# 秋元強真はクレベル・コイケに勝てるか## ―― 二人の「負け方の設計図」は、もう公開されている

8月11日、TOYOTA ARENA TOKYO。RIZIN.54のメインは、クレベル・コイケ対秋元強真です。勝ったほうが年内に、19戦19勝・全戦フィニッシュの王者ラジャブアリ・シェイドゥラエフに挑みます。

この試合は「20歳の勢い対36歳の元王者」という枠で語られがちです。ただ、両者の試合を並べて見ていくと、もう少し具体的な話ができます。

この2人には、どうすれば負けるかの設計図が、すでに公開されています。 秋元強真のものは2024年の大晦日に、クレベル・コイケのものは2025年の7月に。どちらも、実際にその通りにやって勝った選手がいます。

その2枚を並べるところから始めます。


1. 秋元強真の唯一の黒星を、分解する

秋元強真は13戦12勝1敗。内訳はKO・TKOが7、一本が2、判定が3です。フィニッシュ率の高い選手だと分かります。

唯一の黒星が、2024年12月31日の元谷友貴戦(判定0-3)でした。

このときの試合経過を、ラウンドごとに追ってみます。

1R 秋元はサウスポーでプレッシャーをかけ、左ストレートと左ボディアッパーを当てます。ここまでは秋元のペースです。ところが元谷がフックから組みつき、横に投げてバックを奪う。秋元は立ち上がりますが、再びグラウンドへ。ハーフガードからガードに戻したところへ細かいパンチ。反転しようとした瞬間にフロントチョークを合わされ、仰向けになって外します。

2R 同じ形です。元谷がフックから組みつき、横に投げてバック。立ち上がろうとする秋元を背後から離さず、4の字ロックで胴を固定してパンチを送りながらチョークを狙う。終盤は鉄槌。

3R 秋元が前に出ますが、ロープ際まで追い詰められます。腰に組みつかれ、コーナーに押し込まれ、横に振られてグラウンドへ。2Rと同じ4の字ロックからチョーク狙い。秋元は首を守って極めさせませんが、バック支配からは最後まで逃れられず、鉄槌とツイスターを浴びて終了。

3ラウンドとも、まったく同じ工程で崩されています。

打撃を出させる。そのパンチを合図に組みつく。横に投げる。
バックを取る。あとは離さない。

ここで大事なのは、穴が「テイクダウン防御」ではないことです。倒されること自体は誰にでも起こります。問題はその先で、バックを取られたあと、3ラウンドとも一度も外せていない。これがこの試合で露出した弱点でした。

もっとも、極められてはいません。首はずっと守り切っています。元谷友貴という、日本トップクラスのグラップラーを相手にして、極めさせなかった。ここは評価すべきところです。


2. そのあと、彼は階級を上げている

ここで見落とされやすい事実があります。

元谷戦は61.0kgのバンタム級でした。

そして秋元は、その後フェザー級に上げています。
66.0kgでの5戦がこれです。

5戦5勝、うち4つがフィニッシュ。

そして2026年3月のパッチー・ミックス戦、その1ラウンドの立ち上がりに、注目すべき場面があります。

「ミックスがジャブからタックルに出るも、秋元は組ませず体を離す」

パッチー・ミックスは元Bellator世界バンタム級王者で、セルジオ・ペティスを裸絞めで沈めて王座を統一した選手です。
世界レベルのグラップラーのタックルを、秋元は切っています。

61kgで組み負けた選手が、66kgで世界級のタックルを切った。

減量幅が組みの強度にどう効くかは、体を作る側にいる人間なら実感があるはずです。落としきった体で3ラウンド組み合うのと、余裕を残した体で組み合うのとでは、別の競技といっていいくらい違う。元谷戦の秋元と、いまの秋元は、同じ選手として比べないほうがいい。 少なくとも私はそう見ています。


3. ただし、クレベルは元谷型ではない

ここからが本題です。

秋元がこの1年半で身につけたのは、「組ませない」技術でした。タックルを切り、体を離し、打撃の距離を保つ。ミックス戦はその完成形です。

問題は、クレベル・コイケが倒しに来る選手ではないことです。

クレベルの通算戦績は35勝9敗1分1無効試合。そのうち29が一本勝ちです。武器は三角絞めとダースチョーク。相手を倒してから極めるのではなく、
自分から下になり、下から極める。ガードの中に相手を招き入れて、
そこで仕留めるタイプです。

タックルを切る技術は、相手が倒しに来ることを前提にした防御です。

自分から座る相手に対して、その防御は空振りします。

秋元がこの1年半でいちばん伸ばした部分が、この相手にはそのまま使えない。ここがこの試合の第一の論点です。


4. さらに、秋元のフィニッシュの形が危ない

ミックスをどう仕留めたか、もう一度見てみます。

左ストレートで倒す。倒れたところへサッカーボールキック。立ってきたらまた左ストレート。また、サッカーボールキック。

つまり秋元のフィニッシュは、
相手が下になったところへ、自分から入っていく形です。

そしてその動作は、クレベル・コイケのガードに自分から入る動作と、
まったく同じものです。

29本を極めてきた男が下にいて、その上から追撃をかける。
ここが、この試合でいちばん危ない瞬間になります。

しかも厄介なのは、それが彼を5連勝させてきた成功パターンそのものだという点です。直したほうがいい癖ではなく、勝ってきたやり方のほうを、この試合だけは我慢しなければいけない。


5. クレベル攻略の設計図は、朝倉未来が描いている

では、クレベルにはどう勝つのか。

こちらも答えが出ています。2025年7月27日、超RIZIN.4のメインで、
朝倉未来が判定2-1で勝っています。

日本MMA審判機構が公開した採点の内訳が興味深いところです。ダメージとアグレッシブは3者とも「0」で、両者に差がつかなかった。 分かれたのはジェネラルシップ(配点20%)で、2人が朝倉、1人がクレベルを支持して2-1になっています。

試合内容はこうです。1Rはテイクダウンされながら冷静に対処。2Rも有効打を当てつつ相手のテイクダウンを処理。3Rは腰の強さでテイクダウンを許さず、グラウンドの展開でもボディコントロールで対処しながら終了。

倒していないし、削ってもいない。極めさせずに、15分を使い切っただけです。

しかもそれで、判定は割れました。

これがクレベル・コイケに勝つということの実態です。派手なことは何も起きません。極められないまま時間を終わらせる。それ以外の勝ち方は、この15年でほとんど誰もできていない。


6. 体格と構え

数字も見ておきます。

  • クレベル・コイケ 178cm/66kg

  • 秋元強真 179cm/66kg/リーチ177.5cm

ほぼ同寸です。

秋元は身長179cmでフェザー級としては大きい部類ですが、この試合ではリーチのアドバンテージがありません。「長さで距離を管理する」という戦い方が使いにくい。

構えは秋元がサウスポー。クレベルもサウスポーに構えることがあり、ミックス戦も両者サウスポーの組み合わせでした。同じ構え同士だと、前足の位置取りと角度の奪い合いになります。踏み込みの距離が一足分近くなるぶん、打った直後に組まれる危険も上がります。

元谷が3ラウンドとも組みついた合図は、秋元のパンチでした。同じサウスポー同士で、リーチ差がなく、打った瞬間に一番近い。この条件は、クレベルが下になりに来るには悪くありません。


7. クレベル側の穴

もちろん、クレベルにも明確な弱点があります。

これまでで一度だけ壊されたのは、打撃です。

2025年5月4日、シェイドゥラエフに1ラウンド1分2秒でKO負け。
それがキャリアで初めての、殴られての敗北でした。36歳で、
被弾して倒れた記憶がまだ新しい。

そこへ、元世界王者を一撃で崩した20歳の左ストレートが向かってきます。しかも同じサウスポーで、リーチ差はありません。

打撃戦の分だけを切り取れば、秋元がはっきり上です。


8. 結論

私の見立てを書きます。

秋元強真が勝つ可能性のほうが高い。ただし、条件がひとつあります。

条件は「倒しに行かないこと」です。

距離を取り、左を当て、組み際は切って離れ、判定でかまわない。
それができれば、若さと打撃で押し切れます。朝倉未来がやったことを、
より速い体でやればいい。

危ないのは、次の2つの局面だけです。

ひとつ、クレベルがぐらついて倒れた瞬間に、追撃で上から入ること。
ひとつ、組み際でクレベルが自分から座ったときに、
上から潰しにいくこと。

どちらも、秋元強真をここまで勝たせてきた動作そのものです。
ミックスを仕留めたのも、まさにその形でした。

20歳が、自分を勝たせてきたやり方を、一度だけ我慢できるか。

私はこの試合を、そこだけ見ようと思っています。

見どころを具体的に言えば、秋元がクレベルを倒したあと、追撃に入るか、離れるか。もし離れて立って待てたなら、この選手は本当に
王者に届く器です。入っていったら、29本目が待っています。


注記・出典

  • 元谷友貴戦のラウンド別経過はRIZIN公式の試合結果ページ(RIZIN.49/2024年12月31日・バンタム級61.0kg契約)による。

  • パッチー・ミックス戦の展開(「ミックスがジャブからタックルに出るも秋元は組ませず体を離す」)はRIZIN.52の試合レポートより。

  • 朝倉未来vsクレベル・コイケの採点内訳(ダメージ・アグレッシブは3者とも0、ジェネラルシップで2-1)はJMOC公開採点/ゴング格闘技の報道による。

  • 戦績・身長・リーチはWikipedia、DATA MMA、RIZIN公式の記載による。

  • 減量幅と組みの強度に関する部分、および勝敗の見立ては筆者の見解であり、結果を保証するものではない。

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