「公爵様に無礼を働いた結果、嫁ぐことになりました」第2話#エンタメ原作部門
【第2話・キャラクター表】
〇イレーナ『女/18歳』
・モモエリアの使用人仲間のひとり。
言動こそ荒いもののお人好しで聞き分けの良い少女だが、盗みを働き投獄された母親を持つ身であるため、モモエリアとチャスシス以外は彼女を忌避している。
イレーナが使用人として雇用されているのは、幼い頃モモエリアが「なにも悪いことしてないのにどうしてこの子も捕まってるの?」と伯爵である父親に訊ね、娘には非がないと判断したからである。
しかし、イレーナの記憶は改ざんされておりプラリネに助けられたと恩義を感じている。
〇チャスシス『16歳/女』
・モモエリアの使用人仲間のひとり。
ルームメイトでもある。
言動に幼さが残り些細なミスが目立つが、実はシクリーの愛弟子であり、モモエリアが元は皇女であることを認知している。
最初はモモエリアのことをよく思っていなかったが、今では彼女の人柄を知ってすっかり懐いている。
〇プラリネ・ライベル
・現・ラプティア王国皇女。
元々モモエリアの使用人のひとりであったが、逸脱した魔力の才能を持つためモモエリアと入れ替わる形で皇女となった。プラリネの魔法の影響で、国民のほとんどはプラリネが元々王家の血を引いていると認識している。
モモエリアの地位を奪ったのは、才能がないために家族にいびられるモモエリアを見かねたからである。
皇女じゃなくてもいいから普通に愛されて生きたい。
そんなモモエリアの願いを叶えるべく、プラリネは彼女の地位を奪ったのである。
そう伝えたら優しいモモエリアが自分を両親から離そうとすることがわかっているため、プラリネは悪役を演じ続けている。
【第2話】
〇ラプティア王城【食堂(夜)】
げっそりした顔で、食事に手をつけないモモエリア。
イレーナとチャスシスと食卓を囲んでいる。
イレーナ「絞ったあとのオレンジみたいな顔してんぞ」
チャスシス「どーしたのモモ?」
モモエリア「いろいろあってね」
小さくパンをかじるモモエリア。
モモエリア(M)「あのあと――」
モモエリアのコミカルな過去回想。
カルデスにぐさぐさと質問という名の矢を突き刺され、モモエリアは吐血している。
カルデス『これだけ情報を得られればクロフォード様も満足するだろう。皇女様にもこれくらい興味を示してくだされば助かるのに』
モモエリア(M)「……皇女、ね」
イレーナ「明日のクラリネ様の結婚式楽しみだな! めでてぇめでてぇ!」
チャスシス「そうだね。お相手の公爵様もすっごいイケメンみたいだし」
イレーナ「にしてもクラリネ様は出来すぎだよな。魔法の腕は一級品。美貌はさることながら人となりまで完璧。おまけに夫は隣国最強の公爵様ときた」
イレーナ「いいよなぁ~皇女様。あたしも皇女になりてぇ~。あ、あの妻に乱暴してばっかっていうデラ……ジェラート? 子爵の妻になるのだけはごめんだけどな」
チャスシス「デランジェ子爵ね。仮にイレーナが皇女の地位に就いても、その粗暴な所作のせいですぐに廃位だろうね」
イレーナ「はは、言えてる。というか、皇女の地位に就くのはクラリネ様が適任だから、仮にそんな機会が訪れようとも爵位を奪いはしないけどな」
チャスシス「イレーナはほんとうにクラリネ様が大好きだね」
イレーナ「そりゃ命の恩人だからな!」
モモエリア、微笑を携える。
チャスシス「なに笑ってるのモモ?」
モモエリア「なんでもないわよ。明日のクラリネ様の結婚式楽しみね」
チャスシス「うん! モモ、ぜんぜんご飯食べてないけど体調悪いの?」
モモエリア「ちょっと疲れてるのかも」
イレーナ「おいおい、一生に一度あるかないかのイベントの前日だぞ。飯はあたしが食ってやる。モモは部屋に戻ってゆっくり休め」
チャスシス「わー、優しいー。……ほんとは食べたりないだけでしょ?」
イレーナ「大正解! けど、残しちまうよりはずっといいだろ?」
モモエリア「その通りね。お願いしてもいいかしら?」
チャスシス「すぐご飯食べて看病しにいくからね?」
モモエリア「大袈裟ね。ゆっくり楽しんで頂戴」
ひとりで城内を早歩きして部屋に向かうモモエリア。
モモエリア(M)「廃位されたことに対する不満はない」
モモエリア(M)「だけど、イレーナがクラリネを好いている姿を見て少しだけ苛立ってしまった」
幼少期のフラッシュバック。
独房に入れられたイレーナを指差し、なにかをつぶやくモモエリア。
モモエリア「……友だちを騙しつづけているみたいで申し訳ないわ」
部屋の前に、母親の側つきが立っている。
青ざめた顔をするモモエリア。
使用人「モモエリア様、旦那様と夫人様がお呼びです」
〇ラプティア王城【王室(夜)】
両親の前に跪くモモエリア。
モモエリア「お待たせして申し訳ございません」
父親「顔をあげろ。非があるのは急に呼び出した私のほうだ」
感情のない瞳を向けている両親。
モモエリア(M)「時々思う」
モモエリア(M)「なぜ私はこのふたりから生まれ落ちてしまったのだろうかと」
モモエリア(M)「皆は王族の血筋を引いて生まれ落ちることに羨望を抱いているけれど、私にとっては王族の血を引いていることが不幸の象徴だ」
母親「突然呼び出してしまってごめんなさい。どうしてもあなたに今日中に伝えなければならないことがあったの」
クロフォードにぶつかった場面がフラッシュバック。
モモエリア「……(固唾を飲んでいる)」
母親「私たちの娘のクラリネが、明日クロフォード公爵と結婚することはいわずとわかっていると思うけど――」
モモエリア「……っ!」
モモエリア(M)「まずい、この流れは独房に――」
母親「その翌日に、あなたにはデランジェ子爵と婚約してほしいの」
モモエリア「……ぇ?」
イレーナがデランジェ子爵を悪く言う場面のフラッシュバック。
父親「子爵には今現在八人の妻がいるのだが、九人目の妻としてお前を迎え入れたいそうだ」
モモエリア(M)「デランジェ子爵って、あの妻に暴行を働いているって噂の子爵様よね?」
モモエリア「……私が今現在は使用人であることは伝えられましたか?」
父親「あぁ伝えた。その上で子爵はお前を選んだ。一目惚れだそうだ」
父親「良かったな。王国の役に立てそうで」
モモエリア「……はは」
モモエリア(M)「あぁそうか」
モモエリア(M)「私はもうこの人たちの道具でしかないんだ」
父親「明日の朝、お前にはデランジェ子爵の元に発ってもらう。そのように準備しろ」
モモエリア(M)「〝元〟娘である私がどうなったって関係ないんだ」
モモエリア「……はい、承知いたしました」
物陰から様子をうかがっているプラリネ。
プラリネ「面倒なことになったわね。……どうしたものか」
〇ラプティア王城【モモエリアとチャスシスの部屋】
布団にくるまり、声を押し殺して涙を流すモモエリア。
モモエリア(M)「どうしてこうなっちゃうんだろう」
モモエリア(M)「べつに皇女じゃなくたっていい」
モモエリア(M)「このなんでもない幸せが続けばそれだけでいいのに」
チャスシス「モモ?」
モモエリア「っ! チャスシス起きてたの?」
涙を拭うも目尻が赤いままのモモエリア。
チャスシスは黙ってモモエリアを抱き締める。
チャスシス「なにがあったの?」
モモエリア「……ううん、なんでもない」
笑みを繕うモモエリア。
チャスシス「そっか。つらかったらなんでも相談していいんだからね。わたしたちは親友なんだから」
モモエリア「うん」
モモエリア(M)「だからこそだ」
モモエリア(M)「親友であるこの子を巻き込みたくはなかった」
時間が経過し、チャスシスは眠りにつく。
モモエリアはウィッグを装着し、窓から王城の外へ脱出しようと試みる。
モモエリア「うぅ~こわいわ」
モモエリア(M)「子爵様と婚約すればわたしの人生は終わる」
モモエリア(M)「生き地獄を味わうくらいなら、すべてを捨てて新しい人生をやり直すほうがマシだ」
モモエリア「じゃあね、シクリー、チャスシス、イレーナ」
慎重に壁の突っ張りに足を引っ掛けて下っていくも、突風が吹いて足を滑らせるモモエリア。
モモエリア「あっ」
かなりの高さから落下する。
モモエリア(M)「振り返ってみれば、まぁ悪くない人生だったのかな」
モモエリア(M)「もう一度人生をやり直せるのなら、ほどほどに幸せな人生を謳歌できますように」
死を悟り深く目を閉じるモモエリア。
落下地点にいたクロフォードが抱き留める。
クロフォード「よもや月から女が降って来ようとはな」
モモエリア「……え?」
ウィッグは風で吹き飛んでいる。
クロフォード「ん、お前モモエリアか?」
モモエリア「……公爵様?」
クロフォード「如何にも。俺はクロフォード・サディエだ」
モモエリア(M)「ま、また公爵様に無礼を働いちゃった……!」
第2話 ―FINー
