おむつの中の走馬灯(不条理SS6)
一歳の誕生日。
両親と2歳上の姉が祝ってくれた。
「ハッピーバースデーツーユー」
僕は本当は「ありがとう」って言えたんだけど、あまり年上の人たちを脅かしちゃいけないと思って、
「ばぶー」って可愛らしくおどけてみせた。
小学校の入学式。
やたらと重いランドセルを背負いながら、僕は人生という名の重荷について考えていた。
おまけに、集団行動の同調圧力にどう抗うべきかで頭の中がフル回転していた。
中学校では、女子たちが誰の第二ボタンをもらうかで騒いでいた。
僕はそんなことより宇宙の膨張について思いを馳せていた。
姉に「あんたさ、時々おじいちゃんみたいな顔するよね」
と見抜かれて、少しドキリとした。
高校の文化祭。
出し物で、級友と即席漫才コンビを組んだら、体育館が揺れるほどウケた。
大学生のとき、姉と漫才コンビを組んだ。
M2グランプリで優勝すると、シャンパンの泡のように人々が群がってきた。
でもコンビを解消したら、群衆は煙のように消えた。

その後、姉は病で若くして逝ってしまった。
世界から色が抜け、僕はモノクロームの風景の中にぽつんと取り残された。
恋も結婚もなく、ただひとりで年を重ねた。
60歳のとき、孤独を綴った人生を小説にしたら、街の本屋さん大賞を受賞した。
すると、忘れていたはずの知人や、見たこともない遠い親戚が、まるで雨後の筍のように生えてきた。
75歳になって終活日記を書き始めた。
筆を走らせながら、なぜか腰回りに冷たい秋風が吹き抜けるような奇妙な悪寒を覚えたが、気のせいだろう。
……そして今日、
百歳の誕生日を迎えた。
部屋中に終活日記が積み上がっていた。
な〜んて夢を見たのは、
一歳の誕生日だった。
不覚にもおねしょをしていた。
母親がおむつを替えてくれた。
ぐっしょりと濡れたおむつの不快感と、僕を抱き上げる母の腕の温かさ。
やっぱり、普通の赤ちゃんを演じるのも悪くない。
ばぶー
◇◇◇
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