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わたしが歯医者さんに通う理由は、思いっきり笑いたいから。

カフェで向かいあって座る彼女は、大きく口を開けてぴかっと微笑んだ。
わたしは打ち合わせのあいだじゅう、彼女に見惚れていた。
正確には、その笑い方に見惚れていた。

・・・・・

多くの人に共感してもらえると思うのだが、わたしは歯医者が苦手である。

歯を削るときの「キュイーーーン!」というあの音。
なんかよくわからない、いろんな器具を入れたり出したりされるあの感じ。
治療中の「動いたらたぶん死ぬ」という尋常でない緊張感。

何より、あの、痛みが怖い……

そんなわたしなので、お恥ずかしながら、大人になってほとんど歯医者に行くことがなかった。出産後に銀歯がとれてしまって、まだ赤ちゃんだった子どもを連れて歯医者に行ったが、すぐに治療が済んでしまい、それ以来また行かなくなった。かれこれ7年になるだろうか。

その間にわたしは40代に突入した。歯が痛いとは言わないまでも、お口の中にはちょこちょこと、気になるところが出てきた。歯茎がすこし痩せてきて、下がってきた気がする、だとか、歯と歯のすきまに、小さな黒っぽいものが見える気がする、だとか。

自分なりにケアはするけれども、気になってしまって、いつからか、人前で口を大きく開けて笑うことが、はばかられるようになってしまった。

だからその日、打ち合わせ相手の彼女——わたしよりも少し年上で子育ての先輩でもある——が、大きな口を開けて笑う顔に見惚れてしまったのだ。

彼女はきちんと歯をケアしているんだ。
だから、こんなふうに思いっきり笑えるんだな。

そう思ったとき、わたしは、「歯医者、行こう」と心に決めた。

歯医者嫌いのわたしに、歯医者に行こう、と思わせてくれた人がもう一人いる。それは、現在8歳になるわが子である。

あれは年長さんの頃だった。幼稚園の歯科検診で、虫歯の疑いがある歯が一本見つかった。わたしは即座にインターネットテクノロジーを駆使し(スマホでGoogle検索)、子どもの歯に最適な処置をしてくれる歯医者さんを探し出した。

電話で予約をすると、すぐに診てもらえることになった。
その歯科医院は、インターネットで見たとおり明るい雰囲気で、待合室にはキッズスペースがあり、いたるところにかわいい雑貨がおいてあって、子どもでも怖がらない工夫がなされていた。

治療室に通され、椅子に座らされた子はすこし緊張していた。近くの椅子に腰掛けたわたしは、できるだけ安心できるよう、子どもの足を優しくさすっていた。

治療が始まってから気づいた。

わたし、歯医者に行ったことはあるけど、
人が治療されているところを見たことがない。

そして驚いたことに、
人が治療をされているところを見るのって楽しい……

いろんな器具を器用に持ち変え、次々と口の中に出し入れする先生と、それをアシストする歯科衛生士さんの、ひとつも無駄のない動き。

一体どれだけの治療を共にしてきたらこんなに息ぴったり、阿吽の呼吸で作業できるようになるのだろう。

子どもが「まったく痛くない」という様子でおちついているので、こちらもおちついて見ていられる。

苦手な「キュイーーーン!」も、自分の口の中から響くものでなければあまり嫌な感じはしないし、次はどんな道具が飛び出すんだ……と終始ワクワクしながら治療を見学していた。

おそらく、かなり前のめりな姿勢になっていたと思う。(写真も撮らせてもらった)

何度か子どもの付き添いをするうちに、いつのまにか、歯医者がさほど苦手な場所ではなくなっていった。

「歯医者、行こう」と一念発起したものの、往生際悪く「どうしようかな、絶対虫歯あるよ。こわいなあ……」などと言っているわたしに、子ども(8歳)がこう言った。

「今いかないと、どんどん悪くなっちゃうよ?」

まっったくそのとおりだ。この言葉でハラが決まった。
そして子どもは、こうも言ってくれた。

「あの歯医者さん、ぜったいいたくしないから。だいじょうぶだからね!」

経験者による言葉の説得力が半端なかった。

実際、歯医者さんは、子どもを治療するときと同じように配慮してくれて、まったく痛みを感じなかった。(強いて言えば、歯周病の検査でチクチク痛かったくらい)

それに、苦手だった「よくわからない器具」も、子どもの治療を見ていたことで、どんな役割をしているのか理解できたし、先生たちがてきぱきと作業する姿も見てきたから、安心して身を任せられた。

検査の結果、虫歯が何本かあることがわかり、二週間に一度通院している。
今まさに治療の真っ最中だ。

治療に入る前に歯科衛生士さんに教えてもらったのは、おもにこの3つ。

・歯磨きをするときに力を入れすぎると、歯茎が下がってしまい、知覚過敏などの症状を引き起こすことがある(だからやさしく磨いてあげる)

・下がった歯茎は、もう二度と元にはもどらない(悲しい事実)

・フロスは、歯の隙間だけでなく、歯茎のほうまでしっかりと下げてかけてあげること(かけ方が足りていなかった)

定期的に歯医者さんに診てもらうので、「きちんとしなければ」と、毎日歯磨きとフロスを丁寧にかけている。
おかげで、どんどん口の中が健康になっている実感がある。手間はかかるけど、気分がいい。

治療が終わるころ、わたしはあの日の彼女みたいに、大きく口を開けて思いっきり笑えるようになっているだろうか。

その時が、とても楽しみだ。



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