ビリセン⑱〜勉強が持続できる〜
秋になり、国体が始まろうとしていた。
田所は予選で敗退をして国体出場には手が届かなった
インターハイは高校生の大会だが、国体は高校生じゃなくても参加できる
中学校を卒業して高校に進学をしなかった、高校生世代の若者も出場してくる
少し前にプロボクシングで活躍をしていた、辰吉丈一郎や、亀田興毅は高校に進学していないので、国体や社会人選手権に出ることができる
必然的に、エントリー人数も多くなり、レベルも高くなってくる
しかし、そんな中でも勘吉は、県予選、地域予選を勝って見事、国体に出場を決めた
勘吉と誠の高校の朝の朝会で校長先生から、寛吉の話があった
「3年2組の勘吉君ですが、夏のインターハイ出場も勝ち取り、秋の国民体育大会への出場を勝ち取りました」
誠は自分の紹介も全校の前で少しぐらい紹介されるのかと期待したが、いくら準優勝したとはいえ試合では勝っていないので、紹介されることは全くなかった
全校生徒の前で校長先生に呼ばれて、勘吉は体育館の舞台の上に立っていた
誠にとって、その姿はなぜか苦しいほど輝いていた
これまで誠は高校の授業が終わったら、ジムに行き練習をしていたが、そのジムでのトレーニングが無くなった
誠にとって暇な時間が増えた
勉強は苦手で、ほとんど真剣にしてこなかった。
何より、勉強は苦痛で、椅子にじっと座っているのが苦手だった
暇な時間が増えたことで、しばらくしてなかった友達と学校帰りに遊びに行くことをしてみた
楽しかった
ジムやハードな練習、会長のことを考え、毎日不安で押しつぶされそうになって苦しかった日々から解放された
のちの誠曰く、
このジムでの一年半が人生で一番辛かった
とのこと
しかし、誠の自由気ままな高校生活もそれが、日常になり段々と飽きてきた
友達も、勘吉はジムで練習だし、他の子はバイトとかもあり、いつも遊び回っているわけにもいかない
あまりにも、やることが無さすぎて誠の心の中はポッカリ穴が空いたようになっていた
いや、やることが無さすぎるというよりは、ボクシングジムでの日々があまりにも充実をしていたのかもしれない
高校初めの、充実感のない日々が戻ってきた
誠は仕方なく学校の勉強を始めてみた
この頃、誠はクラスの友達に声を掛けて、授業後の教室でボクシングの練習をするようになっていた
むしょうにボクシングが恋しくなっていた
練習は、教室だけでなく公園の広場ですることもあった
マスボクシング(寸止めの実践練習)をしたり、以前買った練習用のグローブをつけて、顔への打撃は無しで殴り合うことをしたりした
また分厚い少年雑誌を真っ二つにして、ガムテープで巻いて手製のミットを作り、友達と持ち合ってパンチを打つ練習もした
誠自身、自分はてっきりボクシングは嫌いになったと思っていたが、実はボクシングというスポーツの魅力に取りつかれていた
誠は将来のことを考えると、すぐ働くよりは勉強して公務員試験に有利な学校に進学するのがいいのではと考えるようになった
勉強続くかなと思っていたら勉強が続いた
少し疲れてきたなと思ったら、自然とボクシングジムでの練習を思い出した
あの時の、練習量や会長からのしごきに比べたら勉強で何時間も座っていることなんで苦でもなんでもない
ボクシングを辞めた誠にとっては、もう勉強して進学をするしか人生の目標がない
誠の勉強量は自然に多くなっていった
ジムで義務づけられていた過酷な4時間練習に比べたら、安全な自分の部屋で勉強を10時間以上することも楽勝であった
国体では、勘吉はインターハイの時と同様、上位に入ることはなかった
勘吉もジムに通いながら勉強モードになった
勘吉はボクシングが大好きで、全国大会出場への結果も残した
進学して大学のボクシング部に入ろうとしていた
誠は、進学先を具体的には考えていなかったし、もうボクシングに選手として関わる気持ちもは持てなかった
県内でボクシングに関わるとなると、またジムに戻らないといけないのだから
とりあえず知っている大学を受けようと思った
真っ先に思いついたのが、尊敬する小塚先輩が進学した明聖学院大学であった
ボクシング部に入る気はないが、試合会場で見た明聖学院の選手たちの活躍が誠の心にどこか残っていた
とりあえず誠は進学先の第一希望を明聖学院大学に定めたが、中学校でオール1(体育は2)の誠にとっては今はまだ手が届かない進学先であった
勘吉は、ボクシング部の名門大学からいくつか声が掛かっていた
誠は、また勘吉が輝いて見えた
しかし、勘吉はボクシングの実績はあったが、遅刻、早退、欠席が多すぎて、高校側の推薦規約から外れた
勘吉の高校での生活態度の評価は良くなかった
学校をサボって夕方ジムに来ることも多々あった
私服で行くと会長から追求されるため、ちゃっかり高校の制服に着替えてジムに来ていた
同じ高校であった誠しかその事実は知らなかった
誠と勘吉の猛勉強が始まった
二人は通学電車の中でも、単語帳を片手に勉強をした
これまで通学電車は仲間とおしゃべりする時間だったが、誠と寛吉がひたすら勉強をしているので、他の友達は仕方なく、見守るかイヤホンで音楽を聴くしかなかった
その二人の姿を見るに、どこの進学校の生徒?と思わせるぐらいの集中力だが、実際は県内で最低レベルの高校とは誰も知る由はなかった
秋が終わり、冬がきた
誠の高校生活も残り数ヶ月となった
誠は勉強に真剣に向き合ってたと言っても、まだ大学に受かるレベルではない
とりあえず誠は自分が受かりやすそうな大学を複数受けることにした
模試も受けたが、全ての大学がE判定(不合格ライン)であった
それでも誠は諦めずに勉強を続けた
昔の誠なら、とっくに心が折れて集中力が途切れて勉強をしなくなっていたかもしれない
だが、今の誠にとっては勉強は苦ではなかった
年が明けていよいよ大学受験シーズンとなった
誠は大学や短大と受験していった
