キャンパス・ライブ ≪11≫
第11話
「はい。はい…。」
短い返事だけが、結衣の部屋に響く。
「大変ご迷惑お掛けします…。分かりました。宜しくお願いいたします。」
電話越しに何度も頭を下げた後、結衣が電話を終えた。
「内定先の企業?どうだった?」
美咲が不安そうに尋ねる。
「まずは第三者を交えて確認がしたいから、警察に相談するようにって。会社側も、顧問弁護士に相談するみたい。最終的な処分は、慎重に判断するって…」
結衣の声は、先ほどより少しだけ落ち着きを取り戻していた。
「さすが大企業。ひとまず安心して良い…のかな?」
美咲が胸を撫で下ろす。
「安心するのはまだ早い」
腕を組んだまま、町田は苦々しく続ける。
「企業ってのは“正しい”より、“炎上しない”を優先する」
苦虫を噛み潰した様な顔で、町田は吐き捨てた。
「今回の件、海外サーバや匿名アカウントを使われりゃ、捜査はかなり難航する。」
結衣は、うつむいたまま黙り込んだ。
「それに、被害の立証も難しい上に、AIを名誉毀損で訴えるわけにもいかねえ。犯人を突き止めでもしない限り、大きく報道もされないだろうよ。それとも、記者会見でも開いて、“AIが嘘ついてます”って泣きながら訴えるか?」
重たい空気が立ち込める。拳を握りしめていた健人は、顔を上げた。
「じゃあ、俺たちで証拠を掴んで、犯人を引きずり出そう!」
覚悟の決まった目だった。健人のその勢いに、町田が目を大きくした。
「そうだな…。現状、それしか無いかもな」
町田からふっと笑いがこぼれた。
それから健人たちは、手がかりになりそうな情報を片っ端から追い始めた。町田は概要AIの参照元を一つずつ洗っていく。
「…おかしい」
モニターに映るURLの列を睨みながら、町田が低く呟く。
「何が?」
健人が画面を覗き込む。
「参照元が全部、同じ画像を載せたサイトに辿り着く」
町田が画面を拡大する。
そこに映っていたのは、ここ数週間で爆発的にネットで拡散されている、街頭インタビューを受ける青年の画像だった。
「なんでこんなのが。結衣と全然関係ないじゃないか」
「原因は、画像の内容そのものじゃないかもしれない…」
町田はキーボードを叩く。画像解析の画面がモニターに表示された。ミーム画像を読み込ませると、アイコンが回転し、『解析中…』の表情が浮かぶ。
「え、何してるの?」
美咲が興味深そうに乗り出す。
「まあ、見とけ」
町田がそう言った瞬間、回転が止まり、画像に重ねる形でテキストが浮かび上がってきた。
『古淵結衣』
『喫煙美少女』
『本人』
健人の背筋に冷たいものが走った。
「画像の中に、情報の埋め込み…。ステガノグラフィってやつか…」
健人が呟いた。町田はそれに静かに頷く。
「流行りそうなミーム画像に、“古淵結衣は五年前の喫煙美少女である”って情報を埋め込んで、SNSで不特定多数に拡散させた…」
「日本中の人間が、知らず知らずのうちに、AIを騙すことに加担させられていたってことね」
美咲は納得した表情で小さく頷く。
「問題はそれだけじゃない」
町田は別ウィンドウを開いた。
検索AIが参照したページ一覧。その中には、SNSやブログだけではなく、省庁系の外郭団体の広報ページまで混ざっていた。
「え…、お堅い政府系サイトに?」
美咲が目を見開く。
「ああ。広報系の記事に、このミーム画像を使ってやがる。最悪だ。AIが“国のお墨付き”だと思い込んだ」
健人は息を呑む。
「待てよ。じゃあ犯人は、最初からそれを狙って?」
「狙ってたかは分からない。でも、犯人にとっては最高の追い風になっただろうな」
「これからどうやって犯人を見つける?」
美咲が町田の顔を覗き込む。
「ミーム画像の出どころをを追っても、厳しいだろうな…。サイバーで追えないとなると、現実世界で見つけるしか無い。」
「何か手がかりでもあるの?」
健人が唾を飲み込んだ。
「いや、まだない…。まだ…。」
カーテンが揺れる窓から秋の夕日が漏れ、冷たい空気が通った。
