異世界ミートリア 【第5話】⑦ムダニクスの想い
【前回のあらすじ】
肉神モツによって創られた国、異世界ミートリア。魔王ムダニクスによって王国中の肉が封印され、人々の笑顔は失われてしまった。肉と笑顔を取り戻すため立ち上がったのは、救国パーティー《タカーズ》。
肉を封印するのか、解放するのか。
ミートリア王国の人々は、それぞれの想いを声にした。
怖いと感じた人も、笑い合いたいと願った人も。
たかっち社長は、どちらの想いも抱えたまま、肉を解放する道を選んだ。
けれど、肉神モツはまだ何も言わなかった。
「まだ、声になってない」とヒトちゃんが言った。
右近さんの指先が、静かに筆に触れた。
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第5話⑦ムダニクスの想い
「肉神モツ様。
私たちは、肉を解放する道を選びます」
たかっち社長の声が、
商店通りに静かに響きました。
けれど、肉神モツは、何も言いませんでした。
黄金色の光の奥で、
何かが小さく揺れたように見えます。

ヒトちゃんの耳が、ぴくりと動きます。
「……右近さん」
右近さんは、隣でうなずきました。

右近さんは、
肉神モツの光をまっすぐ見つめます。
「モツ様。
あなたの中にある、声にならない想いを、
少しだけ書かせていただきます」
人々は、息をひそめて見守ります。
右近さんは、
空中にゆっくりと筆を動かしました。
一画ずつ。
祈るように。
すると、青白い光が葉っぱの形になって、
ふわり、ふわりと浮かび上がっていきます。
その光は、筆先を追うように集まり、
やがて二つの文字が浮き上がりました。
荷苦。

商店通りに浮かんだその文字を見て、
まきマネは小さく息をのみました。
「……ニク?」
「荷の苦しみ……」
たかっち社長が、つぶやきました。
右近さんも、うなずきます。
「肉も、かつては命でした。
その命をいただくまでには、
たくさんの手と、たくさんの想いがあります」
右近さんは、筆を静かに下ろしました。
「ニクの想いを忘れ、
肉を奪い合い、時には無駄にする。
その痛みを、モツ様はずっと見つめておられたのかもしれません」
まきマネが、つぶやきます。
「だから……
無駄肉……ス」

みーちゃんPは、
双眼鏡を胸に抱いたまま、
じっとその文字を見つめていました。
「……分かった」
まきマネは、そっと振り返りました。
「何が?」
みーちゃんPは、
肉神モツの光を見上げて言いました。

「争いも、
無駄にされる命も、
見なかったことにできなかったんだ」
双眼鏡をぎゅっと握ります。
「だから、終わらせてきた」
肉神モツの光は、ただ、揺れていました。
右近さんは、続けました。
「十七回、世界を終わらせるたびに、
モツ様もまた、
荷苦を背負ってこられたのでしょう」
空中に浮かんでいた「荷苦」の文字が、
ふわっとやさしくほどけます。
ヒロパンダが、ようやく口を開きました。
「だとしても、肉は、悪くない。
封印することは間違っている」

その声は、
いつものように大きくはありません。
けれど、まっすぐでした。
「肉があることを当たり前だと思い、
いただく心を忘れたこと。これが間違いだ」
たかっち社長は、うなずきます。
「肉を取り戻すだけでは、
同じことをくり返してしまいますね」

そして、通りに集まった人々を見つめました。
たかっち社長の手のひらで、
パンツの妖精が、小さく光ります。
「命をいただく感謝を忘れないこと。それも一緒に、私たちは肉の解放を選びましょう」

たかっち社長の言葉に、
タカーズも王国の人々も、静かにうなずきました。
けれど――。
まるで、答えを聞いてもなお、
長いあいだ抱えてきたものを下ろせずにいるようでした。
右近さんは、その揺れる光を見上げました。
「……まだ、言葉になっていないものがあるのでしょう」
そう言うと、空中にゆっくりと筆先を走らせました。
青白い光が、静かに線を描きます。
肉神モツの胸の奥にあった想いを、すくい上げるように。
空中に、ひとつずつ言葉が浮かびました。
『恐れ』
『悲しみ』
『願い』
その三つの言葉を見つめながら、
肉神モツは、ゆっくり声にしました。

「やはり……
十八回目の世界は違ったようだな」
通りに、低く、静かな声が響きました。
「お前たちは、肉を封印しない道を選んだ。
命をいただく感謝も、忘れぬと言った」
肉神モツの声は、
深い疲れを含んでいるようにも聞こえました。
「だが……わしは恐れている
……今はそう言える。
だが、時が経てばまた忘れるのではないか。
また、自分の正しさだけを信じ、
誰かの痛みを見ないふりをするのではないか。
わしは、それを恐れている」
ヒトちゃんは、小さく言いました。
「……声になった」

その声は、怒りや憎しみではありませんでした。
長いあいだ、
世界を見届けてきた者の、悲しい想いでした。
すべてを見届けていた肉神モツは、
想いを声にしてもなお、何かを抱えているようでした。
黄金色の光の中で、ただ、小さく揺れていました。

✨第5話⑧へつづく✨
📋️まきマネの覚書
5話⑦:1,361字
現在の物語:55,116字
📝〆切は7月8日⏰️


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