子育てがしんどい日の、大人の絵本『あんなに あんなに』
今が大変すぎて、子どもとの時間を愛おしいと思う余裕がない。
子育てをしていると、そういう日がある。
あるべき姿は、毎日子どもを愛でてゆっくり絵本を読んだり、飽きるまで散歩に連れて行ったり、整った生活なんだとも思う。無印良品のような穏やかな雰囲気で過ごせれば、とも思う。

でも実際はおむつを替えて、ご飯を用意して、食べさせて、お風呂に入れて、寝かしつける。毎日同じことを繰り返しているはずなのに、夜はもう体力が残っていない。読みたい本があるのに、見たいドラマがあるのに、寝かしつけと同時に寝落ち、かと思えば夜泣きで起きたり。平日は特に。
この記事では、そんな慌ただしい毎日の中にいる親に向けて、ヨシタケシンスケさんの絵本、『あんなにあんなに』を紹介します。
そうです、絵本です。10分もあれば読めます。

それでも私は、2歳半の子どもと過ごしてきた時間と、これから過ごすであろう時間を想像して、涙が止まりませんでした。妻が心配するほど。まだ子育ては始まったばかりなのに。笑
読んだ後、少し落ち着いて考えたのは、
「子どもとの日常には、気づかないうちに最後が来る」
という、当たり前だけれど普段は忘れていることでした。
この本は、子育てが急に楽になる話ではありません。それでも読んだ後には、子どものかわいいや、できた!を感じる時間から、おむつ替えや寝かしつけ、発熱や感染に怯えながらの看病、遊び食べやおもちゃをひっくり返すちょっと困った時間まで、少しだけ違って見えるかもしれません。
さて、どんな本かを少しだけご紹介します。
『あんなに あんなに』は、短い絵本です。
「あんなに〇〇だったのに、もう……」というかたちで、子どもとの日々が描かれていきます。あんなに欲しがっていたのに。あんなに心配したのに。あんなに小さかったのに。
言葉にすると、それだけです。
本当に、それだけ。
でも、その繰り返しの中に、
子育てをしていると一度は遭遇するであろう場面の数々、それらのままならなさ、日常の愛おしさ、留めおきたいと思っても過ぎていく時間の流れと成長、子の成長があるからこそできる親としての経験、などがたくさん詰まっています。
ヨシタケシンスケさんの絵は、柔らかいタッチで、場面や感情を説明しすぎません。そして、表情がとてもいい。お気に入りは、この本に出てくるお母さんの「もう、この子は、仕方ないなあ」という、あきれと愛情が入り混じったような顔です。子どもに驚かされた時の顔もいい。
子育てをしていると、たぶん何度もああいう顔になっている。怒っているわけではない。困ってはいる。面倒だとも思う。それでも、かわいい。どうしようもないな、と思いながらもどうにかしてやろうとする。それらが入り混じったような顔。
近頃はSNSで子育ての辛さ、しんどさを吐露しているような投稿に対して、「なら子どもを持たなければ」、と言った意見を見ることもある。悲しくなる。子育てって、とんでもなく可愛いけどめちゃくちゃしんどい、が容易に両立する世界。大人だって人間だから。公式サイトにもこのように紹介されています。
こどもと昔こどもだったすべての人に届けたい、家族に寄り添う優しい絵本
みんな昔は子どもだった。いつからが大人かなんてわからない。だからしんどいことはしんどい、でもいいと思う。そこもこの本を読んで救われる点のひとつ。
そして子育ては、つくづくきれいな感情だけではできない。眠い日も、余裕がない日も、とにかく甘やかしたい日も、早く寝てほしいと苛立つ日もある。もちろん一人になりたいと思う日もある。それでも、あとから振り返ったとき、
「あんなに大変だったのに、もう」
と考えるのだろう。いや、そうでありたい。
その「あんなに」の中に、戻れない時間が詰まっている。
最近、長女のおむつが外れかかっている。それは、とても喜ばしいこと。自分でトイレに行けるようになる。親の手が少し離れる。生活も少し楽になる。でも、あんなに毎日おむつを替えていたのに、替えなくなる日がもうすぐそこまで来ている。そして、その「最後のおむつ替え」がいつだったのか、たぶん私は気づけない。
最後の抱っこ。最後の寝かしつけ。最後の言い間違い。最後の「パパ、やって」。そういうものは、たいてい終わってから気づくのだと思います。
気づいたときには、もう戻れない。
これからも余裕がない日は死ぬほどあるだろうけど、この本を読んだ後では、そのうち何回かは、「こんな経験もうないかも」と思って前向きに受け止められるかもしれない、あともう一押し、頑張れるかもしれない。そんな気持ちにさせてくれました。
この本と出会ったきっかけは、妻が誕生日プレゼントとして贈ってくれたことです。今思うと、素晴らしいチョイスでした。自分で本屋に行っていたら、自分から選ぶことはまずなかったと思います。というかそもそも自分用に絵本を買うという考えがなかった。そんな人にもおすすめです。

絵本屋さん大賞 第1位も納得。
著者のヨシタケシンスケさんは、『りんごかもしれない』『もう ぬげない』『このあと どうしちゃおう』『あるかしら書店』などで知られる有名な絵本作家です。名前はなんとなく聞いたことがあるものの、これまでちゃんと読んだことがありませんでした。理系の研究者として生きてきた自分にとって、絵本作家は少し遠い存在でした。
だからこそ、『あんなに あんなに』は、私にとって衝撃でした。子ども向けの絵本というより、大人向けの絵本。親が自分の中にある記憶、そしてこれからの想像を引き出される絵本です。ページをめくるたびに、そこで描かれている親子というフィルターを通して、自分の家の風景を見ています。
1回目に読んだとき、私は親として泣きました。でも、2回目に読んだときは、少し違いました。自分の母親のことを思い出しました。
私もかつて、誰かに「あんなに小さかったのに」と思われていたはずです。あんなに手がかかったのに。あんなに心配したのに。あんなに一緒にいたのに。今では私も大人になり、親になりました。そして、親もまた年を取っています。
子どもが大きくなるということは、親が老いていくということでもあります。自分の親が孫を見るとき、何を感じているのだろう。私たちを育てていた頃のことを、少し思い出しているのだろうか。この絵本は、そこまで考えさせます。
大人になったからこそ受け取れる絵本もある。長い説明ではなく、短い言葉と絵だからこそ、自分の記憶が入り込む余白がある。『あんなに あんなに』は、まさにそういう本でした。
明日もきっと、おむつを替えたり、ご飯をこぼされたり、寝かしつけに時間がかかる。大変なのが日常。それでも少しだけ、子どもの顔をよく見ておこうと思いました。
あんなに小さかったのに。
いつか、そう思う日が来る。
そしてそれは、きっと幸せなことです。子どもをしっかりと記憶に留めている証拠でもあるのだと思います。
読んでくださった方がいれば、『あんなに あんなに』の好きな場面や、読んで思い出したことをコメントで教えてもらえるとうれしいです。
