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21歳ヨーロッパ一人旅 お守り本「ノア動物千夜一夜物語」藤原新也

遥か昔々のこと、もはや数十年前のこと。
21歳の夏休みに1人でヨーロッパに2か月ほど行った。

当時も海外旅行なんて珍しいことではなかったけれど、
厳しい家で育ったおかげで、私は逃亡願望が限りなく強かった。
そんな21歳にとって、とても大切で忘れられない経験になった。

そもそも、一人で海外旅行なんて許されるわけがなかった。
「うまく嘘をつく」という対策が必要なのは、
いつものことー。

まずは、パリで落ち合うことになっていた友人に家に来てもらった。
「最初から最後までずっと一緒に行動する」
と真っ赤な嘘の証言をしてもらい、
しぶしぶ許可された。
やれやれ。

子供の時から韓国と日本を行ったり来たりの生活だったおかげで、
飛行機には乗り慣れていた。
しかし、今回は長距離フライト、
しかも言葉が通じないところに行く。
それは初めての経験。

当時の英会話力は、カタコト何とかレベル。
フランス語も初級レベル。

そんなドキドキ、ハラハラの状況でも、
韓国と日本以外の国に行ってみたい。
完全に異なる空間に身を置いてみたい。
色々な国を見てみたい。

子供の頃からずっとその気持ちは消えず、
大きな炎として燃え続けていた。



私にとっては、人生が変わるかもしれない、
それほどの思い入れのあることだった。

心して旅の準備をした。

家族中から心配され脅かされすぎて、
無性に腹が立ち、家族に対するウンザリモードは
最高レベルになった。

つまらない悲しい21年の人生が、きっと変わる!
そんな思いで「お守り」として持って行ったのが
藤原新也さんの「ノア動物千夜一夜物語」だった。

いつかあらためて書きたいと思っているが、
実は誰も知らない闇が
ワタシの心の奥底にあるのだ。

大人になって自立してから、その闇は大分小さくなった。
闇とも仲良く生きていけるようになってはいるが、
完全に消し去ることはできないものなのだ。
ともに生きていく同伴者、それが闇。

なぜ、この本を旅のお守りにしたのか、
それは「藤原新也さんの旅」と「ワタシの旅」を重ねることで、
勇気を育てることができたからだと思う。
生きていくチカラ生命力といってもいいかもしれない。


写真好きの友人から、藤原新也さんのことはよく聞いていた。
文章もおもしろいから1回読んでみて、
そう薦められた直後に、
たまたま書店で見かけて買った(旅行が決まる前)、
そんなタイミングもバッチリだった。

決定的な理由は、
立ち読みした「あとがき」に打ちのめされたこと。

私はそのころ中近東やインド亜大陸を何年か放浪していて、27歳の年の8月には南インドのマドラスに居た。そときはじめてインドにおいて肉体労働というものを経験した。ふところが寒かったのと、一度は経験したいと思っていたからだ。私はホテルの部屋に割り勘で止まっている同じように金欠状態を呈しているオーストラリア青年を日雇い労働に誘った。

「ノア 動物千夜一夜物語」あとがき 藤原 新也


まさに憧れていたことだった。
もし男に生まれていたら、こういうことをしてみたい、
ずっとそう思っていた。

中近東やインドあたりを放浪して、
日雇いの肉体労働をしながら日銭を稼ぎ、
真っ黒に焼けて、行き先を決めずに生きる。

「ワタシがずっと憧れていたことを、この人はしていたのか」

初日、あてがわれた籠を手に、巨大な貝殻の山の中に入ったとき、一瞬たちすくみ、顔を見合わせたのを今でもはっきりと覚えている。”・・・・・・こりゃ、ひどいぜ” 彼の目はそのように語っていた。それはこの世における熱の地獄だったのだ。頭上の苛烈な太陽は、真っ白い貝殻の山を直撃し、激しい輻射熱を作り出していた。
―中略―
最後の仕事を終えた私たちには、なにか自分たちが脆弱な人間を離れ、他の動物になったような奇妙な充実感があった。

「ノア 動物千夜一夜物語」あとがき 藤原 新也


「脆弱な人間を離れ、他の動物になったような奇妙な充実感」

この文章に打ちのめされた。

灼熱地獄の中での労働は2週間続き、
衰弱しきっていたのに、
奇妙な充実感を感じた。
これは、極限、限界までいくと、
何かが見えてくるという「解脱」とか
「悟り」みたいなものかと思う。
ヨガの先生数人から同じようなことを聞いたことがある。

「一度とことん限界までやってみると、『ほどほどの位置」が分かる」
これはブッダが厳しい修業の結果、「中庸」に辿り着いたこと。

ヴィンヤサ フロー ヨガのクラスで先生が言っていた。
「ずっと動き続けていると疲れてしんどくなってくるけれど、フッと楽になってくる瞬間がある。それが『動く瞑想』」



21歳の頃、いや、ずっと子供の時から、そして今でも
ワタシは「とことんまでやる。限界までやる。」
つまり、「思い切り生きたい」そう思い続けている。

奇妙な充実感を感じてみたいのだ。

私はこの本を書くことによって、あの貝の山で労働したときのように、人間という枠組みから解き放たれて自由になった気がする。何か日常まのあたりにする何でもない物や事に、以前よりはずっと慈しみの目を持って接することが出来るようになった気がする。
ただ、唯一、この本を出したことによって失ったものがあるとするなら、やがて老いの時間を埋めるべき楽しみが1つ失われたということだ。私はその時間を見出すために、再び旅に出なければならないのかもしれない。

「ノア 動物千夜一夜物語」あとがき 藤原 新也


奇妙な充実感を感じ、自由になった気がしても、再び旅に出る。
旅は続くー。

「つまらなくて悲しい21年の人生が変わる!」
そんな思いを抱えていた20代。
ヨーロッパに2か月の旅に出ようとするワタシにとって
「ノア 動物千夜一夜物語」は
「運命のお守り本」となった。



~最後まで読んでくださった方へ~
心よりありがとうございました😊

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