ロケ地フェチ
猛暑のせいか、それとも罪悪感のせいか。
僕は取調室でゲロを吐かされる容疑者のように汗をダラダラと流しながら、懺悔室で自分の性癖を告白した。
「すいません、ロケ地フェチであることを懺悔します」
気に入ったドラマや映画のロケ地を訪れるのが趣味なのだ。
さて、禊を済ませ、元気良く出発!
懺悔室で罪と汗をたっぷりと絞り出してきたので、体脂肪率は劇的に下がり、軽やかな足取りで今回の目的地へ向かうことができた。
そこは若手女優・清瀬スズメ主演ドラマのロケ地。
ロケ地フェチとしては外せない一品だ。
持参したスマホの写真は、彼女がロケで隅田川沿いのベンチに腰掛けているシーン。
現地の風景と見比べるとピッタリ一致した。
一点の汚物を除いては。
川べりのベンチには、淡いチェックのポロシャツ男が先客として座っていた。
目があった。
「おたくも清瀬スズメの残り香狙い?」
ポロシャツ男は僕の返事を待たず、嬉しそうにスマホを操作しながら近づいてきた。
画面を覗き込むと、明らかに盗撮と思われる清瀬スズメのキワドイ写真の数々。
目が釘付けになり、男が次々とページを送るたび、僕は唾をゴックンと飲み込んでしまうという醜態をさらしてしまった。
だが僕にもプライドがある。
やられたまま引き下がるわけにはいかない。
反撃だ。
僕はスマホを取り出し、撮りためてあるローアングル画像を表示させ男に見せた。
膝のあたりから上半身を狙った、脳天沸騰不可避の貴重なショットだ。
男が画面を注視し、悲しそうな表情を浮かべた。
うっふっふ、勝った。
被写体は順に
a.渋谷のハチ公像
b.池袋のいけふくろう像
c.そして極めつけの上野の西郷隆盛像
(その位置関係から、足元からねめつけるようなショットになる)
だ。
男にとって、僕は理解不能な危険人物に見えたのだろう。
そそくさとスマホをしまい、哀愁漂う背中を見せて去っていった。

残された僕は、男に代わりベンチに腰掛けた。
すると今度は、中学生らしき男子生徒が二人やって来た。
「キミたちも清瀬スズメの残り香狙い?」
一人が恥ずかしそうに俯いた。
「いえ、ボ、ボクたちはスズメさんのファンですが、残り香なんて……」
僕は自分の大人げない発言を恥じた。
ロケ地フェチとしての基本マナー、譲り合いの精神を守らねば。
「どうぞ、僕は満足したので」
大人の余裕を見せることができた。
さて、今日はせっかくなので、スカイツリーのローアングル写真を撮って帰るとしよう。
完
