モハンマド・サーミ:不在の記憶
モハンマド・サーミ:不在の記憶

イラク出身の画家モハンマド・サーミ(Mohammed Sami/1984- )は、現代美術界で最も権威ある賞の一つ、2025年ターナー賞の候補に選出された。彼の作品の最大の特徴は、巨大なキャンバスを用いながらも、あえて「人間の姿」を一切描き込まない点にある。
不在の気配

モハンマド・サーミは、かつての独裁政権下のイラクで過ごした経験や、その後の亡命生活といった極めて個人的かつ政治的な背景を抱えている。しかし、彼は戦争の悲劇を直接的な惨状として描くことはしない。代わりに、無人の部屋、不自然に落ちる影、あるいは古びた壁紙といった、日常の断片を圧倒的なスケールで描き出す。観る者は、そこに描かれた静かな光景の奥に、かつて存在したはずの人間や、暴力が過ぎ去った後の静寂、そして拭い去ることのできない「不在の気配」を感じ取ることになる。
直接描かずに想起させる



この「直接描かずに想起させる」という独自の手法は、戦争の記憶やトラウマという重層的なテーマに対し、視覚的な暴力性を超えた深い省察を促す。静物や空間そのものに物語を語らせる彼の絵画は、個人の記憶を普遍的な喪失の痛みへと昇華させている。2025年のターナー賞において、彼の提示する静かなる衝撃は、現代社会における絵画の可能性を再定義するものとして高く評価されている。
最後に
直接的な描写を避け、観る者の想像力にトラウマの追体験を委ねるサーミの表現は、現代美術における新たな歴史画のあり方を提示しているのだろう。
ターナー賞関連
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