「労働は作品たりえるか?」
実験タイトルの変遷 「労働は芸術たりえるか?」(気取りすぎて嫌) 「労働は文化たりえるか?」(いや縄文時代から文化だよ) → 「労働は作品たりえるか?」(やっとしっくり来た) ← イマココ
★実験の目的と背景
私はこれまで複数ジャンルの職種を経験し、
その生き方は「節操がない」という下馬評がほとんどです。
ですが、幼少時からずっと感じてきたのは、
「クリエイターたるもの、一流職人でなければならぬ」
という風潮への違和感です。
たとえば、芸術家が芸術のために仕上げた作品よりも、
学者であるレオナルド・ダ・ヴィンチや南方熊楠が、
“記録”のために描いた写実画に、
私は鬼気迫る説得力と途方もない感動を覚えてやみません。
そうした原体験から、
「記録すること」「労働すること」そのものが
作品たりえるのではないか? という問いが、ずっと胸にあります。
この実験は、分野横断的な労働や記録の行為に内在する芸術性を探り、
いわば“節操のない享楽家”である自分の生き方を、問い直す試みです。
★検証したいこと
労働行為や日々の記録そのものは、芸術たりえるのか?
制作者本人の「芸術である」という意図を超えて、
第三者が“作品性”を見出す条件とは何か?既存のクリエイター像に当てはまらない実践や働き方は、
社会的・芸術的にどう評価されうるのか?
Ⅰ.はじめに
研究
労働は義務か、表現か?
「働くこと」を“生産”ではなく“創作”と見立てたとき、世界はどう変わるのか。
本研究は、街を歩き、人と出会い、そこで交わされた言葉を記録しながら、その答えを探す試みです。
Ⅱ. 方法
観察は次の条件で行った。
期間:2024年9月~2026年6月
場所:大阪市中央区・西区・西成区・ミナミエリア・兵庫県加西市
方法:現地を歩き、店に入り、会話を交わしながら記録。
方針:実名・店名は伏せる/対象者は番号で示す
その心は:単に朝から晩まで飲み歩きたい。
Ⅲ. 観察記録
以下に、出会った人びとを時系列で記す。
それぞれの場面で、私のメモも併せて残した。
2024.9.1 スーパーT(K店)
【対象者①】警備員のおっちゃん
・状況:数日後閉店の張り紙についてあまりにびっくりして警備員のおっちゃんに「びっくりやわ!」と思わず話しかける
・印象的な言葉:「まぁ、ひと月くらい改装工事はいるわな。」(K店が閉店し他店になることについて)
・Baronessメモ:そのおっちゃんの目はスーパーTと自身の未来を憂えていなかった。跡地は現在スーパーHとなっている。
2025.7.3 下町のビオトープ
【対象者②】管理者・Iさん
・状況:私が移植した緑の様子見がてらの散歩中、ビオトープで植物の手入れ
・印象的な言葉:「与那国いってきたんかいなぁ?(私のヨナグニサンTシャツを見つけて)」「ヨナグニサンってわかるんですか?」「当たり前やぁ、アゲハも卵から育てて、皆に見てもろてる。」
・Baronessメモ:石と蝶と緑化活動で20年この川沿いを見守る男。盆栽並み鉢植えから始まり、地元の有志の協力で果樹園へ広がったと語る。もともとは、花が咲いたような自然石を愛するダンディ。

2025.7.6 午後1時 西成居酒屋N
【対象者③】ジャージで光る俺を見てくれ・A氏(臙脂ジャージ)
・状況:前週に名前刺繍入りジャージ姿で現れる
・印象的な言葉:「その服装のまま、あの地域を歩きたい。…それは享楽的な行動かもしれません。成人が日常で着ないジャージで、課題のある街を徘徊、店舗を利用することによる周囲へ及ぼすその影響と波及効果について。要は、一緒にジャージを着て労働者の街を徘徊してもらいたい。」
・Baronessメモ(青ジャージ):グラス二杯目からは互いに手酌で。作品か享楽か、その境界を歩く徘徊者。一大西成曼荼羅の形成なるか。
午後3時 Hちゃんの店
【対象者④】63歳のあんちゃんサーファー
・状況:1600円の会計を告げられ、そんなのないから知らないと拒否。
・印象的な言葉:「体臭いと思われたら××する」
・Baronessメモ:中近東風スカルスカーフにかりゆし、白い帽子。粋でイナセ。
午後5時 ホルモン屋の路上
【対象者⑤】不明(酔客)
・状況:店先で立ち話
・印象的な言葉:「おねーちゃんこの辺部屋あんの?」
・Baronessメモ:店主がすかさず、「飲食店に不動産情報聞いてどないすんねんな」と切り返す。
午後6時 カラオケ居酒屋
【対象者⑥】東大阪のアルファード乗り
・状況:酒を飲みながら昔話
・印象的な言葉:「俺らの中学校の卒業式に機動隊来たで」
・Baronessメモ:その後、私は圭子の夢は夜ひらくから六本木心中まで絶唱。
午後10時 アートバー
【対象者⑦】妙齢男性2人
・状況:自身のオーダーしたカクテル名に食いついた妙齢男性二人と同タイトル映画シリーズトーク。
・印象的な言葉:「西成の暴動はパーッと明るいねん。」
・Baronessメモ:ゴッドファーザーを痛飲。

深夜 ミナミのバー
【対象者⑧】桃ジャージ候補・31歳バーテン
・状況:カウンターで仕事の話
・印象的な言葉:「介護士を普段はやっています。本当は保育士なりたかったけどピアノが弾けなくて断念、やっぱりやりたい仕事したくてここに。」
・Baronessメモ:やりたい仕事を探し続ける声。介護と酒場、その間で生きる。…そして私はその酒場片隅で朝まで爆睡。
2025.7.24 とある福祉事業所
【対象者⑨】職員
・状況:いつものやりとり
・印象的な言葉:「歌うしかないんだよ、みんな自分の歌を」
・Baronessメモ:「私はみんなと自身の歌を記録して伝えていきたいです。」
2025.8.某日 自宅部屋
【対象者⑩】あるイラストレーター
・状況:いつものグダグダ長電話
・印象的な言葉:「どちらも違うね、業。(絵描きのお仕事は労働ですか?作品ですか?との私の問に)」
・Baronessメモ:生業とは?
2025.8.31 兵庫県加西市

【対象者⑪】路上写真家Cさん
・状況:鶉野飛行場跡施設に行った私へ、父上が紫電改の整備士であったことを語る
・印象的な言葉:「父は零戦と紫電改を比べて、性能の違いをよく話してくれました。戦争末期、鳴尾基地に48機の紫電改が集められ、源田実がパイロットや整備士に檄を飛ばしたそうです。」
・Baronessメモ:整備士たちの誇りは、飛行機を飛ばすための技術にあった。その営みは、作品と呼べるのだろうか。

ミュージアムも、飛行場跡も、音がない。8月の終わりの照り返しが祈念碑と旭日旗にも苛烈で、暑い。
夏の快適な日々魚は跳ね 木綿は育ち 赤子は泣かない
パパはリッチ ママはとっても美人
いつの日か翼を広げ 空に飛ぶ
何も怖くない パパとママがそばにいるから
"Summertime"アメリカ子守歌
かつての加速、今は沈黙。ただ、敬礼と黙祷を。
2025.9.1 朝 自宅浴室前
【対象者⑫】あるバーのマスター
・状況:あるバーの元常連よりマスターの訃報
・印象的な言葉(マスター):「俺、あんたらの息子で良かったよ。(実家に里帰りした際ご両親に言ったとマスター談)」
・Baronessメモ:大金を積まずとも親孝行はできる。他常に労働について問題提議し、そのバーは逃げてきた私の雨宿りの場所だった。マスターの仕事は接客そのものを“作品”にしていたのだと思う。
また雨宿りさせてよ、Tさん。
2025.9.14 某文学フリマ
【対象者⑬】労働したくない勢
・状況:午後2時過ぎよりライターD氏が著書をひっさげ出店、のちウロウロ。「労働したくない」を訴える著書をひっさげた方々のブース、枚方の「Mじめ書房」店主・K氏ブース、そこの棚本店主が「Mヌケ出版社」旧知の友M氏ーと知りコインシデンスにビビる。
・印象的な言葉:「小生、実は労働についての研究企画をnoteにアップしております」と自己紹介した。
・Baronessメモ:労働なんかしたくないという舌乾かぬその足で開催されている合同企業説明会に参加という大矛盾の一日。
2025.9.15 某文学フリマ売れ残りをさばいて飲む会@BarY
【対象者⑭】文学フリマ会場の皆さん
・状況:極力たくさんの人にヒアリングしたく、イベント開始直後より入店。腹も減り諦めて出ようかとした矢先話しかけた著者S氏と飲みながら話せる幸運にありついた。
・印象的な言葉:23時前まで粘り、たまたま近所にアトリエを持つ法廷画家より「カレーがありますよ」
・Baronessメモ:とLINEが来たためご挨拶をし退出。
2025.9.21 BarYイベントで知り合ったT氏が活動している万博デモ参加
【対象者⑮】万博デモ参加の皆さん
・状況:気づくとジャージ姿にレイバングラスをかけカスタネットを鳴らして御堂筋を練り歩いていた。チンドン屋じみたイロモノ扱いも使いようだと感じる。
・印象的な言葉:諸々に反対と大通りで叫び続けることで改めて自身の価値観を見据え腑に落とそうとしたが、落とせず。
・Baronessメモ:戦争と、世界で有数の渡り鳥飛来地の埋め立て反対は一貫し変わらねど。と観光客に動画を撮られまくりながらやはり考えていた。
2025.10.3 デモ後の万博会議
【対象者⑯】万博会議出席者の方々
・状況:議題は大阪万博に絡む世への問い。
・印象的な言葉:万博開催において埋め立てられた渡り鳥飛来地から野良猫のTNR活動、男女共同参画会議、選択的夫婦別姓まで議論は多岐に渡った。
・Baronessメモ:私自身は右も左もない。ノンポリと思われても仕方ない。酒を一人飲んでいた。
ただ、世界を素敵に生きようともがく人間の過程に右も左もないと思っている。
「私たちの活動は、保守でなくリベラルなんです。」
2025.11月末 西成飲み屋T
【対象者⑰】ある飲み屋の女将
・状況:ジャージで西成曼陀羅形成に協力いただいた臙脂ジャージAッキー氏に紹介したい飲み屋があると誘われ西成奥の住宅街へ。Tという小さな飲み屋をオーナー女性が一人切り盛りしている。お話を伺うと、ド体育会系で名高い企業に長年勤めたあと、居酒屋バイトを経てこの店をパンデミックの中オープンしたとのこと。
・印象的な言葉:「よく、そんな最中にやりましたね。」「ちょうどこの物件も見つかったし、この勢いでやってしまうしかないと思って。」
・Baronessメモ:同じくパンデミック直前に物件探しもテーマも資金繰りも決めていて、あとは契約のみという段階でパンデミックにおののき、時期を見ようと一旦店の計画を反故にした私は、その後いくつか店運営の話をいただいた時にはとうに情熱も金も失せていた。
2026.5.2 太地くじら博物館
【対象者⑱】鯨猟師
・状況:鯨とイルカの違いは大きさだけだと初めて知った。
博物館ではいかに鯨漁が大変な事だったか、その肉を貴重な蛋白源として皆の腹を満たし、髭一本も無駄にせず楽器や食器、文房具に至るまで余す事なく役立ってくれたかの歴史がわかる。
・印象的な言葉:漁の船は無駄な装飾など皆無な時代に鯨漁の船だけは常に色鮮やかな装飾がなされており、実用性のみの漁船の時代に何故鯨漁の船だけが、こうも彩豊かなのか、は研究家にも不明らしい。
・Baronessメモ:鯨イルカに鯵や鰯を与え可愛いな、と愛でたその口で鯨肉を喰う。
捕鯨反対と盲目的に活動する方々に同調もしないが、とはいえ鯨漁は文化だと果たして鯨肉を大して食いも活かしもせず鯨肉が食えなくとも困りもしない人々の意見も鼻白んで阿呆臭い。どの口が言う。
鯨を畏怖を持って狩り、皆の口と蛋白源を満たして自身の生活の糧とする。髭一本、無駄にはせずに。訴えはその漁師だけが許される。
私の血と肉は鯨でできている。
大阪に帰るまでは。

2026.5月下旬 労働先
【対象者⑲】雇い主
・状況:会議室で3人がかりで詰められる
・印象的な言葉:「その服装はポリシーなんですか?」
会社から服装がラフ過ぎて悪目立ちしている、靴紐がピンクなのもカーディガンが青もチノパンが紅いのもおかしいと4者面談で詰められた。
デーモン閣下じゃあるまいし、ポリシーな訳ねぇじゃん!と会議室デスクを蹴り飛ばしたいのをこらえ解放されたら社員は真っ赤なジャンパーとかかとの空いたスリッパでウロついていた。
・Baronessメモ:お前も蝋人形にしてやろうか!!
Ⅳ.後日、宿酔い
「労働」というものと「好きなことをして稼ぐ」という価値観がフラットにならないものだろうか、
どちらも美化するものではない、生きていくためにやるだけのこと。
Ⅴ.インスパイア集:(引用)
”日常を非日常化する工夫をせよ。”
”オン アボキャ ベイロシャナウ マカボダラ マニ ハンドマ ジンバラ ハラバリタヤ ウン”
”サイクルにこそ、真実が含まれている。人生の現実は、感覚ではなく活動だ”
"この絵は売り物にはできません。神様にささげた絵なのです。”
”「漂えど沈まず」という言葉を核とした一作を書こうとしていたが結局、書けたのか書けていないのか、それは読者のご判断。”
”素晴らしい人生とは、答えを出すのはとても難しい。瀬戸大橋を造るより難しいかもしれません。”
”前に進むことは問題を起こすことなんです。”
”世界は完璧ではありません。欠陥や問題点を見つけ、それに取り組むことが今私たちがここに存在してる理由でもあるのです。”
”生きた証を残したい”
【対象者⑳】父Baron.T
・状況:トラウマ
・印象的な言葉:「生きた証を残したい。」
・Baronessメモ:中卒から定年までライン工、定年退職後もローン支払いと生活費に追われ昼夜ポスティング・皿洗い・スーパーのカート整理とかけもちバイトに明け暮れとうとうリタイアした元文学青年、ちょっと気の弱い男爵の過去から現在に一貫する労働は一体作品なのか。私は目立った作品を残せぬままの労働者、公募投稿狂いの父のあがきが幼少期から嫌だった。
Ⅵ.Baroness自身を俯瞰
自身を俯瞰するのは困難だ。何者か、というのを提示しないと社会をうまく渡れないのであれば、私は”生活者”だ。逃げや言い訳と思われて当然、ただ私の生活は面白く、ずっとそれを作品にしてる。
私の言動、行動、労働の姿そのものを面白がってくれる社長なり、ホームレスなり、犬なり猫なり畜生なりが存在するのならば、それはイコール作品と言ってもおこがましくはない気がする。
Ⅶ.最後に
Baronessハイティーンの頃から兄と慕う親友、O氏の台詞を。
2025.11.18
【対象者㉑】「メガネの奥には未来への光」O氏
・状況:ひと言くれ。
・印象的な言葉:
ー考える上で“労働”と“作品”それぞれを定義する必要があるけども
“労働”
生活するための活動・金を稼ぐ手段・社会貢献・自己実現のための手段 など
“作品”
見る人がいるもの・客観的なもの・心を動かすもの
なので、どんな活動も作品として見れるかどうか、
それを見て感動できるか否かは、
”見る人による” ー
・Baronessメモ:
ーあなたは今日の労働を何と呼びますか。
