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アズマモグラの繁殖と疑問

モグラ。
日本人にとって馴染み深く、さまざまな作品に登場するほど愛されています。
しかし、農家の皆さまにとっては非常に困った存在でもあります。
これほど有名でありながら、実際に目にする機会が少ないモグラについて、興味深い情報を見つけました。


世界初!アズマモグラの飼育下繁殖


つい最近、2023年に多摩動物公園でアズマモグラの飼育下での繁殖が成功したことを知り、非常に驚きました。
下記、記事を引用させていただきます。

多摩動物公園では、1998年からモグラ類の飼育を継続してきましたが、飼育下での繁殖には至っていませんでした。2022年より、あらためて飼育下でのアズマモグラの繁殖を目指して、落ち着いた環境で繁殖ができるように飼育ケースを複数用意したり、雌雄の同居の時期を限定したりするなどしてきました。ナンバー236(メス)とナンバー234(オス)の2頭については、断続的に同居を重ね、2023年3月6日以降は終日同居させていました。2023年7月11日に飼育ケースを確認したところ、メスの死体と生存個体2頭を発見し、飼育ケース内で繁殖したことが判明しました。

2024年09月02日  建設局, (公財)東京動物園協会
多摩動物公園情報 世界初!アズマモグラの飼育下繁殖
 URL: https://www.metro.tokyo.lg.jp/tosei/hodohappyo/press/2024/09/02/04.html

アズマモグラは春頃に出産し、5〜6月には子どもたちが巣立つと言われています。
そのため、飼育環境でもモグラたちが出会うタイミングをある程度調整できたのでしょう。

長年、モグラの繁殖方法、特にオスとメスの出会い方については謎とされてきました。メスが出会いの時期に特別なにおいを出しているのか、あるいは音で伝えているのかなど、さまざまな説が考えられていますが、はっきりしたことはまだ分かっていません。

そんな中でのこの情報です。
さすが多摩動物公園!
お見合いがうまくいき繁殖が成功したということは、多摩動物公園の飼育環境がモグラたちにとって安心できる場所であったと考えられますね。

土の中では何が起きていた?

残念ながら、今回は一匹のメス個体が亡くなっているのが発見されました。
ただ、その状況が少々謎でした。
1回目に読んだときには意味が分からず、2回目に読んでようやく状況が理解でき、スッキリしました。

ここで、私の心境を解説しようと思います。以下は、最初に文章を読んだときの感想です。
以下、引用が続きます。

2023年7月11日に飼育ケースを確認したところ、メスの死体と生存個体2頭を発見し、飼育ケース内で繁殖したことが判明しました。

2024年09月02日  建設局, (公財)東京動物園協会
多摩動物公園情報 世界初!アズマモグラの飼育下繁殖
URL: https://www.metro.tokyo.lg.jp/tosei/hodohappyo/press/2024/09/02/04.html

あぁ、残念。
二匹育ったのに、一匹はお空に帰ってしまったのね。
でも、もう一匹が生きているなら、今回の取り組みは成功と言えるのでは!?
そう思い、サイトを読み進めました。

生存個体2頭の性別を確かめるため、野生生物保全センターにてPCR法による性別判定をおこなった結果、生存しているのはオス1頭とメス1頭であるとわかりました(2023年12月21日)。これにより、生まれた子はメスであることが判明しました。

2024年09月02日  建設局, (公財)東京動物園協会
多摩動物公園情報 世界初!アズマモグラの飼育下繁殖
URL: https://www.metro.tokyo.lg.jp/tosei/hodohappyo/press/2024/09/02/04.html

「?」

ここで、頭の中にぽーんと音を立ててクエスチョンマークが出てきました。

一体どういうことなんだ?
生まれた子はメスだけ?
オスはどこから出てきた?
7月は巣立ちしていてもよい時期では?

さまざまな疑問が頭に浮かびました。
私が混乱した理由は、二つの思い込みの前提にありました。
少々話がそれますが、以下に解説します。


【前提1】モグラは縄張り意識がとても強い生き物

モグラは縄張り意識が非常に強い生き物だそうです。
トンネル内で他のモグラに出会うと、比較的離れた場所から歯を鳴らして威嚇し、同時に超音波を利用している可能性もあるとのことです。
それでも、どちらも一歩も引かない場合は激しい闘争になり、どちらかが逃げるか、またはどちらかが死ぬまで戦うそうです。

例えば、川田伸一郎先生はモグラのオスとメスについて、次のような調査を行っています。以下、引用させていただきます。

 実は、モグラの繁殖に成功した例は、ひとつもないのです。モグラを繁殖させることは、だから僕たちモグラ研究者にとって、ひとつの夢です。
 もちろん僕もこの難題に挑戦したことがあります。オスとメスを隣り合う金網トンネルでしばらく飼育してお見合いをさせ、あるときトンネルどうしをつないでみたのです。ところがすでに書いたように、片方のモグラが闘争に負けて死んでしまいました。死んでいたのはオスのほうでした。僕はきっと、メスのほうにオスを排除する傾向があって、妊娠が可能になる短い期間だけ、オスを受け入れて交尾するのだろうと考えています。それ以外のタイミングではケンカになってしまうのです。

川田伸一郎(2009) . 『モグラ博士のモグラの話』 . 岩波書店 .
I モグラ博士のモグラ紹介 モグラの恋愛
p36-37

【前提2】子モグラの巣立ちは5〜6月頃

前述しましたが、アズマモグラは春頃に出産し、5〜6月に子どもたちが巣立つと言われています。そのため、7月11日には子モグラが巣立ち、自分のトンネルを掘っていてもおかしくない時期です。


解説が長くなってしまいましたが、話を元に戻します。
上記の2点から、私が最初に混乱した理由は「なぜ、巣立ちしていそうな季節である7月11日に、飼育ケース内で成獣がオスも含めて3匹一緒にいるのか?」という点でした。

例えば、母モグラ(ナンバー236)1匹と、子モグラ(オス・メス)の合計3匹が飼育ケースにいて、巣立ちのタイミングで親から引き離す前に子モグラ(メス)が亡くなった、というストーリーなら理解できます。
土の中では個体識別が難しいと思いますし、子どもが産まれていることに気づかない可能性も十分ありそうです。
(例えば、飼育ケース内の異なる場所に3匹が同時に現れるなどしない限り、増えたことに気づかないかもしれません。)

しかし、原文を読み返しても、子モグラはメスしか出てきません。
ということは、文章に登場するオスは1匹のみ、ナンバー234(オス)です!
なぜ、同じ飼育ケースにいるんだ!?

私は、繁殖期間(3〜4月)が過ぎたらナンバー234(オス)はナンバー236(メス)と別々に飼育されていると思っていたのですが、どうやら違うようです。原文には次のように書かれています。

2023年3月6日以降は終日同居させていました。

2024年09月02日  建設局, (公財)東京動物園協会
多摩動物公園情報 世界初!アズマモグラの飼育下繁殖
URL: https://www.metro.tokyo.lg.jp/tosei/hodohappyo/press/2024/09/02/04.html

文字どおりに解釈すると、多摩動物公園の営業時間中(飼育員さんが勤務している時間)はモグラが同居していたことを意味するのではないかと考えられます。
だとすると、それは驚くべきことです。
性別が違うとはいえ、成獣のモグラが長期間、大きなケンカをせずに同居できるケースが確認されたことになるからです。

これはあくまでも想像ですが、飼育員さんはナンバー236(メス)が妊娠し、出産しているとは夢にも思っていなかったのかもしれません。
そのため、繁殖期間と言われている季節の間、ナンバー234(オス)と一緒に生活させていたのではないかと考えてしまいます。
(馬でさえ妊娠に気づかない珍事があるくらいですし、小さくて土に隠れてしまうモグラは観察が難しいと思われます。)

まとめと疑問点


【判明している情報】

登場モグラ:ナンバー236(メス)、ナンバー234(オス)、ナンバーなし(メス)
ペア:ナンバー236(メス)、ナンバー234(オス)
子ども:ナンバーなし(メス)
同居期間:
 ・ナンバー236(メス)とナンバー234(オス)の同居を開始するまでは、10か月以上単独で飼育している
 ・2023年3月5日以前〜断続的な同居を試みていた。
 ・2023年3月6日以降〜終日同居。
 ・同居終了日〜不明
子どもの発見状況:
 ・ナンバーなし(メス)が死亡した状態で2023年7月11日に発見される
 ・同じ飼育ケースから3匹(メス2匹、オス1匹)が見つかる
 ・死亡したナンバーなし(メス)は、体毛が生えそろい、体長も14〜15cmあるため、ほぼ成獣に見える
 ・死亡したナンバーなし(メス)は、生存するオス(ナンバー234)とメスの対立遺伝子を受け継いでいる
 ・このことから、生存しているメスはナンバー236(メス)である

【行間から読み取れること】

 ・3匹は同じ飼育ケースにいた期間があった
 ・ナンバー236(メス)が妊娠し、出産していたことに飼育員さんが気づいていなかった可能性がある

【疑問点】

(1)長期間におよぶモグラの同居は可能なのか?
ナンバー236(メス)とナンバー234(オス)との間では、少なくとも2023年3月6日から2023年7月11日までの127日間、命に関わるような大きなケンカが発生することはなかったと思われますが、実際はどうだったのでしょうか?

さすがに大きなケンカがあれば飼育員さんが気づくはずですし、多少のケガも発見されると思われます。
その時点で同居は解消されると考えられますが、原文にはそれらに関する情報は記載されていません。
非常に気になる点です。

(2)オスが同居している環境下で、メスは出産・育児をするのか?
起きた事象だけを見ると、「そうする」ようです。
猫やハムスターなど他の哺乳類は、外部の危険を感じると子どもを食べてしまうことが知られていますが、今回のモグラペアについては、一匹の子どもを育てたという実績があります。
そうなると、やはりナンバー236(メス)とナンバー234(オス)は、比較的良好な関係を築いていたのでしょうか?

(3)実際には、何匹の子どもが産まれたのだろう?
実は複数匹を出産していたものの、うまく育たなかったか、(2)の逆説になりますが子どもを食べてしまった可能性はないでしょうか?
こればかりは、出産直後から観察していないと分からないですね。

(4)子モグラの死亡原因は?
子モグラの死亡原因は記載されていませんでした。
病気だったのか、食事がうまく取れなかったのか、あるいは巣立ちに失敗して親子ゲンカになってしまったのか……。
さまざまな原因が考えられると思います。

もし巣立ちが原因だった場合、飼育環境下での重要な課題に感じられます。
モグラは縄張り意識が強いため、巣立ちの適切なタイミングで子モグラを別の飼育ケースに分ける必要がありそうです。
このことは、出産から子モグラの巣立ちまでのスケジュールを厳密に管理しなければならないという課題につながるでしょう。

おわりに


モグラは謎が多く、面白い生態を持ったふわふわで可愛い生物だと思います。まさか自分がここまでモグラにハマるとは思いませんでした。

一方で、モグラは人間の生活圏に近い場所に住んでいるため、農家の皆さんにとっては悩みの種でもあります。作物がダメになってしまえば生活に支障が出ますし、私たち消費者にとっても食べ物が減ってしまうため、見過ごせない問題です。

野生動物は可愛いだけではすまされない、重大な問題が身近にはいくつも存在しています。

人間の生活圏と野生動物の生息域が近ければ近いほど、さまざまな課題が生じます。そのことで困っているのは人間も動物も双方にいるということを心に留めて、モグ活をしていかなければいけないと感じました。

<引用・参考文献>

今泉吉晴(1985) . 『モグラ 地下の宇宙ステーション』 . 平凡社 .
今泉吉晴(1987) . 『空中モグラあらわる 動物観察はおもしろい』 . 岩波書店 .
手塚甫(1987) . 『生き生き動物の国 トンネルづくりの名人 モグラ』 . 誠文堂新光社 .
飯島正広(2007) . 『モグラの生活』 . 福音館書店 .
川田伸一郎(2009) . 『モグラ博士のモグラの話』 . 岩波書店 .
川田伸一郎(2012) . 『はじめまして モグラくん』 . 少年写真新聞社 .
飯島正広・土屋公幸(2015) . 『モグラハンドブック』 . 文一総合出版.
アヤ井アキコ(2018) . 監修:川田伸一郎 . 『もぐらはすごい』 . アリス館 .

<参考サイト>

建設局, (公財)東京動物園協会(2024) . 「多摩動物公園情報 世界初!アズマモグラの飼育下繁殖」 . 都庁総合ホームページ . https://www.metro.tokyo.lg.jp/tosei/hodohappyo/press/2024/09/02/04.html , (参照 2024-10-13).
BSS山陰放送. 「牧場でいつの間にか…馬が1頭増えていた 実は「出産」していた 妊娠した状態で牧場へ…スタッフも妊娠に気づかないまま出産」 . Yahoo!ニュース . https://news.yahoo.co.jp/articles/0dd0bf318e5d827846c7a8ecdcf1771b34246479, (参照 2024-10-13).



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