観客300人のサッカークラブが「次は500人」を目指す理由 ── 地方の建設会社が本当に採るべき戦略は、大企業のマネではない

平日のナイターで、観客が300人ほどの試合がある。それが今の私たちの、いちばん多いときの数字だ。Jリーグの華やかなスタジアムとは、まるで別世界だ。
私がオーナーを務めるSAITAMA KNØS UNITEDは、埼玉県の鴻巣市・北本市を拠点に、Jリーグを目指して戦っている。まだ全国区の知名度もなければ、テレビ中継もない。今の集客はよくて300人。だからこそ私たちは、次の目標を「500人」に置いている。この300人から500人へ、という数百人の勝負を、私は毎試合、本気で追いかけている。
たかが数百人、と思うかもしれない。だが、この「目の前の300人を、いかに本気にするか」という問いは、実は経営者にとって、とてつもなく大きなヒントを含んでいる。特に、大企業と同じ土俵では戦えない、地方の建設会社や運送会社の経営者にとってはそうだ。今日はそのことを書きたい。
「認知度で勝てない組織」が生き残る唯一の道
サッカークラブの経営を始めて、最初にぶつかった現実がある。私たちは、Jリーグの有名クラブと同じことをやっても、絶対に勝てない。
広告費も、選手の年俸も、スタジアムの規模も、何もかもが違う。もし私が「浦和レッズのような集客を目指そう」と号令をかけていたら、スタッフは疲弊し、クラブはとっくに畳んでいたと思う。
これは、地方の建設会社が置かれている状況とほとんど同じだ。大手ゼネコンや、全国CMを打つハウスメーカーと、同じ土俵で若者を取り合っても勝ち目はない。今の建設業界は深刻な人手不足で、就業者はピークだった1997年から200万人以上減ったと言われる。中小企業の現業職の不足感は9割近い。つまり、限られた若者を全社で奪い合う「椅子取りゲーム」が起きている。
その椅子取りゲームで、資本力の劣る組織が大手と同じ戦い方をするのは、自殺行為に近い。ではどうするか。答えは、KNØSが実際にやってきたことの中にある。「認知度」ではなく「関係の深さ」で勝つ、という一点だ。
浅く広く1万人に知られるより、深く濃く目の前の300人に「この組織を応援したい」と思ってもらう。その300人が友人を一人ずつ連れてくれば、500人はすぐそこだ。この発想の転換が、小さな組織が生き残る唯一の道だと、私はサッカーの現場で確信した。
応援は「勝ったから」生まれるのではない
多くの人が誤解している。「強いから応援される」「有名だから応援される」と。
だが、KNØSの現場に立っていると、それが半分しか正しくないことがわかる。人は、勝ったチームを応援するのではない。「自分ごとに感じられるチーム」を応援するのだ。
私たちのクラブが地域で少しずつ応援されるようになったのは、勝ち星が増えたからではなかった。選手が地元の小学校にサッカーを教えに行き、商店街の祭りにブースを出し、駅前でゴミ拾いをする。そういう、勝敗とは直接関係のない活動を、地道に続けたからだ。
すると、こういう声が生まれてくる。「うちの子にサッカー教えてくれた、あの選手が出てるから見に行く」。これはもう、他人事ではない。自分の生活の中に、そのクラブが入り込んでいる。だから、雨の日のナイターでも足を運んでくれる。
Jリーグ全体も今、この方向に本気で舵を切っている。2026シーズンからのシーズン移行にあわせて、リーグは「60クラブがそれぞれの地域で輝く」という成長テーマを掲げ、各クラブが地域とどう深く結びつくかを経営の根幹に据えようとしている。認知度の勝負ではなく、地域との関係の深さの勝負に、リーグ全体が向かっているのだ。
さて、これを建設会社の採用に置き換えてみてほしい。
多くの会社の採用サイトは「勝ったから応援して」の論理で書かれている。売上規模、施工実績、大手との取引。もちろん大事な情報だ。だが、それだけでは若者は「自分ごと」にならない。「すごい会社だな」で終わって、応募ボタンには指が伸びない。
「自分ごと」にするために必要なのは、実績の数字ではなく、人が見える物語だ。この現場を任されている職長がどんな人で、何を大切にしていて、若手をどう育てているのか。そこが見えたとき、はじめて「この人の下で働いてみたい」という感情が動く。KNØSのサポーターが選手の名前で試合を見に来るのと、まったく同じ構造だ。
「顔と名前」を出せる組織は強い
KNØSの運営で、私が最もこだわってきたことの一つが「顔と名前を出す」ことだ。
選手一人ひとりのプロフィール、生い立ち、サッカーにかける思い。それをできる限り言葉と映像にして、外に出す。無名のクラブが、いきなり「クラブ」として愛されるのは難しい。だが、「あの選手」なら愛される。個が立って、その集合体としてクラブが愛される。順番はいつもそうだ。
私はエンタメの世界で、STU48というアイドルグループのマネジメントにも関わってきた。そこでも構造は同じだった。グループそのものを好きになる前に、まず「推し」がいる。一人の魅力に惹かれた人が、やがてグループ全体を応援するようになる。人は、組織ではなく人に惹かれる。これは分野を問わない原則だと思う。
ここに、建設会社の採用ブランディングの大きな鉱脈がある。
考えてみてほしい。建設会社の採用で「顔と名前」が出ているのは、たいてい社長か、せいぜい人事担当者までだ。実際に若手が一緒に働くことになる、現場の職長や中堅の技能者の顔は、ほとんど世に出ていない。これは、ものすごくもったいない。
若者が本当に知りたいのは、社長の経営理念よりも、「自分が明日から一緒に汗を流す、あの先輩がどんな人か」だ。その先輩の腕、その先輩の教え方、その先輩が語る仕事の面白さ。それを顔と名前とともに世に出せた会社は、間違いなく採用で強くなる。
いきなり全社員を売り出す必要はない。まずは一人でいい。誇れる職人を一人、KNØSが選手を売り出すように、丁寧に世に出してみる。その一人が、会社の「推し」になる。私はそう確信している。
サッカークラブの経営者が、実は一番忘れがちなこと
ここまでは建設業界の方に向けて書いてきたが、同じ景色を見ているサッカ

ークラブの経営者にも、あえて厳しいことを一つ書い

ておきたい。私自身への戒めでもある。
地域密着という言葉は、あまりに便利で、あまりに気持ちがいい。「地域のために」と言っていれば、なんとなく良いことをしている気になれる。だが、そこには落とし穴がある。
Jリーグは2026シーズンに向けて「全クラブの売上を1.5〜2倍に」という数値目標を掲げ、理念強化配分金として約10億八千万円を各クラブに支給する計画を進めている。つまりリーグは、「理念」と「経営数字」を、はっきり同じテーブルに乗せた。地域密着は美談ではなく、経営として成立させるべき戦略だ、と突きつけているのだ。
私はこれを、痛みを伴う正論として受け止めている。地域の子どもにサッカーを教えることも、選手の顔を売り出すことも、それ自体が目的ではない。最終的には、クラブが自立して回り、選手に給料を払い、次の世代へ続いていくためにやっている。応援は、その手段であって、ゴールではない。
これは建設会社にも、そっくりそのまま返ってくる話だ。採用ブランディングも、SNS発信も、「良いことをやっている感」で終わらせてはいけない。若者が本当に入社し、定着し、技能が次の世代へ受け継がれる。そこまで届いて、はじめて意味を持つ。手段を目的と履き違えた瞬間に、どんな立派な理念も自己満足に変わる。
まず、目の前の300人を本気にする
大企業のマネをするのをやめよう、という話をしてきた。
観客300人のクラブには、300人のクラブにしかできない戦い方がある。全員の顔が見え、一人ひとりと関係を結べる規模だからこそ、深く応援される組織を作れる。その一人ひとりを本気にできたとき、はじめて次の500人が見えてくる。地方の建設会社も、まったく同じだ。何百人もの応募者を捌く大手と同じ採用をやる必要はない。目の前の若者一人と、深く、丁寧に関係を結べばいい。
インフラを支える現場の職人も、地域のサッカー選手も、私の目にはどちらも紛れもないHEROだ。そのHEROを、まず目の前の300人に本気で応援してもらう。そして次の500人へ広げていく。派手ではないけれど、これが、資本で劣る組織が本当に強くなるための、遠回りに見えて一番確かな道だと、私は現場で学んでいる最中だ。
あなたの会社にも、まだ世に出ていないHEROが、きっといるはずだ。
(XやInstagramでもインフラ業界の未来について発信しています。フォローお待ちしています。)


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