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ローレンス・アブ・ハムダーン:可聴化される音響の地政学


ローレンス・アブ・ハムダーン:可聴化される音響の地政学

Lawrence Abu Hamdan

ローレンス・アブ・ハムダーン(Lawrence Abu Hamdan/1985- )ヨルダン・アンマン生まれ)は、ドバイを拠点に活動する現代美術家、作家、そして音響研究員である。自らを「プライベート・イヤー(Private Year)」と称し、音や聴取の政治的・法的側面を鋭く問い直す活動を展開している。

経歴と研究

ローレンス・アブ・ハムダーンは、ロンドン大学ゴールドスミス校で博士号を取得しており、音響がいかに法的証拠や人権問題に寄与するかを学術的・実践的に研究してきた。その専門性は芸術の枠を超え、英国の移民・難民裁判におけるアクセント分析や、アムネスティ・インターナショナルなどの国際機関との共同調査にも活用されている。

Abu Hamdan - 見えない犯罪を耳で調査 フォレンジック・アーキテクチャーは世界を聞いている | WIRED
Lawrence Abu Hamdan - Conflicted Phonemes 2012
Lawrence Abu Hamdan - This whole time there were no landmines  2017  

2019年のターナー賞は

2019年のターナー賞は、ノミネートされたファイナリスト4名全員が共同で受賞
2019年には、ローレンス・アブ・ハムダーン(Lawrence Abu Hamdan)の他の3人の候補者と共にターナー賞を共同受賞したことで世界的に大きな注目を集めた。
(註)この年は4人が連名で審査員に「連帯の象徴として、私たち4人をグループ(コレクティブ)として扱ってほしい」という書簡を送った。

・ヘレン・カモック (Helen Cammock):映像、写真、パフォーマンスを通じ、歴史から疎外された女性の声や社会史を掘り起こす。
・オスカー・ムリーヨ (Oscar Murillo):コロンビア出身。絵画やインスタレーションを用い、グローバル化、労働、コミュニティなどのテーマを扱う。
・タイ・シャニ (Tai Shani):演劇的なインスタレーションやパフォーマンスで、フェミニズムや神話的なポスト家父長制の世界を構築する。

表現手法と主要なテーマ

彼の作品は、ビデオ、インスタレーション、パフォーマンス、オーディオ・ドキュメンタリーなど多岐にわたる。一貫しているのは、「聴くこと(listening)」を通じて、公式の記録から漏れ落ちた不正や暴力を可視化(可聴化)する試みである。
証言と記憶: シリアのセイドナヤ刑務所を生き延びた囚人たちの「耳の目撃証言(Earwitness)」に基づき、暗闇の中で音だけで空間や出来事を把握せざるを得なかった記憶を再現した。

主なコンテンツ

1. セイドナヤ(Saydnaya)

Saydnaya - Lawrence Abu Hamdan

シリアの評価の低い、セイドナヤ軍事刑務所をテーマにした調査プロジェクトだ。
囚人たちは目隠しをされ、完全な暗闇と沈黙を強要されていた。アブ・ハムダーンは生存者へのインタビューを通じ、彼らが記憶していた「音」(足音、水滴の音、拷問の響き)を解析。 視覚情報が一切ない場所の構造を「音の記憶」だけで再現し、そこで行われていた人権侵害を可視化した。この調査はアムネスティ・インターナショナルと共同で行われ、国際的な報告書にもなった。

2. ラバー・コーテッド・スティール(Rubber Coated Steel / ゴム被覆弾)

lawrence abu hamdan - rubber coated steel 2016

2014年にパレスチナで起きた、イスラエル軍による少年射殺事件を扱ったビデオ作品だ。軍は「ゴム弾(非致死性)を使った」と主張したが、アブ・ハムダーンは現場の音源を波形解析し、実際にはゴム弾に見せかけるために消音器をつけた「実弾」が発射されていたことを科学的に証明した。 音が裁判における決定的な「物的証拠」になり得ることを示し、彼の「フォレンジック(法医学的・科学捜査的)」な手法を象徴する作品となった。

3. ウォールド・アンウォールド(Walled Unwalled / 壁に囲まれて、壁を越えて)

lawrence abu hamdan - walled unwalled 2018

2019年のターナー賞ノミネート時にも展示された、彼の思考を凝縮した映像作品だ。「壁」を透過する音や電波に焦点を当てている。有名なオスカー・ピストリウスの裁判(壁越しに聞こえた悲鳴が証拠となった)など、壁がもはや情報の境界として機能していない現代の法的・空間的状況を、独白形式で描き出す。 建築、法、プライバシー、そして聴覚の関係を哲学的に考察した代表的な映像インスタレーションである。

Earshot

Earshot: 2023年、彼は人権や環境の擁護のために音響分析を行う世界初の非営利団体「Earshot」を設立した。

最後に

アブ・ハムダーンにとって、音は壁を越えて「漏れ出す(leak)」ものであり、境界線を曖昧にする。彼はこの特性を利用して、国家権力による監視や言語的な差別の実態を暴き出す。単なる音響の提示に留まらず、聴覚的な経験がいかに記憶や真実に結びつくかという哲学的・政治的な問いを投げかけ続けている。

-artoday

Meet the Artists | Lawrence Abu Hamdan

Art Basel  4:22min 設定から日本語にできます。


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