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TRACK 50「青春編 ― 写真の授業」

「写真は、

時間を切りとることのできる、

人類唯一の発明なんだ。」

一番最初の写真の授業で、

先生はそう話した。

当時の僕は、

その言葉の意味を、

まだよく分かっていなかった。

でも、

なぜか心に残った。

写真って、

なんてロマンチックなものなんだろうと思った。



大学二年の春。

僕は写真の授業を選んだ。

造形大には、

いつもカメラを持ち歩いている学生がたくさんいた。

気になった景色を見つけると、

何気なく立ち止まり、

一眼レフを構えてシャッターを切る。

その姿が、

とても格好よく見えた。



当時は、

ヒロミックスやホンマタカシの写真が人気だった。

STUDIO VOICEをはじめ、

いろいろな雑誌で、

彼らの写真を目にした。

何気ない日常。

見慣れた街。

友だちの横顔。

そんな一瞬を、

空気ごと切りとったような写真。

ホンマタカシの、

淡々としているのに、

なぜか心に残る写真が好きだった。

そして、

ヒロミックスが小さなコニカ・ビッグミニで写真家になったことも、

僕には新鮮だった。

写真は、

カメラの値段や大きさではなく、

何を見つめるかなんだ。

そんなことを教えられた気がした。



僕が使っていたのは、

父が持っていたCanonの一眼レフカメラだった。

金属の冷たい手触り。

ずっしりとした重さ。

首から下げるだけで、

少しだけ大人になれた気がした。

シャッターを押す。

「カシャッ。」

その音が好きだった。



当時はまだ、

フィルムが当たり前の時代だった。

シャッターは切れる。

でも、

写真はまだ見えない。

現像が終わるまで、

何が写っているのか誰にも分からない。

その待つ時間まで、

写真だった。

今思えば、

なんて贅沢な時間だったんだろう。

一枚一枚に、

少しだけ祈るような気持ちがあった。



授業では、

モノクロ写真にも挑戦した。

色がなくなるだけで、

見慣れた景色が、

まるで映画のワンシーンのように見えた。

「写真が上手くなった。」

そんな勘違いをするのも、

少し嬉しかった。



暗室での作業も好きだった。

先生は笑いながら、

こんなことを言った。

「現像室の赤いライトは、

女の子が魅力的に見えるから、

毎年ここでカップルができるんだよ。」

教室のみんなが笑った。



赤いセーフライトだけが灯る暗室。

現像液に印画紙を沈める。

真っ白だった紙の上に、

少しずつ景色が浮かび上がってくる。

ゆっくり。

ゆっくり。

まるで魔法だった。

赤い光に照らされた、

隣で作業をしていた女の子の横顔も、

少しだけいつもと違って見えた。

先生の言葉は、

本当なのかもしれないと思った。



それから僕は、

一眼レフを持ち歩くようになった。

街を歩きながら。

友だちと笑いながら。

何気ない景色を見つけながら。

シャッターを切る。

カシャッ。

カシャッ。

その音と一緒に、

青春の日々は、

一枚ずつ、

静かに積み重なっていった。



あの頃は、

ただ夢中でシャッターを切っていただけだった。

でも、

二十年以上経った今、

その写真たちが、

忘れていた青春を、

もう一度僕のもとへ連れてきてくれた。

友だち。

作品。

恋人。

あの日の笑顔。

もう戻れないと思っていた時間は、

一枚の写真の中で、

ずっと息をしていた。

先生の言葉は、

本当だった。

写真は、

時間を切りとることのできる、

人類唯一の発明だった。

そして、

写真は、

気がつけば、

僕の人生にとって、

大切なものになっていた。


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