「法務をなくす」の前に、「法務」を脱構築したい
本稿は、片岡氏の「法務部門の存在意義は『法務』をなくすことにあるんじゃないか」という問題提起を読んで、自分なりに考えていたことを整理してみたものです。
読んでいて、以前投稿した「戦略法務は幻想なのか?」の記事と関係するな、と感じました。
AIによって、これまで法務部門が担ってきた仕事の一部が代替されていく、という見立て自体には、私もかなり違和感がありません。ただ、その先をどう言葉にするかについては、私は少し別の整理をしています。
私としては、「法務を閉じる」というより、いままでの法務観をいったんほどいて、組み替える(「脱構築」する)という方が、しっくりきています。
1.一般にイメージされている法務
多くの法務部員がイメージする「法務」は、だいたい次のようなものではないでしょうか。
契約を審査する。
法律相談に乗る。
訴訟や紛争に対応する。
そして、それらを外部弁護士よりも事業理解のある立場で行う。
要するに、事業理解を伴った法的アドバイザリーとしての法務です。
これは妥当で、むしろ大多数の理解だと思います。
長い間、企業法務の中心業務はそこにあったわけですし、実際にそのように法務部門を位置づけている会社も多いはずです。
だから、生成AIの進化によって、その業務のかなりの部分が置き換わっていくのではないか、という問題意識には、私もかなり共感があります。
2.私は「法務」を少し違う場所に置いている
ただ、私にとって法務は、契約審査や法律相談というタスク、To doにはあまり置いていません。
法・法源、そしてその延長として存在する社内規程やガイドラインを含む「統制」の専門家として、事業価値の毀損を最小限に抑えつつ、その実現と最大化に向けて会社の意思決定と運用を整える役割だと考えています。
少し大きく言いすぎているように見えるかもしれません。
ただ、実務に引きつけると、やっていることはそこまで特別ではありません。
「戦略法務」の記事で触れたことも、契約審査や法律相談から遠く離れた別世界の話ではなく、結局はその延長線上にあるものだと思っています。
ただ、契約審査や法律相談は、大事な一部ですが、それが法務の全部かというと、私はそうは考えていません。
3.「法務の終わり」よりも「法務観の組み替え」ではないか
ここで言いたいのは、一般にイメージされている法務観が間違っている、ということではありません。
そうではなくて、その法務観は、生成AI以前の中心業務にかなり沿ったものなのだと思います。
AIが得意なのは、与えられた前提のもとで、起案し、整理し、比較し、典型論点を出すことです。
一方で、まだ人間が強く関与しているのは、そもそも何が前提として欠けているのかを見抜くこと、社内規程や権限ルールや過去経緯とつなぐこと、事業・コーポレート・経営をまたいで「会社として決められる形」に整えることだと思っています。
そう考えると、AIによって揺らいでいるのは、法務という機能そのものというより、これまで法務と呼んできたタスクの方なのではないか。
なので、私の中での結論は、「法務をなくす」というより、
いったん法務観をほどいて、より抽象度の高いところから組み替える必要があると考えます。
4.以前いただいたコメントの「法務」の違い
以前、私がランサムウェア対応の記事を書いたときに、「法務の関与度合いは会社ごとに様々だな」という趣旨の引用ポストをいただいたことがあります。
その感想自体は自然だと思っています。
契約審査や法律相談を法務の中心に置くと、IT部門を側面支援し、広報や事業部門や経営をつなぎ、対応の交通整理をするのは、少し別の仕事に見えるからです。
ただ、私が置いている法務観からすると、むしろそこはかなり本筋です。
危機対応で問われるのは、条文知識だけではありません。
業務分掌規則・職務権限規程上、誰を招集するのか
何の情報を止めるのか
逆にどの情報を誰にどこまで出すのか
何に気をつけ、気を配るのか(個人情報保護法、秘密保持条項 等々)
誰が決めるのか
その判断をどの規範とどの証跡で支えるのか
こうしたことを整理して、会社として動ける状態をつくることは、まさに「統制の専門家として、事業価値の毀損を抑えて、会社の意思決定と運用を整える」仕事だと思っています。
なので、「法務が違う」というより、法務という言葉をどこに置いているかが違うのだろう、と感じました。
5.法務審査はなくなる仕事ではなく、組み替えのための助走になる
ここで付け加えたいのは、契約審査の価値を軽く見たいわけでは全くない、ということです。
むしろ、私はかなり逆で、契約審査は今後の法務を組み替えていくための助走になると思っています。
契約審査で実際に見ているのは、条文だけではありません。
商流、物流、品質、検収、責任分界、相手の交渉スタイル、社内稟議の通り方。
そうしたものを見ながら、「どこが現実的ではないか」「どこにリスクがあるか」を感じ取っているはずです。
その蓄積は、AI時代の法務にとってかなり重要な土台になります。
初稿をAIが書くようになっても、何が前提として欠けているのか、どこにしわ寄せが行くのか、どの統制が詰まるのかを見抜く感覚は、やはり実務の中でしか育ちにくいと思います。
だから、契約審査を「そのうち代替される仕事」とだけ見るのではなく、法務を組み替えるための助走として見ることにも意味があるのではないか、と思っています。
6.まとめ
片岡氏の問題提起を読んでいて、AIによって、これまで法務部門が担ってきた仕事の一部が代替されていく、という見立てには、私もかなり共感があります。
ただ、私としては、そこからすぐに「法務をなくす」という言葉には向かわず、
そもそも自分たちは何を法務と呼んできたのか
を一度ほどいてみたい、という気持ちがあります。
一般にイメージされている法務観は、間違ってはいないと思います。
ただ、それは生成AI以前の中心業務にかなり沿ったものでもある。
だからこそ、いま必要なのは、法務をタスクの集合体としてではなく、機能として捉え直すことではないか。
私は、そこから考えるべきだと思います。
