異世界ミートリア 【第4話】① 眠れない森のコトノハ
【前回のあらすじ】
肉神モツによって創られた国、異世界ミートリア。魔王ムダニクスによって王国中の肉が封印され、人々の笑顔は失われてしまった。肉と笑顔を取り戻すため立ち上がったのは、救国パーティー《タカーズ》。
ミートリア王国の広場に、
フクロウと一緒にヒトちゃんが現れた。
王国のはずれの森には、眠れない人々と、
黒いもやに封じられた森鹿の干し肉が眠っているという。
ヒトちゃんから青いパンツを受け取ったたかっち社長、タカーズは森へ向かうことを決めた。
そのころ、フクロウの「ホゥ」を聞いた
もんやーみも、相棒のダチョウとともに、
ミートリア王国へ向かい始めていた。
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第4話① 眠れない森のコトノハ
『次の目的地は、王国のはずれにある眠れない森』
ヒトちゃんは、
森に向かう途中、ゆっくりと言いました。
「森には、コトノハっていう小さな丸太小屋があるの。右近さんがいる場所」
「右近さん?」
まきマネは、ノートを開きます。
「うん。わたしは、右近さんの助手みたいなもの」

ヒトちゃんは、森の奥を見つめました。
「森は、木の葉がずっとざわざわしてるの」
「ずっと?」
みーちゃんPが聞き返します。
「うん。まるで、眠れない誰かの気持ちみたいに」

ヒロパンダが腕を組みました。
「眠れない森か……肉を寝かせる熟成とは逆だな」
「そこ、肉で考える?」
森の奥へ行くほど、空気は静かになっていきました。
けれど、それは本当の静けさではありません。
さらさら。
ざわざわ。
眠れない誰かの気持ちが、
葉っぱの音にまぎれて歩き回っているようでした。
まきマネは、思わずノートを胸に抱きしめます。
「ここ、なんだか……胸がぎゅっとする」

ヒトちゃんは、静かに言いました。
「小屋には、森の眠れない人が訪ねてくるの」
しばらく歩くと、
森の奥に小さな明かりが見えてきました。
木々に囲まれた場所に、
ぽつんと建つ小さな丸太小屋。

扉の横には、木の看板がかかっています。
そこには、
やさしい文字でこう書かれていました。
『コトノハ』
ヒトちゃんが、そっと扉の前に立ちました。
「右近さん、戻りました」

少しの沈黙のあと、扉がゆっくり開きました。
中から現れたのは、
落ち着いた目をした男の人でした。
夜の森に溶け込むような濃紫の服。
少し尖った耳。
静かな湖のような瞳。
その人は、タカーズを見て、深く頭を下げました。

「右近尊次郎と申します」
声は大きくありません。
けれど、不思議と森のざわめきの中でも、まっすぐ届く声でした。
「右近さん」
ヒトちゃんが、ほっとしたように言います。
右近さんは、
森のざわめきに耳を澄ませました。
「今夜もまた、言葉になれない想いが、眠れずにいるようです」
小屋に入ると、
そこにはコトノハを訪ねてきた人たちが座っていました。

誰も話しません。
怒っているわけでも、
眠っているわけでもありません。
空気は重たく、
黒いもやが地面の近くをゆっくり漂っていました。
たかっち社長が、眉をひそめます。
「ほぅ、これもムダニクスの影響でしょう」

ヒロパンダが鼻をひくひくさせました。
「肉の気配もある。
だが……やはり何かが邪魔をしているな」
右近さんは、静かにうなずきます。
「森鹿の干し肉なら、小屋の裏にあります」
右近さんは、タカーズを丸太小屋の裏へ案内しました。
小屋の裏には、小さな祠がありました。
その隣には、空へ向かって伸びる大きな木。
幹には、人がひとり入れそうなほどの洞があります。

洞の中には、ツタで編まれた大きなカゴ。
その上には、重い石の蓋がのせられていました。
「木の空洞……?」
みーちゃんPがのぞき込みます。
ヒトちゃんが、そっと言いました。
「森鹿の干し肉は、かごの中にあります」

ヒロパンダが、むぅとうなずきました。
「なるほど。森の風を通しながら、
湿気を避け、獣にも荒らされにくい。
これは良い保管場所だ」
「さすが肉賢者ね!」
「当然だ。」
森の葉が、静かに震えました。
石の蓋に黒いもやがかかり、
その奥から低い声が聞こえてきます。
『無駄ヘト……』
黒いもやは、石の蓋にまとわりつきました。
『言っても無駄……伝えても無駄……どうせ分かってもらえぬ……』

たかっち社長が、石の蓋に手をかけます。
「ほぅ……これは、なかなか重いですね」
ヒロパンダも手を添えました。
「ぬおおお! 肉のためなら、このくらい……!」
けれど、石の蓋はびくともしません。
「うそでしょ。
ヒロパンダの肉パワーでも動かないの?」
まきマネが目を丸くします。
ヒロパンダは、
悔しそうに石の蓋をにらみました。
「これはただの重さではない……!」

右近さんは、石の蓋を静かに見つめます。
黒いもやが渦を巻いても、
その声は少しも揺れません。
「これは、言葉になれなかった想いの重さです」
「想いの重さ……?」
右近さんは、ゆっくりとうなずきました。
「疲れは、休めば戻ります。
けれど、言えなかった想いは、
胸の奥で重くなることがあります」
右近さんは、
黒いもやの上に、そっと手を差し出しました。

「言いたかったのに言えなかった。
伝えたかったのに、飲み込んだ。
その沈黙が、この蓋を重くしているのです」
小屋に戻ると、
黒いもやが、足元をゆっくり漂っていました。
『無駄ヘト……しまっておけばよい………』
低い声が、森にしみこんでいきます。
そのとき、
ヒトちゃんが小さく言いました。
「右近さん……」
右近さんは、
ヒトちゃんにやさしくうなずきました。

「蓋は、無理に開けなくていいのです」
「えっ? でも、干し肉を出さないと料理ができないよ?」
まきマネが言います。
右近さんは、
小屋の中にいる人たちを見つめました。
「重たいものを、
力ずくで開ける必要はありません」
みーちゃんPは、
右近さんの横顔をじっと見つめます。

右近さんは、古びた筆を取り出しました。
筆先が、ほんのり青白く光ります。
「今、言葉にならなくてもかまいません。
わたしにできるのは、無理に引き出すことではなく、
想いが言葉になるまで待つことです」
ヒトちゃんは、
うつむいたまま座っている女性に近づきました。
右近さんも、
女性の前へ静かに進み、そっとしゃがみます。

「手を添えても、よろしいですか」
女性は、小さくうなずきました。
右近さんは、そっと手を添えます。
「今すぐじゃなくてもいい。
でも、もし胸の中にあるものが少しだけ動いたなら、そのまま聞かせてください」
女性は、しばらくうつむいていました。
小屋の中は、しんとしています。
けれど、
その静けさはさっきとは少し違いました。
言葉が出てくるのを、待つ静けさでした。
やがて、すぐに消えそうな小さな声で、女性がいいました。
「……眠れない」
その一言がこぼれた瞬間、
床の黒いもやは、ほんの少し薄くなりました。

「わたしはここで、言葉にするお手伝いをします」
右近さんは、タカーズを見つめます。
「どうかお願いします。
みなさんは、森鹿の干し肉を取り出してきてください」
「同時に進めるってこと?」
みーちゃんPが聞きました。
ヒトちゃんが、静かにうなずきます。
ヒロパンダの鼻が、ぴくりと動きました。

「つまり、想いがほどければ、重いもやも薄くなる。そうすれば、干し肉に近づけるということだな!」
「肉でまとめると、急にわかりやすいわね」
まきマネは、ぼそっとつぶやきました。
右近さんは、静かに言います。
「言葉をほどくことと、蓋を開けること。
どちらか片方ではなく、同時に進めていただきたいのです」
ヒトちゃんも、タカーズの方を見ました。
「わたしも手伝う。右近さんと一緒に、みんなの言葉を聞く」
右近さんは、ヒトちゃんを見て、
少しだけ表情をやわらげました。
「お願いします、ヒトちゃん」
その短い言葉に、
ヒトちゃんはうれしそうにうなずきました。

その様子を見ていたみーちゃんPが、
小さくつぶやきました。
「……見つけた」
みーちゃんPは、
双眼鏡をそっと握りしめます。
「見えない想いの気配に気づくヒトちゃん。
そして、沈黙をコトバにする右近さん」
眠れない森の葉が、ざわざわと揺れています。
まきマネは、こっそりノートを開きます。
『気づく人がいて、言葉にしてくれる人がいる。
だから、重たい想いも少しずつ軽くなる』
(重たい想い、狙ってないけど!
……記録完了!!)
タカーズの新しい任務が、今、始まりました。
✨️第4話②へつづく✨️
📋️まきマネの覚書
第4話①3,034字
現在の物語:18,277字
わくわくで書けてしまう!
物語中盤?楽しみます!
〆切まであと⏰ 21日!
第4話 登場人物
右近尊次郎

右近尊次郎は、眠れない森の小さな丸太小屋「コトノハ」で暮らしている。
言葉にならない想いを無理に引き出すのではなく、言葉になるまで静かに待ち、そっと形にしてくれる心の声の翻訳者。

お借りしました😆✨
SPECIAL THANKS
ヒトちゃんと右近ちゃん

ヒトリミチちゃん、右近ちゃん、
ありがとうございます☺️✨✨
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