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ギフティッドネスを理解しよう(前編)

今月上旬に『ギフティッドネス 理解と支援のための基礎・基本』という本を買いました。17本目の今回は今読んでいるこの本にちなんで、ギフティッドネスをテーマに書きます。



ギフテッドの定義と由来について

最近テレビやSNSでも「ギフテッド」が話題に上がる機会が増え、以前より広く認知されるようになりました。しかし、それでも誤解や偏見がまだまだ多く、正しく理解されているとは言えません。

本題に入る前に、ギフテッドの定義の確認から入りましょう。

専門家によって特定され、優れた能力を持ち、高い成果を上げる可能性がある子どもたち

米国教育局 (1972)

ギフテッド(gifted)は、英語の「才能がある」という形容詞ですが、日本(特に教育領域)ではギフテッドは名詞として用いるのが通例であり、ギフテッドの子どもは「高い知的能力を持つ配慮や支援が必要な子ども」であるとの認知が広がりつつあります。一方で単に「知的能力が高い発達障害」と考える人も意外と多く、実際にギフテッドと発達障害を併せ持っている子ども「2E(Twice-Exceptional:二重に特別な支援を必要とする)」も少なからず存在しますが、両者はイコールではありません(下図を参照)。

なぜなら、ギフテッドは学校の先生によって「認定」される教育上の概念であり、発達障害はDSMやICDの基準に基づいて診断されるからです。そのため、ギフテッドを医学用語として商用または診断することができないという事実も押さえておきましょう。7月に執筆した記事「才能とギフテッドの理解」にも記述済です。

2Eのイメージ図(筆者作成)


ギフテッド認定について

ギフテッドは診断名ではなく、世界共通の定義が存在しません。しかし、アメリカの教育現場では、州ごとに独自の認定基準を設けてギフテッドと「認定」して支援が行われています。ギフテッドの認定基準の根拠の一つが,いわゆる「落ちこぼれ防止法」(No child left behind act of 2001)にある定義です。この法律では、ギフテッドを「知的、創造的、芸術的、リーダー シップ能力などの分野、または特定の学問分野において高い能力を示し、その能力を十分に伸ばすために、学校では通常提供されないサービスや活動を必要とする者」と定義しています。

アメリカの場合、認定基準は州によって異なります。例えば、知的能力の基準は法律で明示していないことから、「高い知的能力」をIQ130以上としている州もあれば、IQ120以上としている州もあります。法令では、発達障害などで義務づけている教育的支援についてギフテッドでは必ずしも義務づけていないことや州の財政力の問題から、ギフテッドの子どもへの支援や資金的な援助など州によって開きがあります。

我が国では、ギフテッド教育や支援がまだまだ根付いていませんが、2023年1月に設立された一般社団法人JGTEA(日本ギフテッド&タレンテッド教育協会)において、ギフテッド認定が行われています。詳しくはHPをご確認ください。


ギフティッドネスとは何か

先ほど紹介した記事で「平均以上の能力」「創造性」「課題へのコミットメント」の3つの要素が合わさったものがGiftednessであると書きました。1991年、アメリカで生産性や功績への注目が集まるなか、それに応じる形で非同期発達という新たな概念が登場しました(Columbus Group, 1991)。

ギフティッドネスとは非同期発達であり、高度な認知能力と増幅された激しさが融合して、標準とは質的に異なる内的経験と気づきを生む。この非同期性は、知的能力が高いほど増幅される。ギフテッド特有の性質が原因で人一倍傷つきやすくなることから、彼らの最適な発達のためには、養育、教育、カウンセリングにおいて、配慮や工夫が必要とされる。

「ギフティッドネス 理解と支援のための基礎・基本」p59

簡単に言えば、知的能力の発達が早く、適応行動(自立スキル)や情緒的な能力や運動能力などとのギャップが見られる状態です。一般的に人間は相互に関連しながら、年齢とともに一緒に発達していきますが、ギフテッドの場合は発達が同期していないように見えることが多いため、非同期発達(発達の非同期性)と呼ばれます。

当然ながらギフテッドにも得手不得手はあります。数学が得意なタイプもいれば、芸術系やスポーツが得意なタイプも存在し、中には社会性や日常生活などで困難を抱えるタイプもいます。

よく考えたら、発達障害の凸凹と似ていると思った方もいるとは思いますが、それもその筈。実は発達障害も非同期発達の表現型です。

非同期発達のイメージ(2018年に筆者作成)


どの年齢であれ、ギフテッドの人々に効果的に対応するためには、ギフティッドネスに関連する特性についての知識が必要です。百聞は一見に如かず、臨床の場でスクリーニング・ツールとして実際に使われていた「ギフティッドネスの特性尺度」(Silverman, 2003)を見てみましょう。

あなた(読者)のお子さんと同年齢のお子さんとを比べて、あなたのお子さんには、以下の項目がどの程度当てはまりますか?

1. 推論が得意だ(思考力がある)。
2. 習得がはやい。
3. 語彙が豊富だ。
4. 記憶力が優れている。
5. 長時間の注意力がある(興味関心のある事柄に対して)。
6. 繊細だ(心が傷つきやすい)。
7. 思いやりがある。
8. 完璧主義だ。
9. 激しい。
10. 道徳的に敏感だ。
11. 好奇心旺盛だ。
12. 興味関心のある分野では粘り強い。
13. エネルギーに満ち溢れている。
14. 自分より年上の仲間あるいは大人とかかわることを好む。
15. 興味関心の幅が広い。
16. ユーモアのセンスが並外れている。
17. 早期から本を読み始めた、あるいは熱心な読書家だ(年齢が低すぎて文字が読めない場合は、読み聞かせが大好きだ)。
18. 正義や公正への関心が高い。
19. 年齢のわりに大人びた判断力を示すことがある。
20. 鋭い観察眼をもつ。
21. 鮮明な想像力がある。
22. 非常に創造性に富んでいる。
23. 権威に疑問を抱く傾向がある。
24. 数字に強い。
25. ジグソー・パズルが得意だ。

「ギフティッドネス 理解と支援のための基礎・基本」p133

項目の中のいくつかは、他の項目よりもギフティッドネスの強い指標となります。特に豊富な語彙、優れた記憶力、習得のはやさ、本への興味関心、鋭い質問、数の理解力は全てギフテッド児と標準児との間に非常に大きな有意差が見られる識別項目でした(M. Rogers, 1986)。

ちなみに、筆者は3歳の時に文字の読み書きを自力で習得し、成人する前から豊富な語彙、長期記憶の高さ、知識欲の強さ、本を読むのが好き、数字に強い、エネルギッシュで興味関心のある分野に対する粘り強さ、自分より年上の人や大人と関わるのが好き、といった特性が見られました。そんな私が本尺度をチェックしてみたところ、16個該当していました。私の場合はアスペルガー症候群(高機能広汎性発達障害)があるため、言語能力や記憶力の高さ、完璧主義、拘り、興味関心のある分野への粘り強さなど重複している要素があり、ブーストがかかった可能性も考えられます。

もちろん、成人してからもこれらの特性は生きており、2023年にギフテッド認定を受けました。


OEと肯定的分離理論

ギフテッドにみられる心理特性のひとつとして、刺激に対する過度な感受性の高さや刺激への強い行動的、感情的反応があげられます。この特性は、Overexcitabilities(OE:過度激動、超活動性等と訳される)と呼ばれる概念(Dąbrowski, 2016)で説明されることが多いです。OEはポーランドの精神科医で心理学者である Kazimierz Dąbrowski(1902-1980)が構築したパーソナリティ理論で提唱された概念です。

親友の自殺や第二次世界大戦の体験を踏まえ、さまざまな困難の経験から既存の価値を新たに作り直し、利他的で価値のある自己であろうとする理想的パーソナリティの発達について研究を進めました。Dąbrowskiが臨床観察を通じて作り上げたパーソナリティ理論をTheory of Positive Disintegration (TPD:肯定的分離理論)と言います。

OEは5つの領域があり、Psychomotor OE(精神運動性OE),Sensual OE (感覚性OE),Imaginational OE(想像性OE),Intellectual OE(知性OE),Emotional OE(情動性OE)から構成されます。

出典:LD研究 第32巻 第4号 p245
出典:LD研究 第32巻 第4号 p246

TPDではパーソナリティを発達させる発達可能性(Developmental potential: DP)として3つの要因をあげています(Tillier, 2016)。1つめは生物的要因であり,自分でなければならないと強く感じる感覚、優れた知能や技能、そしてOEがあげられます。2つめは環境的要因であり、環境や社会の影響をさします。3つめは、Third Factorと呼ばれるもので、自己の理想的パーソナリティの発達に向けて自律的であろうとする強い動機づけです。

Dąbrowskiはパーソナリティを発達させるには、知能の高さは重要ではなく、自己の価値観と社会的価値観の齟齬から強い感情を喚起し肯定的分離を促すOEが重要としています(Dąbrowski, 1972)。

しかし、TPDおよびOEはギフテッドのために開発された理論ではない点に注意する必要があります。ギフテッド全てが強いOEを示すことはなく、また平均的な能力の人のなかにも高いOEを示す人も存在します(Lind, 2011)。そのため、ギフテッドの有無によらず、強いOEによる不適応に対して応用できる理論です。


ギフテッドと発達障害の関係性

先ほど2Eの概念について触れた通り、ギフテッドと発達障害は異なるもので、並列して存在しうることが前提です。また一方しか認められない、という場合も存在します。

まず考慮すべきは、ギフテッドの知的能力の高さです。発達障害の判断をする際は知的能力の水準の評価が必須です。例えば、読み書きができないからと言ってLDとは限りません。知的障害が存在している場合、知的能力が低いために読み書きに困難を抱えている可能性も考えられるからです。ギフテッドも同様に、知的能力の高さゆえの適応上の問題なのか、発達障害ゆえの適応上の問題なのかを分けて考える必要があります。

LDとギフテッドの関係については、以前執筆した記事「慣れと学習」をご参照下さい。


ADHDとギフテッド

特に注意欠如・多動症(ADHD)の多動性が精神運動性OEと、不注意によるマインドワンダリングが想像性OEと類似の行動表現を示しており、OEとADHDを評価する心理尺度にも相関があります(Rinn & Reynolds, 2012)。

ADHDの核の症状は実行機能の障害であり、注意力の弱さや多動・衝動性などがありますが、こうした症状は精神運動性OEと類似しているため、専門家でも鑑別が難しい場合があります。また、ギフテッドのある子どもは、授業中などに「ぼーっとしている」ことがあり、「想像性OE」の想像に耽っている状態を不注意と捉えられてしまう場合があります。

日高ら(2021)の研究によると、精神運動性OE、想像性OE、知性OE、情動性OEとADHD-RSに正の相関が認められたという興味深い研究結果(以下のリンクを参照)が報告されています。


ASDとギフテッド

ギフテッドの子どもは、非同期発達およびOEといった特性から、早熟で高い言語能力や感覚過敏、強い知的好奇心など、ASDのある子どもと非常に類似した行動を示すことがあります。そのため、知的能力が高いことに関連する行動とASDの行動特性を一見して見分けるのは難しいです。

Assouline et al.(2009)は、知的能力が高い故に臨床的な障害(ASDや不安障害,気分障害など) の診断基準を満たしているにもかかわらず、その症状が能力の高さに起因すると誤認され、診断されない人がいることを指摘しています。

WISC-IVでは言語理解指標と知覚推理指標、WISC-Vでは言語理解指標と視空間推理指標、流動性推理指標が高い一方で、ワーキングメモリ指標と処理速度指標が低くなることが多いです(Molinero et al., 2015; Wechsler, 2003; Wechsler, 2014)。このような傾向はASDのあるギフテッドもASDのないギフテッドでも変わらないことが報告されています(Boschi et al., 2016; Doobay et al., 2014)。

適応機能を評価するVineland-II適応行動尺度を用いた研究では、適応機能3領域 (コミュニケーション,日常生活スキル,社会性)のそれぞれにおいて、ASDのある子どもの群とない子どもの群で差が認められました。特に群間差が最も大きかったのは社会性の領域で、ASDのあるギフテッド群は1標準偏差近く平均よりも低い結果が得られたことを報告しています(Doobay et al., 2014)。一方、この研究においてASDのないギフテッドは、適応行動がほぼ平均の範囲内に位置しており、比較的良好な適応能力が示されています。

このことから、ASDとギフテッドの決定的な違いは適応行動(特に社会性)にあることが分かります。ASDの中核的症状は関係性や汎化の障害であり、社会性スキルが年齢相応の水準よりも低いだけでなく、認知水準と比較しても低い人が少なからず存在します。ASDを伴うギフテッドもまた社会的学習や汎化の難しさにより、高い知能を持ちながら、適応行動の習得や社会的学習に困難を抱えることがあるのは想像に難くないでしょう。


おわりに

日本は海外と比べてまだまだ遅れているものの、ギフテッドに関する研究は行われており、知見も年々蓄積されつつあります。本記事はアメリカ合衆国におけるギフテッド情勢や海外での研究も参考にしながら、ギフティッドネスへの理解を深めることを目的に執筆しました。

次回の後編では、成人ギフテッドの実態や適応行動との関連、WAIS-5なども取り上げるつもりです。長くなりましたが、最後まで読んで頂きありがとうございました。m(_ _)m


参考文献一覧

・片桐正敏. ギフテッドと発達障害. LD研究, Vol.32 No.4, 236-243, 2023
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jald/32/4/32_236/_pdf/-char/ja

・日高茂暢. ギフテッドとOverexcitability ―肯定的分離理論を通じて―. LD研究, Vol.32 No.4, 244-250, 2023
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jald/32/4/32_244/_pdf/-char/ja

・監修/片桐正敏 著/楢戸ひかる マンガ/黒川清作 取材協力/小泉雅彦・日高茂暢・ギフテッド応援隊『マンガ&イラスト解説 ギフテッド応援ブック 生きづらさを「らしさ」に変える本』. 小学館. p52-53

・リンダ・クレガー・シルバーマン(著) 角谷詩織・北條礼子(訳)(2025)『ギフティッドネス 理解と支援のための基礎・基本』. 春秋社. p58-59, 131-134


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