小説『俺たちの膝栗毛』
静岡市に住む俺、三郎は途方に暮れていた。愛用していた大手鉄道会社の格安切符、白秋68きっぷのルールが変更になり使い勝手が悪くなってしまったのだ。これでは、もう気ままな旅に出ることはできない。
俺は自分の年収を確認した。
「うわっ…私の年収、低すぎ…?」
働いていないのだから当然だ。だが、この絶望的な数字を前に、旅を諦めるしかないのか。尊敬する静岡の偉人、十返舎一九先生なら、こんな時どうしただろう。先生は、江戸の地から京都へと旅に出た弥次さん喜多さんを創造した。俺も、何かを創造しなければならない。
俺は、数少ない友人である太郎に電話をかけた。
「太郎、白秋68きっぷが…」
俺の嘆きを聞き終えた太郎は、静かに、しかし力強く言った。
「逆に考えるんだ。『歩けばいいさ』と考えるんだ」
その言葉に、俺は雷に打たれたような衝撃を受けた。そうだ、そうだ、この手があったか!交通機関に頼るからいけないんだ。俺たちが今いるこの静岡の地から、江戸の日本橋まで、旧東海道を歩いて行けばいいのだ!
俺と太郎は、早速計画を立てた。太郎が道中の食事と宿泊代を負担し、俺が旅の行程と、道中の珍道中を記録する。まるで、現代版の『東海道中膝栗毛』だ。
そして、旅の初日。俺たちは駿府城公園にある《弥次喜多銅像》の前に集合した。江戸時代、江戸から東海道の旅に出てここへ来た二人の像が、まるで俺たちを激励しているようだった。
俺は銅像を見上げて、胸いっぱいに息を吸い込んだ。太郎も隣で同じようにしていた。
「よし、行くぞ!」
俺たちは互いの顔を見合わせ、声を揃えて叫んだ。
「俺たちの戦いはこれからだ!」
あとがき
自分も旧東海道を歩いてみたい、そんなふうに考えていた時期が俺にもありました。
JRの青春18きっぷがルール変更で売上激減というニュースを見て、ふとそんなことを思い出しました。旅に出るお金がないなら、歩けばいいじゃないか!
十返舎一九先生の偉大なるコメディに敬意を表し、現代のニートの二人組が繰り広げる珍道中を描いてみました。
俺達の戦いは、これからだ!
