん!来るなら乗りな!」
大男が列車を運転しながら叫んだ。
マサルの頭の中でさっきのワードが巡っていた。
「何が起こるかわからない」
20代に入り何をしたらいいか迷っていたマサルには変化がほしかった。
このよしお事件を目の当たりにした時、よしおがタバコをやめると決心した時、左ひじの最後の灯火が消えた時、何かが変わるのではないかと感じた。
「乗ります!」
そう叫ぶと、大男の運転する列車前方に飛び乗った。
これから何かが始まる。
とにかくその確信だけを胸に、どこかに向かっている列車にしがみついた。
「ちょっと無茶な道を走るから我慢してくれよ?」
そういうと下水道の方へ舵を切った。
マサルのiPhoneは防水だった。
だが、長年使ってきたお気に入りの小銭入れはヌメ革のため水に弱い。濡らすわけにはいかない。
そんな時、最後の一服を保存したジップロックの存在を思い出した。
よしおとの約束をつないだジップロックに小銭入れを入れて、これで恐れるものはないと覚悟を決めた。
下水道から下水道へと走りゆく列車の先頭でマサルは、犯罪集団が逃げる風にビデオを撮り続けた。
やがて列車のスピードが弱まりトンネルの先が明るい場所に出ることを予感した。
その時、列車の運転席から大男が叫んだ。
「ようこそ、600年後の未来へ!」
列車は街を見下ろす高台を走っていた。
カプセルの管みたいなものが青空の中規則正しい方向へ伸びていた。
その中を乗り物が抵抗感なくスーっと走っていた。
どこか違うところに来た
マサルは直感した。
空気が違う。
ひんやりしていて風が気持ちよかった。
これから始まる新しい何かを予感した。
回転扉から出られなくなっていた男達を犯罪集団に仕立てるために撮っていたビデオを止めた。
このビデオは、よしおの最後の灯火と、マサルの最初の一歩を踏み出した瞬間が収められている。
「何が起こるかわからない」
そう呟くと、これから起こる色々なことを記録して、いつかよしおと再開の一服をしながら話をする自分を想像した。
やがて列車は速度を落とし、駅へと吸い込まれていく。
これから始まる新しいワクワクがゾクゾクな生活に期待が膨らむ。
600年後の街に着くと、マサルはふとヌメ革の財布が気になってジップロックを開けた。
その時、リーダーの大男がジップロックに入っていた喫茶店マッチを指さして、
「この店、オレたちのアジトにしている喫茶店だぜ」
と言った。
行くあてもないマサルは大男達と一緒にアジトに行くことにした。
カランカラン。
喫茶店のベルがなり、どこか懐かしさを感じるアジトに着いた。
「一服していくか?」
そう言いながらコーヒーを差し出すマスターの左ひじには、古傷が残っていた。
