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花びらを踏んだまま #シロクマ文芸部

 花びらを踏みながら、桜並木を歩く。
 人々の視線は枝に咲く花ばかりに向けられ、私も含めて、足元で踏まれる花びらには誰も気を留めない。

 停留所に着くと、バスはすぐにやってきた。
 窓際の席に座ると、桜がそのまま流れていく。

 同じ間隔で植えられた木が、同じ高さで枝を広げている。
 どこまで続いているのか、少し気になったが、目で追ううちに、いつの間にか考えるのをやめていた。

 吊り革が、わずかに揺れている。
 誰かの咳が一つだけ聞こえて、すぐに消えた。

 最後に会ったのがいつか思い出せないほど、遠くなりすぎた人のところへ向かっている。
 何を話すか、決めていないことだけはわかっていた。

 アナウンスが流れる。
 次で降りなくては。
 ボタンを押すと、短い音が鳴る。
 その音だけが、少しはっきりしていた。

 バスが減速する。
 窓の外で、並木がふっと途切れた。

 白い建物が見える。
 同じ形の窓が、規則正しく並んでいた。
 バスから降りると、空気がわずかに冷たかった。
 さっきまでの並木はもう見えない。

 入口の前を、人が行き交っている。
 中に入る人、出てくる人。どちらも足を止めない。
 私は少し離れた場所で立ち止まる。

 さっきの並木は、どこまで続いていたのだろう。

 バスの中では、途中で考えるのをやめていたはずなのに、今になって、そのことばかりが気になる。

 入口の自動ドアが開く。
 中から、消毒液の匂いが流れてくる。
 その匂いだけが、急に現実を引き寄せる。
 私は一歩踏み出す。
 建物の中まで入り込んだ花びらを踏んだ。



(了)





こちらの企画に参加させていただきます。

花見というものを、もう何年もしていない。
かつて、私と花見をしたことのある人たち。元気にしているだろうか。

「会いたい人」がいるってのは、人生の財産だ。
たとえそれが、叶わないものだとしても。
願わくば、会いたいと思われる人でありたい。
それならばすぐ、会いに行けるから。

この季節になると、そんなことをよく思う。

小牧さん、よろしくお願いします。

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