災害対応を支える「もう一つのチーム」――D24Hは、情報をどうつなぐのか[A-12]

令和8年熊本地震では、DMAT、DWAT、DHEAT、JMATなど、多様な保健・医療・福祉支援チームが被災地で活動しています。

これまでの記事では、こうした「人」が動く仕組みに焦点を当ててきました。

しかし、災害対応を動かすためには、もう一つ欠かせないものがあります。

「今、どこで、何が起きているのか」を共有する情報基盤です。

その役割を担う仕組みの一つが、厚生労働省の「災害時保健医療福祉活動支援システム」、通称D24Hです。

D24Hは、令和6年能登半島地震で本格運用前の機能が先行活用され、その後、トカラ列島近海を震源とする地震などで実際の災害対応に用いられながら整備が進められてきました。

そして令和8年熊本地震は、その整備過程にあるD24Hが、より本格的な運用段階に入った時期に発生した災害でした。

ここでは、能登半島地震やトカラ列島近海地震における被災者、関係者の方々への敬意を前提に、D24Hがどのように形づくられてきたのかを一次資料からたどります。


D24Hという情報基盤

D24Hは、Disaster Digital Information System for Health and well-beingの略称です。

厚生労働省の2026年3月16日D24H説明会資料によれば、D24Hは、災害時の保健・医療・福祉に関する厚生労働省の個別システムや、新総合防災情報システム「SOBO-WEB」と情報連携し、保健・医療・福祉情報と、浸水域や道路啓開情報など他省庁の災害情報を迅速・リアルタイムに集約する仕組みです。

さらに、集約した情報を整理・分析し、地図上に可視化することで、都道府県の保健医療福祉調整本部における、支援チームの派遣や物資支援などの意思決定を支援することが想定されています。

ここで重要なのは、D24Hが単独で情報を集めるシステムではないという点です。

医療機関についてはEMIS、介護施設については災害時情報共有システム、障害福祉施設・児童福祉施設についても災害時情報共有システムと連携します。

一方、避難所情報については「D24H Survey」を用いて入力します。

つまり、

施設の情報は既存システムから連携し、避難所の情報は現場から入力する。

その情報をD24Hに集約し、地図などで可視化する構造です。

これは、災害時に「施設」と「避難所」を別々の情報として扱うのではなく、保健・医療・福祉という一つの視点から把握するための基盤と位置づけられます。


能登半島地震で始まった先行活用

D24Hの本格運用は令和6年度から予定されていました。

そのタイミングで発生したのが、令和6年能登半島地震です。

2025年3月の厚生労働省広報誌によれば、能登半島地震では、本格運用前のD24Hについて、発災直後から避難所状況を把握するための一部機能が解放され、石川県保健医療福祉調整本部や保健所などで活用されました。

現場で活動するDMATや保健師等は、ラピッドアセスメントシートの項目に沿って避難所情報を入力しました。

このシートは、避難所のトイレやライフラインなどの生活環境を評価するための統一様式です。

入力された情報を保健・医療・福祉の関係者間でリアルタイムに共有することで、避難所の衛生環境改善につなげる取り組みが行われました。

つまり能登半島地震では、D24Hはまだ「完成した総合情報基盤」としてではなく、まず避難所情報をつなぐ機能から実災害に投入されたことになります。

ここには、システムを作ってから使うのではなく、実際の災害対応の中で使いながら整備していくという側面があります。


本格運用に向けた段階的な整備

能登半島地震後も、D24Hの整備は続きました。

令和7年3月25日には、内閣府と厚生労働省からD24Hの活用について周知する事務連絡が発出されています。

同年7月25日には、D24Hの概要や操作方法に関する研修資料、動画、Q&Aが取りまとめられました。

この時点では閲覧権限は国と都道府県に限られており、今後、市町村等にも広げていく方針が示されていました。

そして令和7年7月3日には、トカラ列島近海を震源とする地震において、D24Hの活用が実際に要請されています。

災害救助法が適用されたことを受け、厚生労働省から鹿児島県に対してD24H活用に必要な情報が示され、避難所における健康問題への対応に活用する仕組みが動きました。

さらに令和8年2月16日には、市区町村にも閲覧権限を広げるため、各都道府県に自治体アカウントの登録が依頼されています。

そして令和8年7月22日。

D24H公式サイトに「D24Hを活用した保健所被害情報の入力・閲覧方法」の簡易マニュアルが公開されました。

その6日後の7月28日、令和8年熊本地震が発生します。

この時系列だけを見ると、D24Hは、能登半島地震での先行活用、トカラ列島近海地震での実災害への投入、自治体への閲覧範囲拡大、操作方法の整備という段階を経て、実際の大規模災害対応に用いる基盤として整備が進んでいたことが分かります。


人が動くために情報が動く

D24Hを考えるうえで重要なのは、システムそのものを目的にしないことです。

厚生労働省は、災害時には医療、感染症、歯科保健医療、生活不活発病、要配慮者・在宅被災者、こころのケア、食支援・栄養指導など、多岐にわたる対策が必要になるとしています。

そして、それぞれを担う複数の支援チームを総合的に調整する役割を、保健医療福祉調整本部が担います。

D24Hは、その調整を情報面から支える位置にあります。

医療機関からはEMIS。

介護・福祉施設からは災害時情報共有システム。

避難所からはD24H Survey。

さらに、SOBO-WEB等を通じて他省庁の災害情報。

それらを集約し、地図上で可視化する。

その先にあるのが、

「どこへ支援チームを派遣するのか」
「どこに物資支援が必要なのか」
「避難所で何を改善すべきなのか」

という意思決定です。

DMATやDWATが「現場を支える人」であるなら、D24Hは、その人たちが活動するための情報の土台という位置づけになります。


BCPから見たD24Hという存在

施設のBCPでは、これまで「被害状況を報告する」という視点が中心になりがちでした。

しかしD24Hの構造を見ると、報告はそれ自体が目的ではありません。

医療機関はEMISを通じて、介護・障害福祉施設は災害時情報共有システムを通じて、それぞれの被害状況が集約される仕組みになっています。

つまり施設側から見れば、

「被害を報告できる状態にしておくこと」そのものが、受援の入口になる。

ここはBCPを考えるうえで見落としにくいポイントです。

どれだけ詳細なBCPを作っていても、施設の被害状況や支援ニーズが外部に伝わらなければ、外部支援との接続は難しくなります。

反対に、平時から情報入力の仕組みを理解し、必要な情報を整理できる状態にしておけば、施設の状況を外部の支援体制につなげるための基盤になります。

もちろん、今回の資料だけから、令和8年熊本地震においてD24Hがどの程度対応を円滑化したのかを評価することはできません。

確認できるのは、D24Hが能登半島地震で一部機能を先行活用され、その後も実災害への投入、自治体への権限拡大、操作環境の整備を重ね、令和8年熊本地震が発生した時点では、より広い情報を扱う基盤として整備が進められていたという事実です。


「情報基盤」もまた、整備の途中にある

DMATの記事では「人が動く仕組み」を、DWATの記事では「制度が作られていく過程」を扱いました。

D24Hは、その二つとは少し違います。

これは情報をつなぐ仕組みです。

そして、その仕組みもまた、最初から完成されたものではありませんでした。

能登半島地震では一部機能を開放して使われ、トカラ列島近海地震では実災害で稼働し、その後も研修、Q&A、自治体アカウントの整備、マニュアル更新などが続けられています。

令和8年熊本地震は、その整備が続く中で発生しました。

だからこそ、D24Hを「完成したデジタル防災システム」として見るより、災害対応の現場とともに整備されている情報基盤として見るほうが、現在の位置づけを正確に捉えられます。

災害時に必要なのは、人だけでも、制度だけでもありません。

人が動く。
制度が支える。
そして、そのために情報がつながる。

DMAT、DWAT、そしてD24H。

それぞれ異なる役割を持つ仕組みが、同じ災害対応の中で重なり合っています。

BCPを「施設の中だけの計画」として考えるのではなく、外部支援につながる情報の流れまで含めて考える。

D24Hの歩みは、その視点を考える一つの材料になりそうです。

そしてこの情報基盤もまた、現在進行形で作られている途中にあります。


参考資料
厚生労働省 広報誌『厚生労働』2025年3月号 特集2(後編)「災害時に現地で活動する保健・医療・福祉支援チームの成り立ちと取り組み」
https://www.mhlw.go.jp/stf/houdou_kouhou/kouhou_shuppan/magazine/202503_002.html

厚生労働省大臣官房厚生科学課「令和6年能登半島地震における厚生労働省の対応について」令和6年8月20日 資料5
https://www.mhlw.go.jp/content/12401000/001291023.pdf

厚生労働省大臣官房厚生科学課災害等危機管理対策室 事務連絡「大規模災害時における「災害時保健医療福祉活動支援システム(D24H)」の活用について(周知)」令和7年3月25日付
https://www.mhlw.go.jp/content/001463038.pdf

厚生労働省 資料「災害時保健医療福祉活動支援システム(D24H)について」2026年3月16日D24H説明会
https://www.mhlw.go.jp/content/001675031.pdf

厚生労働省大臣官房厚生科学課災害等危機管理対策室 事務連絡「大規模災害時における「災害時保健医療福祉活動支援システム(D24H)」の活用等について(周知)」令和7年7月25日付
https://www.mhlw.go.jp/content/10600000/001685325.pdf

厚生労働省大臣官房厚生科学課災害等危機管理対策室 事務連絡「大規模災害時における「災害時保健医療福祉活動支援システム(D24H)」の活用に向けた対応について(依頼)」令和8年2月16日付
https://www.mhlw.go.jp/content/10600000/001685328.pdf

D24H公式サイト「D24Hを活用した保健所被害情報の入力・閲覧方法」令和8年7月22日付
https://www.d24h.mhlw.go.jp/news/d24h%e3%82%92%e6%b4%bb%e7%94%a8%e3%81%97%e3%81%9f%e4%bf%9d%e5%81%a5%e6%89%80%e8%a2%ab%e5%ae%b3%e6%83%85%e5%a0%b1%e3%81%ae%e5%85%a5%e5%8a%9b%e3%83%bb%e9%96%b2%e8%a6%a7%e6%96%b9%e6%b3%95/

D24H公式サイト トップページ・「D24Hについて」
https://www.d24h.mhlw.go.jp/ 、https://www.d24h.mhlw.go.jp/d24h_intro/