地域の記憶と人の暮らしを記録する。その10「瀬尾夏美さん:〈旅人〉として〈語り〉を記録する」
地域の記憶の継承をさまざまな形で行っているアーティストの瀬尾夏美さん。東日本大震災の後、陸前高田に移り住み、そこで暮らしながら地域の人々の声を聞き続けてきました。
陸前高田の暮らしの経験は絵画作品として描かれたり、書籍として刊行されたりしています(『二重のまち/交代地のうた』書肆侃侃房など)。そして、映像作家の小森はるかさんと「波のした、土のうえ」というドキュメンタリー映画を製作しました。
先日、千葉市美術館で開かれている「へびと地層―風景から生まれる物語」(2025年10月11日―2026年1月25日)という展示に関連して行われた「波のした、土のうえ」の上映会+トークイベントでこの映画を観ました。

地震と津波によって大切な人や家、そして町を失い、その後さらに、復興のためのかさ上げ盛土によって、土地に残されていたわずかな記憶の痕跡も失った人たちの姿が映し出されます。
地域の人々から話を聞き、瀬尾さんがテキストにまとめ、それを本人が読むというかたちでナレーションが流れるという手法がとても印象的でした。
自分が語った言葉が瀬尾さんという第三者によって紡がれ、それを読むことによってまた新たな自分の記憶となっていきます。
瀬尾さんと小森さんは東日本大震災の被災地や能登の被災地、原爆の被災者が数多く運ばれた瀬戸内海の似島、台風の被害を受けた宮城県丸森町などさまざまな地域を〈旅人〉として訪れて人々の記憶を継承する活動を行っています。旅人とは、当事者ではないけれど、そこに関わり、人々の声を聞き、それを伝える人。旅人の存在は、当事者だけでは記録できない記憶を紡ぎ出します。
他者の言葉を聞いて記録する〈旅人〉という存在は、体験者の「語り」を発生させ、体験者と非体験者をつなぐ場をつくるといいます。そうして人々の記憶、地域の記憶が継承されていくのです。


ちなみに、「へびと地層」という展示会のタイトルは、瀬尾さんが訪れる土地でたびたび水の表象として現れるへびと、各地に存在する記憶の地層を表しているそうです。瀬尾さんたちが旅した土地をつなぐモチーフとして欠かせないものだといいます。

私自身、さまざまな場所を訪れてそこに暮らす人々の声を聞き、その声を文章にまとめることと向き合っていますが、果たして自分が、当事者が語る言葉をきちんと伝えることができているだろうかと思うことがあります。そんなとき、瀬尾さんの言う「旅人」の視点ということの意味を考えます。
「波のした、土のうえ」上映後のトークイベントで瀬尾さんが言っていた「聞き手が生まれれば記憶は継承される」という言葉が印象に残りました。
被災地に限らず、人々の暮らしの記憶、地域の記憶は、さまざまな形で語られ、継承されていくべきものである。「語る」ことと「聞く」ことを大事にしていきたいと思います。
