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人は去っても言葉は残る――不思議な人の話

昔、不思議な人がいた。
いまからちょうど2年前くらいかな。

もともとは、私の歌声を気に入ってくれて、
ずっと聴いていてくれた人だった。
毎日毎日、よくこんなに聴けるなぁと思うほど、
いつも足跡が残っていたのを覚えている。

最初、その不思議な人は私と深く関わるつもりはなかったらしい。
だから、コメントはもちろん、DMも一切なかった。

でも、何がきっかけだったのか、
あるときからコメント欄でやりとりするようになり、
やがてDMで話すようになった。

私はその頃、推しの人がいて、その人に心を取られていた。
だから、不思議な人のことを異性としては見ていなかった。

でも、私の歌をここまで延々と聴いてくれる人なんて
なかなかいなかったから、それが純粋に嬉しかったのだ。

こんなふうに自分の歌を聴き続けてくれる人がいるんだ、
と思ったあの感覚は今でもよく覚えている。

不思議な人は、ただ歌を褒めるだけではなかった。
歌を通して、その奥にいる私まで見ていた。

私の孤独や、自分を責めてしまう癖や、
愛を求めて苦しくなってしまうところまで、
まるで見抜いているみたいだった。

そして何度も何度も、たくさんの言葉をくれた。

頑張らなくていい。
あなたは十分素敵。

自分を責めなくていい。
もっと自分を愛して、認めて、なぐさめてあげて。

あなたを愛してくれる人の言葉だけ聞いてください。

尊重し合わなければ、付き合う価値すらありません。

今よりも幸せになる自信がある時にしか、
覚悟なんてするべきではないのです。


そんなふうに、
そのときの私に必要だった言葉を、
惜しみなく注ぎ続けてくれた。

不思議な人の言葉は、
ただ優しいだけではなかった。

慰めだけでもなかった。

どちらかというと、
私の人生の軸を立て直そうとしてくれていたのだと思う。

自分を粗末にしないこと。
自分の価値を下げないこと。
まず自分を愛すること。
そして、
尊重のない相手に自分を差し出さないこと。

今の私がようやく大切だと思えることを、
不思議な人はずっと前に
繰り返し私に伝えてくれていた。

おそらく不思議な人自身も、孤独を知っていたのだと思う。

「その壮絶な孤独を私も知っているから」

そう言われたことがあった。

ただ観察していたのではなく、
自分の痛みを通して私の苦しさを見ていたのだろうと思う。

だから不思議な人の言葉は、
飢えからの助言みたいには聞こえなかった。

きっと、傷を知らないひとのきれいごとではなかったからだ。

不思議な人には、心に決めた人がいた。
生涯その人だけを愛し抜くと、そう決めた相手がいた。

私はその話を聞いて、
「失う怖さはないの?」と尋ねた。

すると不思議な人は言った。
「愛される自信があるから」

「なぜ?その根拠は?」とさらに聞くと、
「一途に愛する自信があるからです」と答えた。

そのとき私は、すごい、と思った。

こんなふうに言える人がいるんだ、と。

私は不思議な人に恋をしていたわけじゃない。
でも、その人の愛し方には強く心を打たれた。

ああ、私もこんなふうに愛したい。
一途に愛する自信がある、とまっすぐ言える人になりたい。

そう思ったことを、今でも覚えている。

不思議な人は、私に対しても誠実だった。

「あなたの真実の相手は私ではありません」
「私はあなたの寂しさを埋めることはできても、幸せにすることはできない」

「しかし、あなたが大好きなのは変わりなく、
あなたが幸せになってくれることを心から願っています」

「あなたの歌が大好きだから」

その言葉は、今思い出しても切ない。

好きだと言いながら囲い込むのではなく、
自分にできることできないことを、
ちゃんと分けて伝えていた。

私を自分のものにしようとはせず、
私が幸せになる方向を照らしてくれた。

あの頃の私は、
その誠実さをきちんと受け取れる状態ではなかったのだと思う。

共依存の関係からも離れきれず、
自分を大切にすることもまだよくわからず、
苦しいところで何度も立ち止まっていた。

そんな私を見て、その人は怒り、呆れ、そして去っていった。

だからこれは、きれいなだけの思い出話ではない。

もっと大切にしなきゃいけなかったのかもしれない。
もっとちゃんと受け取ればよかったのかもしれない。

そう思うことが今でもある。

また会えたらいいな、と、ときどき思い出す。

でも、たとえもう会えないとしても、確かなことがひとつだけある。

不思議な人は去ったけれど、言葉は残った。
当時の私は、そのすべてをノートに残していた。

そのときすぐに救われた言葉もある。
そのときはまだ意味がよくわからなくて、
ずっとあとになってから効いてきた言葉もある。

言葉には、その場で効くものと、
時間をかけて染み込んでいくものがあるのだと思う。

不思議な人がくれた言葉は、
まさに後から効いてくる言葉だった。

今の私の中にある
「自分を大切にしたい」
「尊重のない関係はいらない」
「自分の価値を下げない」
という感覚は、もしかしたら、
あの頃にもらった言葉たちが長い時間をかけて
私の中で根を張ったものなのかもしれない。

不思議な人だったと思う。

恋ではなかった。
でも確かに、私はあの人に救われていた。

そして今でもまだ、あの人の言葉の効力は続いている。

人は去っても、言葉は残る。

そういうことが、人生には本当にあるのだと思う。


Aru.



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