クリムトが描く風景画の不思議な魅力
【今月の名画】
この季節にぴったりの名画をサクッと紹介します。
12月といえばクリスマス!
クリスマスといえばクリスマスツリー。
そしてクリスマスツリーといえば、もみの木です。
そこで今回は、もみの木を描いたこちらの名画を紹介します。

作者のグスタフ・クリムトは、19世紀末から20世紀初めにかけて活躍した画家です。
有名なのは、金箔を大胆に用いた華やかな人物画。
彼の名を知らなくても、こちらの金ピカの絵は見たことあるのではないでしょうか。

そんなクリムトは、意外にも風景画をたくさん残しています。

人物画とは全く違いますよね!(個人的には風景画の方が好きです。)
こうした風景画の多くは、アルプスのアッター湖やその周辺で描かれています。
クリムトは主にウィーンで活動していましたが、毎年夏には都会を離れ、アッター湖畔へ避暑に行っていました。
そこで出会った穏やかな自然がクリムトの心を癒し、静かな風景画を数多く生み出すきっかけとなっています。
今回は、あまり注目されることのないクリムトの風景画について、その魅力を一緒に見ていきましょう!
現実離れした不思議な風景
クリムトは自然を見たままに写したわけではありません。
対象の形を大胆に簡略化し、影や奥行きをあえて曖昧にすることで、平面的かつ抽象的な画面をつくりました。
『もみの森Ⅰ』を見てみると、枝や葉などの細かい部分は省略され、幹のまっすぐな線が強調されています。

遠目に見ると、まるで縦のストライプ模様のようです。
作品によっては影や奥行きがほとんど描かれず、立体感まで省略されています。

描かれているのは庭に咲き誇る花々ですが、花というより “花柄” といった印象です。
現実の細部を削ぎ落とすことで、色の響き合いや画面全体の静けさが際立ちます。
それは風景を写した絵というより、美しい織物のよう。
どこか別世界のような不思議な世界観に、思わず惹きつけられてしまいます。

美しく落ち着いた色彩
対象の形が大胆に省略されているのに対し、色彩は驚くほど複雑です。
たとえば『もみの森Ⅰ』では、鮮やかなオレンジや赤茶色など、様々な "赤っぽい色” が使われています。
地面には赤と反対色の緑があり、色の対比を成しているのも美しいです。

また、こちらの作品では、画面いっぱいに広がる緑の中に、無数の色彩の変化があります。

薄い緑から濃い緑まで、様々な緑を堪能できます。
小さな色の点が敷き詰められていて、精巧な刺繍のような質感です。
たくさんの色が使われていても、派手すぎる印象はありません。

華やかな黄色の壁も、生い茂る葉や花々も淡い色彩で描かれています。
色は明るすぎず鮮やかすぎず、心安らぐ雰囲気となっています。
豊かな彩りと静謐な空気を両立しているところに、独自の魅力を感じます。
意外と変化に富んだ筆致
クリムトの風景画は、短い筆致が画面全体に敷き詰められているのが特徴です。
一見点描のようでもありますが、その筆致には様々なバリエーションがあります。
たとえば『もみの森Ⅰ』では、地面の緑が点々で表されるのに対し、木の幹の部分は短い線の連なりになっています。


細かい点で描かれた緑は、光を反射してきらめいているようにも見えます。
一方、木々は少し荒めのタッチをあえて残すことで、樹皮のゴツゴツとした質感が伝わってきます。
さらに、筆づかいへのこだわりが感じられる一枚があります。

短い線の連なりで水面を表しています。
一見シンプルですが、その描き方は意外と複雑。
手前の水面はやや長い線で描かれていますが、奥に行くにつれ細かくなり、点のようになっていきます。
一筆一筆を絶妙なさじ加減で調整することで、波紋や光の繊細な変化が手に取るように伝わってきます。
こうした筆致の変化は、細かすぎて些細なことに思えるかもしれません。
しかし、このちょっとした工夫が画面全体にリズムを生み、目に心地よい風景を作り出しているのです。

水面の上と下で筆致が少し違います。
水面の反射部分は、筆致を少し長めにすることで、水面が揺らぐ様子が伝わってきます。
きらびやかではないけれど
幻想的で美しく、それでいて心地よい…
クリムトの風景画には、いつまでもその世界に浸っていたくなるような、独特の魅力があります。
華やかな人物画も素敵ですが、風景画の控えめな美しさにも、ぜひ注目してみてください。
クリムトの女性像については、こちらの記事で詳しく取り上げています。
同時代を生きたエゴン・シーレと比較することで、両者の魅力を掘り下げてみました。
