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人々は、燃え盛るローマから逃げた。ヒュベール・ロベール《ローマの大火》


西暦64年、ローマは燃えました。

古代ローマ史の中でも有名な出来事、ローマ大火です。

ローマ大火と聞くと、皇帝ネロの名前を思い浮かべる人も多いかもしれません。

「ネロが火を放った」という話は、今でもよく語られます。

けれど、ヒュベール・ロベールの《ローマの大火》を見ていると、まず目に入るのは皇帝ではありません。

そこにいるのは、炎から逃げる人々です。

持てるものだけを抱え、
身を寄せ合い、
燃える街を振り返りながら、
人々はローマから逃げようとしています。

歴史の中の「名もなき人々」

歴史は、たいてい大きな名前で語られます。

皇帝。
王。
戦争。
革命。
都市の崩壊。

ローマ大火もまた、ネロという皇帝の名前とともに語られることが多い出来事です。

でも、この絵の手前に描かれている人々には、名前がありません。

彼らがどこの家に住んでいたのか?
何を失ったのか?
誰と一緒に逃げていたのか?

それは分かりません。

それでも、画面の中の彼らは確かに存在しています。

荷を抱える人。
身を寄せる人。
振り返る人。

歴史の本では「ローマ大火」と一言で書かれる出来事も、その夜を生きた人々にとっては、暮らしが焼け落ちる現実だったはずです。

炎は、すぐそこまで迫っている

画面の奥では、ローマの街が炎に包まれています。

赤く燃え上がる火。
その前に立つ巨大な建築。
そして、その中に小さく描かれた人々。

この絵では、炎そのものも恐ろしいのですが、それ以上に印象的なのは、人間の小ささです。

巨大な都市が燃えている。

けれど、人々にできることは限られている。

持てるものを持ち、
誰かと身を寄せ、
ただ逃げる。

この絵の恐ろしさは、炎の大きさだけではありません。

人間が、自分ではどうにもできない出来事の中に放り込まれていること。

そこにあります。

ネロの放火説は、確定した事実ではない。

ローマ大火には、皇帝ネロの放火説もあります。

火事のあと、ネロは焼け跡に巨大な宮殿を建てました。

そのため、「ネロが宮殿を建てるために火を放ったのではないか」という説も語られるようになりました。

ただし、これは確定した事実ではありません。
ネロが本当に火を放ったのか。

それとも、火事のあとに巨大な宮殿を建てたことで疑われたのか。

そこには、今も噂として残る部分があります。

だから、この絵を見るときも、ネロの話だけに引っ張られすぎない方がいいのかもしれません。

この絵の中に描かれているのは、噂の中心にいる皇帝ではなく、炎から逃げる人々なのです。

廃墟を描いた画家

この作品を描いたヒュベール・ロベールは、古代遺跡や廃墟を多く描いた画家です。

彼は「廃墟のロベール」とも呼ばれました。

崩れた神殿。
失われた都市。
古代の建築。

時の流れに取り残されたような場所。

ロベールは、そうした風景を繰り返し描いています。

けれど、彼はただ遠い昔の廃墟を眺めていた画家ではありません。 

のちにフランス革命の混乱に巻き込まれ、投獄され、命の危険にもさらされました。

廃墟を描いた画家は、やがて自分自身も、時代が崩れていく現実の中を生きることになります。

そう考えると、《ローマの大火》はただの歴史画には見えません。

燃える都市。
逃げる人々。
崩れていく秩序。

ロベールは、遠い古代ローマの出来事を描きながら、文明が壊れる瞬間の怖さを見つめていたのかもしれません。

その夜、人々はどれほどの恐怖の中を逃げたのか

西暦64年、ローマは燃えました。

その出来事は、今では「ローマ大火」と呼ばれています。

ネロの噂とともに語られることもあります。

けれど、この絵を見ていると、そこにあるのは噂だけではありません。

荷を抱える人。
身を寄せる人。
燃える街を振り返る人。

大きな歴史の出来事の中にも、そこには必ず、逃げるしかなかった人々がいます。

都市が燃える。
暮らしが失われる。
それでも、人は生き延びるために歩き出す。

ヒュベール・ロベールの《ローマの大火》は、燃えるローマを描いた絵です。

でも同時に、その炎の中を逃げた、名もなき人々の姿を描いた絵でもあります。

その夜、人々はどれほどの恐怖の中を逃げたのでしょうか?

作品情報
《ローマの大火》
ヒュベール・ロベール
18世紀の作品です。

あわせて読みたい本
この《ローマの大火》は、ただ「燃える街」を描いた絵ではありません。

西暦64年に起きたローマ大火、皇帝ネロにまつわる噂、そして炎から逃げる人々の姿。

古代ローマの歴史を少し知るだけで、この絵の見え方はかなり変わります。

古代ローマの背景を知りたい方に
ローマ大火やネロの時代について知りたい方には、まず古代ローマの入門書がおすすめです。

ローマという都市がどんな場所で、皇帝たちがどのような時代を生きていたのかを知ると、絵の中の炎がただの演出ではなく、ひとつの歴史の場面として見えてきます。

絵画に描かれた災厄を知りたい方に
もう一冊おすすめしたいのが、災害や戦争、疫病などが絵画の中でどう描かれてきたのかを知る本です。

《ローマの大火》のように、絵画には美しさだけでなく、人々の恐怖や喪失、時代の不安が描かれていることがあります。

「怖い絵」や「歴史の暗い場面に惹かれる」という方には、こちらの方が刺さるかもしれません。

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ローマ大火を歴史として知るなら、古代ローマの本。

絵画に描かれた恐怖や災厄をもっと深く味わうなら、災厄の絵画史。

どちらも、この《ローマの大火》をただの「火事の絵」ではなく、人々の暮らしや時代の記憶が刻まれた一枚として見る助けになると思います。

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