「大工」が6年ぶりに、子どもの夢に帰ってきた ── サッカー選手の隣に、インフラの仕事が並ぶ日を、私は本気で信じている
今年のこどもの日、日本FP協会が発表した小学生の「将来なりたい職業」ランキングを見て、私は思わず声を出した。
男子の1位は、7年連続で「サッカー選手・監督」。ここは私の予想どおりだった。私はJリーグを目指すサッカークラブのオーナーをしているので、子どもたちがボールを追いかける姿を毎週のように見ている。あの憧れがランキングの1位である理由は、痛いほどわかる。
驚いたのは、その少し下だ。10位に「大工」が入っていた。しかもこれは、2019年度以来、6年ぶりのトップ10復帰だという。
サッカー選手と、大工。華やかなスタジアムのHEROと、現場で汗を流すHERO。私がこの数年、まったく別のフィールドで「人をHEROにする」仕事をしてきた、その両方の職業が、子どもたちの同じ夢のリストに並んでいた。今日はこの一枚のランキングから、私がインフラ業界に賭けている理由を、あらためて言葉にしてみたい。
サッカー選手はなぜ、7年間も1位でいられるのか
才能が必要で、なれる人はごくわずかで、ケガのリスクもある。冷静に「職業」として見れば、決して安定した道ではない。それでも子どもたちは憧れる。
理由はシンプルだと思う。子どもたちは、サッカー選手が「かっこよく映っている姿」を、毎週見ているからだ。テレビでも、YouTubeでも、スタジアムでも。ゴールを決めた瞬間の表情、それを見て涙する大人、名前を呼ぶサポーター。プレーそのものだけでなく、「その人がどれだけ人を動かしているか」まで、映像として届いている。
憧れとは、能力への憧れではない。「あんなふうに人に必要とされたい」という、存在への憧れだ。サッカー選手は、必要とされている姿がいちばん見えやすい職業なのだ。
「なりたい」が消えた30年に、現場で起きていたこと
では、なぜインフラの仕事は、長らく子どもの夢から遠ざかっていたのか。
数字を見ると、状況の厳しさがわかる。建設業の就業者数は2024年で477万人。そのうち55歳以上が約37%を占め、29歳以下はわずか12%ほどしかいない。新規学卒者の入職は、2024年に7年ぶりに4万人を割り込んだ。有効求人倍率は2025年平均で5.64倍──全職業平均の1.22倍と比べて、約4.6倍もの開きがある。躯体工事にいたっては7.92倍で、募集しても人が来ない。
私はここで「若者が現場を軽視している」と言いたいのではない。むしろ逆だ。現場の仕事は、驚くほど高度で、驚くほど社会を支えている。私がインフラ業界に入って最初に感じたのは、この業界のプロたちへの尊敬だった。
問題は、その姿が「映っていない」ことにある。サッカー選手の必要とされる姿が毎週届く一方で、真夜中に道路を直し、災害の翌朝にいちばん早く現場に立つ人たちの姿は、ほとんど誰の目にも入らない。仕事の価値ではなく、仕事の見え方に、30年分の差がついてしまった。
私がクラブのオーナーをやって、確信したこと
サッカークラブの経営は、この「見え方」との戦いそのものだ。
私が関わる埼玉のクラブは、まだJリーグを目指す途上にある。有名選手はいない。派手なスタジアムもない。それでも、地域の人が少しずつ応援してくれるようになるのは、選手が「この街のために本気で走っている姿」が見えたときだ。試合結果よりも先に、まず姿が人の心を動かす。
Jリーグ全体でも、いま各クラブは「地域ごとのスターを生み出す」ことに力を入れている。全国区の有名人でなくていい。その街の子どもが「あの人みたいになりたい」と思える存在を、地元から生む。クラブが年間3万回を超えるホームタウン活動を続けているのも、勝つためではなく、必要とされる姿を街に届けるためだ。
以前、クラブの練習場に近所の小学生が集まってきたことがあった。彼らが目を輝かせていたのは、ゴールを決めた選手だけではなかった。試合後、誰よりも遅くまでピッチの整備をしていた裏方のスタッフに、「あれ、何してるの?」と何人もが聞きにきたのだ。仕事の中身を説明したら、一人が「かっこいい」と言った。私はこのとき、憧れは「見せ方」しだいで、どんな役割にも宿るのだと確信した。決めるのは職種の華やかさではない。その姿が、子どもの目に届いているかどうかだ。
私はこの構造を、そっくりそのままインフラ業界に持ち込めると考えている。全国に知られるスターはいらない。その地域の建設会社に、「あの職人さんみたいになりたい」と子どもが憧れる人が一人いれば、そこから風景は変わりはじめる。地域のクラブと地域の建設会社は、実はよく似ている。どちらも、その街の人に必要とされ、その街の子どもに夢を見せられる場所になり得るのだ。
「大工」の復活が、私に希望を見せてくれた
だからこそ、今年のランキングで「大工」がトップ10に戻ってきたことに、私は勝手に希望を感じている。
たった一つの順位の話ではない。これは、社会の目が現場に向きはじめたかもしれない、という小さな兆しだ。DIYや職人の技をていねいに見せる動画が増え、ものづくりの過程そのものがコンテンツとして楽しまれるようになった。仕事の中身は昔から変わらず尊いのに、「見え方」が少し変わっただけで、子どもの夢の中に帰ってくることができた。
私が「インフラ業界にHEROを誕生させる」と言い続けているのは、現場の人を今より偉くしたいからではない。すでに十分にHEROである人たちの姿を、サッカー選手と同じくらい、きちんと世の中に映したいからだ。価値をつくるのではなく、すでにある価値を、見える場所に運ぶ。
HEROは、生まれるのではなく「映る
」
サッカー選手も、アイドルも、現場の職人も、私の中では地続きだ。フィールドが違うだけで、やっていることは同じ──「その人がどれだけ人に必要とされているか」を、まっすぐ人に届けること。
子どものなりたい職業ランキングは、社会が誰を憧れの対象として映せているかの通信簿だと思う。サッカー選手の隣に、いつか「インフラを支える人」が当たり前のように並ぶ日を、私は本気で目指している。そのとき初めて、「インフラを支える人こそ、真のHEROだ」という言葉は、私の主張ではなく、子どもたちの実感になる。
その日まで、私はエンタメの世界で学んだ「映し方」を、この業界に注ぎ込み続けるつもりだ。
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