いつもの場所で、お別れ。
いつも座っていた、お気に入りの場所がある。
段ボール箱に化粧紙を貼り、きれいに整えたその中に毛布を敷いて──キミは気持ち良さそうに座っていた。
ほんの一週間前まで、僕が椅子に座っていると、いつのまにか横に来て、僕の腕をとんとんと叩いた。
「ごはんちょうだい」の控えめでやさしい合図。
少しだけうざいと思うこともあった。
でも今は、お願いだから──もう一度、とんとんしてほしい。
わがまま言ってごめんね。
それでも、もう一度だけ、とんとんしてほしい。

愛した猫が、動かなくなった。
死というものに、僕はあまりにも無知で、あまりにも幼稚な考えしか持っていない。
だから、目の前の出来事を受け入れることが出来ない。
──はじめ食欲がなくなりチュールしか食べなくなり、そのうちチュールも食べなくなり、ついには何も食べなくなり、お湯だけを飲んでいた。
そして、とうとうお湯さえも飲まなくなった。
普段、鳴いたことがないのに、昨夜は目の前に来て、ミャーん、ミャーん、と僕を見つめて何度も鳴いていた。
お別れの挨拶だったんだね。
十五年間、一緒にいてくれてありがとう。
じゃっ、またね。
いつもの場所には、今もキミが座っている。
了
