櫃田伸也-通り過ぎた風景|豊田市美術館
画家・櫃田伸也の名前を知っているだろうか。
なんとなく聞いたことがあるかもしれない。
奈良美智の師というイメージを持っている人もいるかもしれない。
私もそんなイメージを持っていた。
コレクション展などで作品を観たことはあったが、そのときは心に強く残ることはなかった。
今回、そんな櫃田氏の回顧展が開催されると知り、豊田市美術館を訪れた。


小高い丘の上にある美術館を目指し坂道をのぼる

春の景色に溶け込んでいた


今回の展示は2階から始まる。


櫃田伸也(1941年、東京生まれ)は、自身の作品を「通り過ぎた風景」と呼んできた。
今回の展示もまた、その言葉を軸に構成されている。
櫃田氏は、焼け野原から復興する東京や、1975年に赴任した愛知県立芸術大学周辺など、身近で変化し続ける風景を出発点に絵画を描いてきた。
この展覧会では、1960年代から2026年の最新作まで、約120点の作品と資料を通して、その歩みが紹介されている。


広い展示室の中に、円形に囲われた空間があり、その中にも展示がある。
少し変わった構造になっている。


絵を観て最初に思ったのは、直線が多いということだった。
風景画なのに幾何学的にも感じる。
ありそうでいて、あまり見たことのない絵だと思った。

2つの作品をつなげて展示する方法も興味深い

次の展示室へ。

この展示室では並べた2点の作品が印象的だった。

コンクリートのブロック塀をそのまま描いたような「触風景」は、この時期の代表作だという。

階段の途中にも作品の展示がある
色使いに目を奪われる
上の階の展示室に進む。

この頃になると絵の中の直線は、波のような曲線へとかわり、山々が描かれるようになる。
私が今回の展示でいちばん心に残ったのが、この作品だ。

彼は長く愛知県立芸術大学で教えていて、長久手の風景を描いた作品も多い。
実は私も数年前、短い期間だがそこで働いていたことがある。
この絵を観ていたら、その頃の風景が浮かんできた。
山の上、緑に囲まれ、まわりには何もない少し孤立したような場所。
この絵はどこを描いたのかはわからない。
でもなぜだか、この絵をしばらく観ていて、今まで淡々としていた心が少し熱くなった。
私にとってもこの地での風景は、「通り過ぎた風景」だ。

この坂道を延々のぼって通勤していた

のどかな風景と大学内のねこたちに癒されていた
次の展示室のこの作品も印象的だった。

外からのやわらかな光を受けて広い展示室にただ一枚の絵。
なんて贅沢な空間なんだろう。
春の光の中でしばらくたたずんでいた。

2000年頃の作品から青色が目立つようになる
2008年ごろからパーキンソン病の影響で、徐々に体の自由が効かなくなる中でも腕を動かして制作を続けていたという。


そして、最後の展示室。

あとで、スタッフの方に聞いたのだが、これらの作品は今回の展覧会が決まってから、この展覧会のために描いたとのことだった。

今回の展示は、3階の展示室から最初の展示室に戻るながれになっている。
私は彼の絵をもう少し感じたくて、繰り返し巡った。
展示を観て思ったこと。
特別な風景ではない、目の前にあるものを淡々と描いている。
ずっと同じ温度で風景と向き合っているように感じた。
それでも、年を重ねてからの作品に私は惹かれた。
感情のにじみ方が少しだけ変わってきているように見えたからだ。
通り過ぎたはずの風景が、引き戻してくる。
美術館のレストランで遅いランチをとった。
置かれていた図録をめくりながら、さっきまで観ていた作品のことを思い返した。

ランチのあとは、「コレクション 2026年度 第I期」を観に行きました。
次回またお会いしましょう🐈⬛
