①宛名のない手紙 ー 心の中でそっと送る、あなたへー
実際にあったことかもしれないし、
空想の話かもしれない。
ふと浮かんだまま書き綴っただけの言葉かもしれないし、
誰かに読んでもらうための手紙かもしれない。
どちらでもいい、
そんな自由なニュアンスの連載です。
届くことのない想い、
言えなかった気持ち、
すれ違いの中で置いてきてしまった言葉たち。
届かないまま胸の奥で
時折フワッと浮かんできたり、
沈んだりしていた想いー
そんな想いを
心の中でそっと送るだけの手紙に、
静かに、ゆっくりと綴っていきます。
(※不定期連載です。)
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あなたへ
あの時、何度も謝ろうと思った。
謝ろうとした。
けれど、いつもタイミングが絶望的にズレてばかり。
あなたを傷つけてしまったことを、私は今でも忘れていない。
いつかまた会えたら謝ろう─
あれからずっとそう思いながら、
あなたのことを幾度となく想っていた。
私の怒りの本当の理由は、誰も知らない。
伝えようとした。
何度も伝えようとしたけれど、
泣きたくなるくらいすれ違いばかりで、
どんどん伝えにくい状況になっていった。
顔を合わせることも減り、
もう流れがそうなっているようだった。
この流れに抗うことはできないのかもしれないー
あの時の私は、そんな風に思ってしまった。
声をかけるタイミングを見つけることすらできなくなっていった。
「ごめん、言えなかったんだ。
先に言おうとしたんだけど、でも言えなかったんだよ」
あなたは急いで駆け寄って来て、そう言ったよね。
覚えてる?
きっと本当にそうだったんだと思う。
あなたはいつも誠実だったから。
どんなことでも
必ず約束を守ってくれていた。
私をがっかりさせるような人じゃないことは
私が一番よく分かっていた。
でも、誰よりも先に言ってほしかったの。
私が一番先に聞きたかったの。
他の誰でもなく、
一番最初に「よかったね」
そう言ってあげるのが私であってほしかった。
そんな風に思っていたなんて、
知らなかったよね、きっと。
「どうして先に言ってくれなかったの?」
素直にそういえばよかった。
あの瞬間、
私は怒りの壁に取り囲まれてしまっていた。
本当は、ずっと怒っていたわけじゃなかった。
でも、私がずっと怒っていると思っていたでしょう。
怒りよりも、周りの空気が苦しくてつらかった。
みんなの心配が大きすぎて、心がパンクしそうだった。
そっとしておいてほしかった。
気持ちは自然と静かになっていくから、
何も言わずにそっとしておいてくれたらー
私からいつも通りに声をかけて、
感情的になってしまったことを謝れたのかもしれない。
そんな状況だったことを、あなたは想像できていたかな。
周りの過剰な心配と
悪意のない無神経な言葉で、
息が詰まった。
窒息しそうで苦しくて、
でも誰にも言えなかった。
怒りは静まっていくのに、
心はどんどん頑なになっていった。
「どうなった?」
「許してあげてよ」
「そろそろ話したら?」
「そんなに怒ることじゃないでしょ」
「仕方ないよ」
「かわいそうだよ」
「あんなに仲良かったのに、どうして?」
「みんな心配してるのに」
毎日誰かから言われた。
本当のことを知りもしない人たちが
次から次に余計なことばかり言ってきていた。
「一緒に行かないの?どうして?」
行けない事情があることは、
あなたと私だけが知っている。
知らない人たちが憶測で勝手なことばかり言ってくる。
それが心配や気遣いであったとしても、
私は傷ついた。
小さな自尊心にヒビが入った。
そして私は、透明な壁の中に自分から入っていった。
全てを閉ざして、何事もなかったように過ごすこと、
それが周りから自分の心を守る唯一の方法だったことを
きっとあなたは知らないよね。
あなたは忙しくなっていったからー
知るはずもなかった。
最後にエレベーターの中で偶然会った日のこと、覚えてる?
私は今でも鮮明に覚えている。
あの時の会話が最後だった。
「まだ怒ってる?」
うなだれながらそう聞いたあなた。
「いつ頃になったら話してくれる?
また話してくれるまで待ってるよ」
頑なに心を閉ざしてしまっていた私は
なんて答えようか考えていた。
すぐに答えられなかっただけで、
無視しようとしたわけじゃなかった。
でもきっと私がまだ怒っていて
無視しているんだと思ったよね。
そうでしょう?
流れがそうさせたのか、
答える前にエレベーターの扉が開いてしまった。
少し立ち話でもできたはずなのに、
あの時の私は黙ったままー
言葉が出なかった。
謝れるタイミングだったのに。
またいつものように話せるようになるチャンスだったのに。
そんな私の複雑な気持ちを、あなたはきっと知らない。
まだ怒っている、
こんなに頼んでいるのに無視している、
そう思ったでしょう。
ごめんね。
あなたと私、二人だけで話していたら、
もっと深いところまで伝えられたかもしれない。
頑なに心を閉ざしてしまうことはなかったかもしれない。
どんどんよくない状況に流れが進んでしまった。
そういう流れだったのかもしれないし、
私がいけなかったのかもしれない。
あの頃、家で一人で泣いた。
日曜日の夜に、悲しくなって、悔しくなって、
複雑な感情が溢れてきて、
一人で声をあげて泣いたんだ。
とめどなく溢れてくる涙
そのひと粒ひと粒が
言葉でうまく綴ることができない想いだった。
あんなに声を出して大泣きしたのは
最初で最後。
あなたは私にとってそういう人だったことを
きっと知らないよね。
そんなことを今さら言っても
何がどうなるわけじゃないことも
私は分かってる。
またいつかどこかで会えたらいいなー
そう思っているけれど、
あなたはどう思っているのかな。
もう私のことは遠い思い出になってしまったかもしれないね。
すっかり忘れてしまったかもしれない。
忘れてしまっていたら、それはそれでいい。
私が傷つけてしまったことも忘れてくれているということだから。
あれから長い歳月が過ぎたね。
奇跡が起きてまた会えたら、
その時は、ただ楽しく話したいな。
「ごめんね」
この言葉は心の奥でそっと伝えることにするよ。
あなたとの再会ー、
そんな奇跡を夢見ながら。
~今日の曲~
"Photograph" Ed Sheeran
~最後まで読んでくださった方へ~
心よりありがとうございました😊
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