【映画感想文】この世は誰が支配しているのか?「ブゴニア」(ちょっとネタバレ)
ヨルゴス・ランティモスの新作「ブゴニア」を観に行った。もう2回観た。
テディとそのいとこのドンはある日、製薬会社のカリスマ女性経営者ミシェルを誘拐する。テディはミシェルの会社の倉庫で働きながら、養蜂もしている。ドンはテディと一緒に暮らしていて彼のことが大好きだ。テディにはミシェルを誘拐しなければならない理由があった…。
そこから始まる物語は、予想がつかない。キーワードは「陰謀論」だ。
権力者vs.庶民 ファイ!
ミシェルを誘拐してきたテディたちは、自宅の地下室で彼女と対峙する。
観ているわたしたちは最初、テディたちを「陰謀論者」と考える。ミシェルは彼らに捕まった可哀想な人に見える。だから彼女の言動は、なんとかそこから逃れようとするための知恵によるものと考える。
でも本当にそうなのか? ここからの展開がとても面白い。
見方はだんだん変化してくる。するとミシェルの振る舞いが、現実世界である種の権力者が常にやっていることそのままなのに気付き、笑えてくる。
ある種の権力者たちはウソをつくのが上手だ。堂々と大きなウソをつく。そしてそれを、早口で捲し立てる。聞いている人たちが疑問をもったり、口を挟む隙を与えないのだ。さらには、相手に罪悪感を抱かせる。だいたい「悪いのはお前で、お前はその報いを受けているのだ」というふうに思い込ませる。
善良な人は、これにコロッと騙される。例えば、カルトの教祖、詐欺師、悪い政治家などがよく同じ手を使っている。そうして人をコントロールするのだ。
一方、こうした権力者は罪悪感などこれっぽっちも感じない。自分たちのしたことの結果、誰かが死んでもなんとも思わない。
もう何年も現実世界で同じ場面を見てきた。ミシェルはそれを再演しているに過ぎない。
世界は誰に支配されているのか
昨今、一部の政治家たちが、移民などを悪者にすることに一生懸命だ。でも本当に移民のせいでわたしたちの生活が壊されているのだろうか? 彼らがこの世を支配しているのか?
まさか。世界を支配しているのは権力者だ。いつでも。彼らがルールを決めたり、ルールを勝手に破ったりしている。だから、いま起こっていることは彼らのせいだと考えるのが普通でしょ?
この時期だから映画を観ているあいだ、どうしてもエプスタインの件が頭に浮かんでしまった。世界のさまざまな権力者がこれに絡んでいる。
結末は清々しく美しい(人間以外)
ミシェルはもう人間と同じようになっていたけれど、最後の最後で元の自分に戻ったのだろうか? そして元の場所に戻り、元の自分が今やるべきことをした?
その結果、世界が迎えた結末は予想外に清々しく美しいものだった。人間にとっては最悪だけれど。
こうならないために、何ができるだろう? 人間はもっと謙虚になって過去に学ばないといけないのでは? 同じような詐欺師に何度も騙されるようでは、やっぱりこういう結末が待っているのだと思う。
ウソつきの政治家をいつまでも許していてはいけないのだ。
ヨルゴス作品の変な踊り
ヨルゴス作品といえば「変な踊り」だけど、今回はなかったな。
以下は「哀れみの3章」のエマ・ストーンによる変な踊り。
こちらは「哀れなるものたち」のエマ・ストーンによる変な踊り。
そしてこちらが「女王陛下のお気に入り」の変な踊りの場面。これはエマじゃなくてレイチェル・ワイズ。
ところで、ドンを演じたエイダン・デルビスは、キャスティング当時は17歳の高校生で演技経験はほとんどないに等しかったというのを知って驚いた。
エマ・ストーンやジェシー・プレモンス(「シビル・ウォー」の赤メガネの男の場面は、演技とわかっていても震えがきた)と一緒に演じて、まったく引けを取っていない。恐るべき新人だと思った。

