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【ブックレビュー】静かな罪と、そこに生きる人々 『鍵のない夢を見る』 辻村深月

2012年刊行、直木賞受賞作。
全五篇を収録した短編集で、地方都市に生きる女性たちの閉塞感を共通のモチーフとして描く。

地方都市と犯罪という構図は、本作を読み解くうえで示唆的だ。同じく直木賞受賞作『ツミデミック』がコロナ禍と犯罪を結びつけたことを思えば、閉じた環境が人の内面を照らし出す装置として機能している点に、どこか通じるものがある。

一穂ミチさんの『ツミデミック』については以前、記事にしたこともあるので、その共通項から「比較論」の記事にしようかとも思ったが、今回は単品で『鍵のない夢を見る』について書きたい。



とても面白かった。そして、素晴らしかった。
短編小説は好きでよく読むし、『日本人作家のおすすめ短編小説 10選という記事も書いたことがあるのだけど、この10選に入れるべき小説だと思った。
まぁ、それはまた後日まとめ直すとして、本作について語っていこう。




閉じた街と犯罪行為

『鍵のない夢を見る』には、地方都市に特有の閉塞感が一貫して流れている。
巻末の林真理子氏との対談でも触れられていたように、辻村深月が山梨県で育ったことは、この空気の描写にどこか影響しているのかもしれない。
収録された五つの短編にはいずれも犯罪が関わるが、作者は罪を犯した人物の「理由」や「心情」を追わない。語り手が何を見て、どう感じたかだけが静かに置かれ、断罪の言葉はどこにもない。その余白に、作者の懐の深さがにじんでいる。

なかでも二話目の「石蕗南地区の放火」は印象に残った。
犯罪者そのものではなく、犯罪者を見つめる側の視点に物語を託すという意外な着地があり、思わず息をのんだ。
閉じた街の空気が、人々の視線や感情をどのように歪めていくのか。その構図が、短いページ数の中で鮮やかに立ち上がってくる。


男女の距離感

この短編集は犯罪を下敷きにしているが、魅力の中心はそこではない。
その出来事に関わる人物たちの描写が、とにかく見事だった。
子どもの視点、母が娘に向ける視線、そして男女の関係。
それぞれの距離の取り方が丁寧に描かれ、どの短編にも独特の温度がある。

なかでも、カップルの関係性の描き方には非凡なものを感じた。
他人同士なのだから、どこかにズレを抱えながら、それでも寄り添おうとする二人。いわゆる普通のカップルなど存在しないのだと、読みながら何度も思わされた。
それでも彼らの姿には確かなリアリティがあり、どこかにこんな二人がいそうだと感じさせる。この現実味が、全編を通して静かに響いている。

五つの短編の中で、私が最も惹かれたのは四話目の「芹葉大学の夢と殺人」だった。
恋愛小説として読んでも、出会ってしまったのだから仕方がないと思わせるような展開があり、最後の一行まで短編としての完成度が高い。人物の距離感が少しずつ変わっていく様子が、静かに胸に残った。


物語の余白に立ち止まる

五つの短編を読み終えて感じたのは、どの物語にも同じ空気が流れているということだった。 地方都市の閉塞感や、人と人の距離の取り方、そして犯罪という出来事。
それらは強い主題として前面に出るのではなく、静かに背景に沈み込み、人物たちの選択や感情の揺れを照らし出している。
作者は登場人物を断罪しない。ただ、その人がその時に見ていた景色を置くだけだ。その姿勢が、読者に考える余白を残してくれる。

どの短編にも、どこかにいそうな人々が登場する。
特別ではない誰かが、特別ではない日常の中で、ふとした拍子に選択を迫られる。その瞬間の揺れが丁寧に描かれていて、読みながら何度も胸がざわついた。犯罪を扱っているにもかかわらず、物語の中心にあるのは人間の弱さや迷いであり、その弱さを抱えたまま生きていく姿だった。

読み終えたあとに残るのは、重さよりも静かな余韻だ。
閉じた街の空気も、男女の距離感も、すべてがどこか現実の延長にあるようで、気づけば自分の生活のどこかに重ねてしまう。
短編という形式が、その一瞬の切り取り方にぴたりとはまっている。ページを閉じたあとも、物語の余白にしばらく立ち止まりたくなるような一冊だった。



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