見出し画像

サイギ、サイギ

数ヶ月前、出番待ちの楽屋でテレビを見ていたら、地獄についての特集がやっていた。その中で「地獄VR」なるものを体験させてくれるお寺があることを知り、これは行くしかないと早速予約をして、今日、満を持して地獄を体験しに行ってきた。

またしても何も知らない夫を連れて新横浜行きの相鉄線に乗り、自宅から1時間半ほどの場所へ到着する。実家のある場所と同じく、横浜の中心から少し外れてしまえばそこには見事な片田舎の風景が広がっている。駅からバスに乗り込んで、寺の目の前にあるバス停で降車。ほとんど人のいない町の中で、蝉だけが威勢よく鳴いている。想像していたよりも大きな寺の階段を昇り、会場の前まで行くと、受付係らしい若いお坊さんがにこやかな笑顔で声をかけてくれた。

ここまで誰にも会わなかったし、私たちとお坊さんの3人きりだったら気まずいな、なんて思いながら本殿に入ると、そこには我々と同じく地獄VRを体験しにきたらしい人々が10人ほど静かに座っていた。机には人数分のVRゴーグルと、「地獄VR」と書かれた真っ黒なパンフレットが置かれている。目の前のご本尊の手前にも、やはり「地獄VR」と表示された大きなモニターがあり、その傍らにはさっきよりも位の高そうなお坊さんがピンマイクをつけて立っていた。横に座っている夫が「ピンマイク僧侶だ」と嬉しそうに言う。

ここから先は

1,167字

加熱前の日常と思考。書籍や文芸誌に寄せる前の、まだ煮詰まりきっていない思考や、いつか作品になるかもし…

アグイーの部屋

¥600 / 月

加熱前の日常と思考。書籍や文芸誌に寄せる前の、まだ煮詰まりきっていない思考や、いつか作品になるかもしれない断片を公開しています。 毎週土曜…

チップで応援する。私の好きな言葉です