この世にたった1枚のCD
これは、何を隠そうわたしにとって特別な、世界に1枚しかないCDである。
話はもう15年以上昔にさかのぼる。
初めてその人を見たのは、とある野外イベントのステージ上だった。
夜も深まったいい時間帯。お酒を片手にゆらゆらしていると、めちゃくちゃかっこいい曲が耳に飛び込んできた。
そして、その曲をターンテーブルで流していたその人に目が釘付けになった。
無造作な黒髪のロン毛に髭を生やし、スッと通った鼻筋。ヘッドホンを肩と耳の間に挟む、斜め45度の横顔。伏せた目元は夜の暗闇の中とんでもない色気を放っていた。
なっ…なんですか?なんなんですか?!
はちゃめちゃにタイプなんですけど!!!
狭い田舎のイベントの出演者だったので、その人の身元はすぐに割れた。(言い方)
わたしは味をしめて、そのあと何度かその人が出演するクラブイベントにも足を運んだ。
その人は音楽の知識も半端なく周囲からも一目置かれていて、自分の知らないことをたくさん知っている男性はそれだけで魅力的に映るものだった。
まったく接点がなかったところから、職場とクラブが近かったことや、友達がその人と顔見知りだったこともあり、わたしの職場にフライヤーを置きにきてくれたりするようになっていった。
当時はmixiの全盛期で、その人とついにマイミクになりコメントをもらったときなんて、もうー!!!
そんな、タイプすぎてもはや近付けないその人に、わたしはある日、かなり勇気を振り絞ってこう言った。
「前にイベントで○○さんが流してたあの曲がすごく好きだったんです。似たような雰囲気の曲、また教えてください。」
直接なんてとてもじゃないけど言えなくてDMか何かで伝えたような記憶がある。
そしたら、わざわざ作ってくれたのだ。
MIX CDを。
それが冒頭の、この世にたった1枚のCDであります。
そのときのわたしときたら、うれしさのあまり毛穴という毛穴から体内の水分が全部出て蒸発して干からびて死ぬかと思った。
わたしはそのCDをクルマでも聴いてお店でも流して、ずっと大切にしていた。
そんなに大切にしていたはずのシロモノを、近年、すっかりどこかに無くしていた。(コイツめ)
それがこの度10年以上の時を経て、掃除中にひょっこり出てきたというわけだ。
こ、これは〜〜!!!
見覚えのあるケースに、その人の字で手書きされた、わたしの名前!
興奮のあまり、不登校で家にいる長男に1から10まで全部しゃべった。夫に聞かせるには忍びない。だから君しかいない。聞いてちょんまげ!!
エモとキュンが止まらず、昼食の準備もそっちのけでうろ覚えのキーワードを並べてググりまくり、当時のその人の写真を見つけた。キモいことしてごめんなさい。でもめっちゃカッコいいですー!!!
そう。そしてCDだよ。
もうCDデッキもウォークマンもなくて、Blu-rayに入れてみたら、TVから再生された。
聴けたー!!!
数えきれないほど聴いてたCDだから、流れも次の曲も全部全部覚えていた。
あの当時の匂いや空気感までもが真空パックされていたかのように一瞬で蘇る、わたしは音楽のそういうところが大大大好きなんだ!
そして、あのころのわたしは舞い上がっていたから考えもしなかったけど、大人になったいま冷静に考えるとどうでしょう。
もしかしたらこれ、世界に1枚ではないかもしれないよね。
せっかく作ったんだし、ついでに量産してたかもしれない。そしてそれを同じような女の子に配り歩いてたかもしれない。
もはや、データとしてすでにあったものを焼いてくれたと考える方が自然で、自分のためにわざわざ作ってくれたなどと思い込んでいたことこそが壮大なおめでたい勘違いだったのかもしれない。
かもしれないけど。
思い出は……綺麗なほうがいいもんね?
推しとも恋ともなにか少し違うわたしのそれは、たぶん「大ファン」というやつだったんだろう。
